アイスランドの自然はどの季節もそれぞれに個性があり、同じ場所を何度訪れても飽きないし、飽きるほど頻繁に訪れることもできない。今年は温暖なのか、今シーズン最後、最後といいつつ、10月18日にまたまたダメ押しで最後のハイランド・ドライブへと出向いた。
走ってきたのは以下の道路。ときどき、寄り道をして細かな道路を通りもした。
F261(Emstruleið)
F210(Fjallabaksleið syðri: Snæbýli – Emstruleið)
F232(Öldufellsleið)
[ F261(Emstruleið)]この道で最も有名なのはカラフルな渓谷のマルカルフョッツグリューフルだろう。舌を噛みそうな名前だけど、最近は慣れたもので、アイスランド人に通じるように発音できるようになってきた。
上記のコラムを読み直すと、この渓谷に到達する前に川を渡る必要があると書いてある。今回同じ道を走っているけれど、川の流れの変化やパイプを配備した場所もあり、川を渡る必要がある場所はほとんどなくなっていた。少し残念。
車で川をじゃぶじゃぶと進むのはなかなか楽しい。楽しみが削がれたような気がする。
いい天気なのに車は少ない。夏の間はそこそこの交通量がある道でも、シーズンのピークが過ぎ、霜が降り、道路の状態がよくわからなくなってくるとガクンと交通量が減る。
だ〜〜れもいない道は好きだけれど、ゼロも困りものだと正直思う。何かあった時に助けを呼ぼうにも電波が届かない場所が多い地域なので、健康そうに走っている車に助けてもらうしかない。ある程度の交通量はお互いの安全確保のためでもある。




ドライブへ出向いた日の投稿を見つけた。霜は降りていても雪はないので走行しやすく、周囲のピリリとした空気も素晴らしかった。風もなくて外に出てもひどくは冷えなくて、こんな絶頂ドライブ日和になぜみんな来ないのか不思議だ〜。
今回はカラフル峡谷へは行かず、その反対側を目指した。川を隔てた対岸は世界のハイカーが憧れるロイガヴェーグルのハイキングルートでもある。よく人を見かけるので、一度行ってみたいと思っていた。
道中はうっすらと地表や草が凍てつく見渡す限りの霜の世界が美しかった。けれど、対岸から見たカラフルなん峡谷はイマイチだった。ビューポイントは絶対的に普通の駐車場側の方がいい。
この峡谷、普通に行くビューポイントは車を止めて10メートルも歩けば目の前にカラフルな絶景が広がる。反対側は車を止めて500メートルほど歩く。たいした距離ではないし、ごく普通に歩くことはできる。
対岸には来たけれど、霜がすでに氷となって岩盤などに張り付いていた。霜をサクサクと踏みしめながら進むのは、小学校の頃の白息が白かった時代の通学を思い出して楽しかった。けれど、足元が滑りそうな場所は少なくなく、安全を考えると川が見える絶壁までは行く気がしなかった。日照も峡谷には届いてないので、写真写りもイマイチですよね。



景色はイマイチだったけれど、対岸からはどのように見えるのかは興味があったので、これで好奇心は満たされた。
それに、私は植物が好きだし、凍り始めの時期は独特の光景なので、そういう時期にハイランドを訪れることができたのが嬉しかった。



緑の苔の上にも霜が


カラフルと表現するにはいささか色の種類がないけれど、それでも剥き出しの山、霜がおりた大地、太陽の熱で霜が溶かされ、まだ青みが残るも茶色に紅葉した苔やら霜が残ってる白いところやら、いろいろな色が混じり合っている風景は貴重だ。
以前ここの道路を走った際、小さな蜘蛛が石の上にいた。歩き回っていたことを思い出した。そういった小さな存在は、冬はどうしているのだろう?ここは完全に雪や氷で閉ざされてしまうのに・・・。

F261 号線はF210号線にぶつかって終わる。F210を西側へ走ればレイキャビク方面へ出る。それではまったく面白くない。F210を東に走れば、まだまだ面白いことが待っているし、この日の目的はそこにあった。
夏の真っ盛り、F210は赤いビックリマークが3箇所もついていた。今年は水が多く、大型車でも沼って動けなくなったり、川が大き過ぎてエンジンが死んだりと、てんやわんやだった。そのビックリマークはとうとう8月末でもなくならず、今年は我が家のジムニーでは歯が立たないと思っていた。
ところが、さすがに10月ともなればその注意書きもとれた。でもこの時期ハイランドを走れるのか?
小型車なので雪道はスタックすると思った方がいい。特にハイランドは標高が高いし、雪がたまりやすい場所があちこちにある。雪が降ればもうジムニーでは走行できない。
けれど、今年の10月は雪が少なく、少しばかり振ったとしてもその後晴天が続いてほとんど雪がない状態だった。
ラッキー!行こう行こう、絶対に行こう!
それでもF210の川は大きかった。


