東京五輪の開会式はどうでしたか?
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東京五輪の開会式はどうでしたか?
この開会式は、本番4日前に音楽担当の小山田圭吾氏が障害者虐待の体験をひけらかす過去のインタビューが発覚して辞任に追い込まれ、本番前日に演出担当の小林賢太郎氏が過去のコントでホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を揶揄したことが発覚して解任されるという前代未聞の展開をたどりました。「人間の尊厳」を高らかに掲げて「差別の禁止」をうたうオリンピック・パラリンピックの開会式の企画演出を任された主要メンバーたちの「歪んだ人権意識」を世界に向けてさらけ出してしまったのです。
なぜこのような人々が開会式の企画演出を担うようになったのか。彼らを起用したのは誰かーー。東京五輪は巨額の税金が投入される巨大国家プロジェクトです(開閉会式の予算上限は165億円とされる)。本来はこのような人物を起用した経緯とその任命責任が厳しく追及されなければなりません。
ところが、東京五輪スポンサーに横並びでなった朝日、読売、毎日、日経、産経の大手新聞社には開会式の裏側に厳しく迫る検証記事は見当たりません。五輪中継で多額のCM収入を得るテレビ各社も同様です。マスコミは東京五輪という巨大利権を追及するどころか、その利権の中に身を投じてしまったのでした。
開会式の裏側を暴いたのは、週刊文春でした。開会式翌日の文春オンラインの報道をもとに、今一度、「歪んだ人々が企画演出した歪んだ開会式」の実像に迫ってみましょう。
文春報道によると、東京五輪組織委員会が当初、開会式の執行責任者に起用したのは、振付演出家のMIKIKO氏でした。新進気鋭の若手クリエーターです。
彼女が当初企画してIOC側にプレゼンした「幻の開会式案」を文春は入手して報じています(《幻の東京五輪開会式案》『AKIRA』のバイクが駆け抜け、スーパーマリオが競技紹介… 渡辺直美も絶賛した「MIKIKOチーム案」の“全貌”)。最新技術の立体映像を駆使して東京の街を浮かび上がらせる意欲作です。
文春はプレゼン資料の写真を紹介しながら「女性ダンサーたちが、ひとりでに走る光る球と呼吸をあわせて舞う」「世界大陸をかたどったステージの間を、各国のアスリートたちが行進。各種競技の紹介は、スーパーマリオなどのキャラクターのCGが盛り上げていく」などと伝えています。
この「幻の開会式案」で重要な役割で登場することになっていたタレントの渡辺直美さんもYouTubeで「その演出がマジ鳥肌! かっこいいし、最高の演出だった」などと絶賛していたといいます。それは2021年7月23日に国立競技場で実際に披露された開会式の演出とはまるで違う内容でした。
MIKIKO氏が開会式の「執行責任者」に就任したのは、2019年6月3日でした。文春が入手した「幻の開会式案」のプレゼン資料の日付はコロナ禍で大会開催の一年延期が決まった直後、2020年4月6日になっています。組織委幹部は文春の取材に対して「IOC側は『よくここまで準備してくれた』と大喜びでした」と語り、「幻の開会式案」の評価が極めて高かったことを打ち明けています。
ところが、MIKIKO氏は「幻の開会式案」をプレゼンした約1カ月後の2020年5月11日、電通の代表取締役から突如として責任者の交代を通告されたのでした。
彼女の後任に就いたのが、電通出身のCMクリエイターである佐々木宏氏です。この佐々木氏のもとでMIKIKO氏の「幻の開会式案」は棚上げされました。佐々木氏のもとに今回の開会式の演出チームが結成され、演出案は別のものへ作り直されたのです。
その佐々木氏は、タレントの渡辺直美の容姿を侮辱する演出案を披露したことを理由に今年3月18日、辞任に追い込まれました。そして小山田氏や小林氏の「人権軽視」問題へ連鎖していったのでした。
一連の経緯が示すのは、開会式を牛耳ってきたのは電通であるという事実です。
電通の「中抜き」体質からして、MIKIKO氏を解任して佐々木氏を起用したのは、巨額予算を思いのままに使い、開会式の人選や演出も思いのままに決めるためでしょう。電通の「閉鎖的な利権体質」や「内向きの縁故主義」が色濃く反映された開会式となったのです。電通が東京五輪組織委員会のなかで幅を利かせている背景には、電通と密接な関係にある森喜朗元首相や安倍晋三前首相の存在があるのは間違いありません。
佐々木氏、小山田氏、小林氏と連鎖した「人権軽視」による辞任・解任劇は、「歪んだ組織」の「歪んだ運営」が一挙に噴き出したものといえます。
巨額の税金を投じて作られた開会式の経緯は、必ずや検証されなければなりません。スポンサーの大手新聞社が日本選手の金メダルラッシュで五輪を盛り上げる報道にいそしみ、開会式の「影」の部分を見てみぬふりをするのは決して許されません。
私は東京五輪の開会式を「時代感覚や国際感覚に欠けた稚拙で退屈な演出だった」と酷評してきました。改めてその裏側に迫る文春報道に接すると、私たちの国は時代の最先端をゆく技術力も企画力も人材も持ち合わせていたにもかかわらず、既得権益にしがみつく勢力が新しい芽を摘んだ成れの果ての開会式であったという思いを強くします。
歪んだ組織からは歪んだ作品しか生まれません。そこに日本凋落の原因を見る思いです。私たちは歪みの元凶を断たねばなりません。
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