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新聞記者やめます。あと73日!【「筆者同盟」結成をここに宣言します!】

3年前に言論サイト「論座」の編集者となった時、元外交官の田中均さん政治学者の中島岳志さんのところへ真っ先に駆け込んだ。著名な言論人に執筆していただくのは言論サイトの生命線である。おふたりをはじめ各界で活躍するオピニオンリーダーたちに快く執筆を引き受けていただき、編集者としての職責は十分に果たしたという思いだ。

一方で、編集者冥利に尽きるのは、まったく無名の筆者を発掘した時である。鋭い観察眼・分析力を持ち、それぞれの専門分野に精通していながら、私が筆者として起用しなければその識見を広く世の中に示すことはなかったであろう「埋もれた言論人」を掘り起こした時ほど、至福の時はない。

最も心に残る筆者の一人は、明治学院大学教授の徐正敏さんである。徐さんは韓国で著名な宗教学者だ。その意味で「埋もれた言論人」の発掘とは言えない。それでも私が徐さんに「論座」への寄稿を依頼したことは「埋もれていた何か」を掘り起こす画期的な仕事であったという手応えを感じずにはいられないのである。

私が徐さんにお願いしたのは、今日の微妙な日韓関係について、母国語である韓国語と、外国語である日本語の二か国語で執筆していただき、日本語サイトである「論座」に同時掲載するという前代未聞の企画であった。私の新聞社の媒体にハングルのコラムが載ったのはおそらく初めてではないか。

徐先生曰く「論文を日本語で書く事はできても、コラムを日本語で書くのは難しい」。行間に余韻を残し読者の共感に訴えるコラムを「外国語」で執筆することは、論理を組み立てていく論文を書くよりもはるかに難しいというのである。まして私が求めたコラムのメインテーマは、悪化の一途をたどる日韓関係であった。センシティブなテーマを微妙なニュアンスを含めて日本語で表現するのは、日本で暮らす韓国の高名な学者として大きなリスクを伴うことだった。

このやっかいな依頼を徐さんは快諾してくれた。日本で暮らす徐さんは自らをマイノリティー代表であるという。幼い時から足が不自由で車椅子や松葉杖を使っている。キリスト教徒である。外国人である。

その徐さんが日本の読者に向けて外国語である日本語で書き上げたコラムの数々は、マイノリティーの視点で貫かれていた。そしてそれは私がそれまで見たことのない魅力に包まれた文章であった。どこまでも温かく、どこまでも優しいのだ。

それは「論座」で連載することがなければこの世に生み出されることのなかった「未知の創作物」であった。その魅力は私の筆力では表現しきれない。「日韓関係論草稿〜ふたつの国の溝を埋めるために」として朝日新聞出版から書籍化されたのでぜひ手に取っていただきたい。「論座」の過去記事でも検索できる(いずれもステキなコラムだが、私のオススメは『小学3年生の私が授業で描いた「反共ポスター」』『障害者と一緒に人生を生きるということ』『貧乏くさい学者で私はありたい』の3点だ)。

千葉市の公立中学の英語教師をやめ、ニューヨークへ教育学を学びに留学し、帰国後は高知県土佐町に移り住んだ鈴木大裕さんとの出会いも新たな気づきを与えてくれた。ニューヨークのスラム街の小学校へふたりの娘を通わせた実体験に基づいて、米国の公教育が崩壊している現状を伝える寄稿の数々に、私は「第一読者」である編集者として強い衝撃を受けた。それは経済格差・階級格差を固定化させる「教育の市場化」の恐ろしさを浮き彫りにし、その世界的なうねりに日本ものみこまれつつあると警鐘を鳴らすものだった(私のイチオシは『日本の公教育の崩壊が、大阪から始まる』)。

私はマスコミ報道でそうした視点に接したことがなかった。鈴木さんは今、土佐町議会議員となり、過疎化が進む地方からの視点で教育論を訴えている。実に説得力がある内容なので注目してほしい。今後のご活躍が楽しみだ。

大阪を拠点に外国人や障碍者などマイノリティーが直面する問題に取り組む岩城あすかさんの記事はいつも胸に迫ってくるものがある(私のイチオシは『相模原障碍者大虐殺事件 劇団態変の闘い』)。「日韓境界人」としてアイデンティティーの問題を掘り下げる韓国在住の蔵重優姫さんの視点も新聞では滅多にお目にできない迫力だ(私のイチオシは『日本人よ、韓国人よ、在日コリアンよ、私は私だ!』)。

他社のジャーナリストに「論座」へ寄稿いただいたのも新鮮な試みだった。なかでも琉球朝日放送の島袋夏子さんの記事は印象的だった。ギャラクシー賞受賞など輝かしい経歴を持つテレビ記者なのだが、はじめて挑戦するという長文の論考も切れ味が鋭かった(私のイチオシは『翁長雄志の遺言』)。文章、映像、写真など表現の仕方は違っても、ジャーナリズムに通底するものは同じなのだ。

その島袋さんにご紹介いただいた元NHKディレクターで沖縄在住の阿部藹さんの原稿にはいつも感嘆させられた。NHK退局後に学んだ国際人権法の視点で沖縄の様々な問題を切り取る彼女の記事は、日本のマスコミ報道ではほとんどみられないオリジナリティ溢れる内容である(私のイチオシは『沖縄県民投票に「意味はあった」~あれから2年、大浦湾に潜った』)。

「埋もれた言論人」の発掘こそ、編集者の最大のよろこびである。

私は新聞社を去って自分自身が「小さなメディア」になろうと決意し、このホームページ「SAMEJIMA TIMES」を立ち上げ、ひとり執筆を続けてきたのだが、先日のコラムで「やはり仲間が必要だ」と訴えたのは、多くの社外筆者たちとともに「論座」をつくりあげる楽しみを知っていたからだった。

彼彼女らは自立した書き手として立派に歩んでいる。私にいま必要なのは、新しい仲間であろう。

私の呼びかけに、何人かの読者がさっそく応えてくれた。連載「新聞記者やめます」を始めるまで、まったく面識のなかった方々である。私は「SAMEJIMA TIMES」へ寄稿していただけないかと打診した。大新聞社が運営する「論座」と違って、原稿料をお支払いする余裕はない。それでも私と一緒にここで執筆し、何かをともに築き上げていく「仲間」に加わっていただけるというのである。なんとうれしいことか。

私はこの仲間たちとのつながりを「筆者同盟」と名づけることにした。私自身を含め、巨大メディアや著名な言論人にはとてもかなわないちっぽけな個人が寄り添う弱小チームだとしても、手を取り合い束になって前へ進めばきっと道は開ける。そんな思いを込めた。

この「SAMEJIMA TIMES」に「筆者同盟」というコーナーを新設し、そこで自由に執筆してもらいたいと思っている。同盟の輪が広がり、そこへ参加したメンバーの寄稿がいつか誰かの目にとまり、ここから言論人として、コラムニストとして、大きく飛躍していただければ、この上ないよろこびである。

筆者同盟の一番手は、ユーラシア大陸の反対側に浮かぶアイスランドに移り住んだ小倉悠加さん。今宵、彼女のコラムを公開するので乞うご期待!

これで私のカオ写真ばかりが並ぶこのサイト最大の欠陥はクリアできそうだ。もちろん、私の「新聞記者やめます」も退職日まで休まずに続けます。

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