これだけ大きな川は久々かも〜。ジムニーは問題なく渡れそうだ。よかった。それから、川が出てきたらとたんに前に一台車が現れた。その渡河も見て問題ないことはわかった。
それにしても6時間一台も対向車も同方向の走行車も見なかったのに、ここに来て現れるとは不思議。どちらにしてもありがたい。
渡河に30秒かかったので、そこそこ広い川だった。
そうして少し走ったところに私たちが目的としたフライヅル(つづりがわからん・・・)という場所がある。水が広く浅く広がる、干潟のようなビシャビシャの場所。水は流れているので広い川みたいな感じで干潟でもない。
去年走ったので、今年も走ってみたかった。これは去年走行した際に私が撮った動画。今年は逆方向から走行した。
今年は前述のように、大型車でもこの場所から動けなくなり、レスキューの車両を送りことさえ困難だった場所だ。赤いビックリマークがついて当然だった。
けれど、10月の下旬の今はすいすい通れるような気配だったのでやってきたのだった。
幸いなことに我々の前には一台、ランドクルーザーがいる。もちろんジムニーよりも大きいけれど、目安にはなる。そこそこの距離をとりながら走ることにした。
ところどころは凍っていたけれど、ほとんど問題なく走ることができた。前に車がいたのは安全の点ではありがたかったけれど、どうなるの?というドキドキの楽しみは少し減ったかな。どちらにしても、去年一度走っているので、全く未知の場所ではないから来てみた、ということもある。



驚いたことに、F210を抜けると「通行止め」の標識が置いてあった。ん?道路交通局の公式サイトを見ても通行止めにはなっていないし、逆側(F261)から入る場所にはそのような標識は一切なかった。
近年増えているのがこれだ。
不案内な観光客が迷い込んでレスキューのお世話になることが増えている。我々が通った干潟っぽい場所は、一度走り始めたら絶対に止まってはいけない。とりあえず走れ!というのが絶対の約束だ。大きな川は流れに逆らわずに行け、窓は開けておけ等。ローギアがあればそれを使うこと。
心得のない車が来ないよう、魔除け(?)みたいな感じになっている。
レイキャビクから近く、我々がよく行く52号線などもそうしてある。道路の公式サイトでは普通にオープンしているのに、実際の道路には通行止めの標識が置いてあったりする。うーむ。
[ F232(Öldufellsleið)]リベンジ道まできた!ここにはBlafjállafossという滝が落ちるキワを通る箇所がある。新型車の宣伝などにも使われる有名な場所だ。
ここで動画を撮りたい!というのがもう一つの目的だった。去年通った際に撮ろうと思っていたところ、対岸にいたハイカーが「動画撮ったから後で送るよ」と言われたので、それでいいかと思ってしまったのだ。けれど、ハイカー氏は待てど暮らせどその動画を送ってくれない。なので今年こそ!というリベンジだった。
で、私が撮った動画は以下のツイートでご覧ください。夕刻が迫っていて、最高の条件ではないけれど、それなりに撮れたかと。一応これで私も彼も満足した。
さてさて、これで目的を果たして後は帰るだけ。ではあるけれど、帰宅路はかなり長い。1号線に出てから3時間以上かかる距離だ。たぶんこの日の走行距離は500キロを超えている。クレイジーでしかない。普通はヴィークあたりに宿泊するのが妥当なやり方だ。
この滝を過ぎると、帰路が憂鬱だぁ〜という話になった(苦笑)。
それでも、思いがけず素晴らしい夕焼けに出会うことができて満足。この世の中は素晴らしい色彩に溢れている。そう心底思わせてくれる夕焼けだった。

日没後、外光が消え去る前にとりあえずは1号線に出られた。あとはもう、舗装道は面白くないけど早くてありがたいとか、そういう話をひたすらしながら、時にアップな気分になる定番のマイコー(マイケル・ジャクソン)などを聞きながら進むだけだ。
自分用のメモとして書いておけば、この日は実は濃霧が発生しており、1号線に出たとたん、あちこちで途切れ途切れに視界が数メートルしかない濃霧に見舞われた。
高地で濃霧に出会わなくてよかったとしか言いようがない。周囲が見えず、狭い場所に閉じ込められたようになる濃霧は私が一番嫌いな天候だ。
非常に不快な濃霧にあちこちで悩まされた。
そしてこの夜はオーロラに恵まれた。我々は1号線をあまり大きく外れたくなかったので、テキトーにそこらへんに車を停めた。鉄塔が邪魔くさかったけれど、写真を見てみると意外もシュールでいける写真になっていた。

自宅に戻ったのは確か23時ごろだった。それでも深夜までに帰れてよかった。
自宅のバルコニーからも、こんなカラフルなオーロラが撮れた。

いやはや、ものすごく盛りだくさんの1日だった。
そしてこのドライブから10日後の10月28日。レイキャビクには観測史上最大の積雪を記録した。交通は麻痺し、当然ハイランドにも雪が積もった。もう今年そこへドライブに行くことはできない。
あの日、あの時、あの道を走ってきてよかった。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
