※オーストラリア在住の今滝美紀さんが日豪を比較しながら「変わりゆく日本」への思いをつづる連載です。
Gather, Dream, Amplify(集まろう、夢見よう、広げよう)のキャッチフレーズで、Mardi Grasマルディグラのパレードとパーティーが2月末にシドニーで行われました。
オーストラリア入植時、女性が少なかったため男性の同性愛者が増えたのは自然なことかもしれませんが、同性愛者の権利は、1994年まで認められませんでした。1978年、同性愛者の人々が、差別に抗議するためにマルディグラを始め、多くの参加者が警察に捕まったり、職を失ったりしたそうです。
それでもその後毎年開催され、今では原住民の人々も含めたLGBTQIA+を祝うシドニーで最大のフェスティバルとなりました。LGBTQIA+については、前回の記事で詳しく書きました。
マルディグラは、フランス語で「太った火曜日」という意味で、キリスト教の復活祭に向けて肉を断つ苦行の前に、思いっきり飽食をする日です。暴力ではなくお祭りとパーティ―で差別をなくそうと提案したRon Austinさんの呼びかけに、ある人が「マルディグラのこと?」と返したことで、偶然名前が付けられたそうです。(こちら参照)
同性愛に否定的なキリスト教のお祭りの名前が付けられたとは、皮肉が効いています。下の写真は、マルディグラ当日の街と人々の様子です。
今もマルディグラやLGBTQIA+の人々に好意的ではない人々もいます。世界最大のLGBTQIA+フェスティバルWorld Prideワールドプライドの最終日に、男性のグループ30人ほどが、抗議のデモを行ったと報道されました。
以下のツイートはChristian Lives Matterキリスト教信者の命は大切、という男性約30人のグループが「Hail Mary」と聖母マリアに祈りを唱えながらデモを行ったことを伝えています。
一方で、キリスト教信者の人々は国をつくる段階で、政府が行き届かなかった教育や慈善事業を行い、庶民を助けてきました。今もその活動は続いていています。
私はどの宗教にも傾倒していませんが、キリスト教はコミュニティの中心として人々を繋げ精神的に支え、ポジティブな社会づくりに貢献し、その役割が大きいことが分かるようになりました。統一教会とは、大きく異なります。
写真にあるようにMari Guraマルディグラの日に街に出ると、ファッションに凝った人々に出会うことができます。人種、性、体形、年齢など気にせず、自分が好きな表現したいファッションを楽しみ合おうという自由な雰囲気が流れています。
マイノリティーを大切にするというカラフルでハッピーなアート、色、活動、包容する空気の流れの広がりが、差別という攻撃的でダーク暗いものを消していくように見えます。
下の写真は、大抵どの地域にも一つ以上あるPubパブという、気軽に立ち寄り、飲み物や食事が楽しめる場所です。その入り口のサインには、Bank Hotelバンクホテルは、Newtownニュータウンのコミュニティーに120年以上仕えています。多様で美しいコミュニティーが私たちを形づくりました、それ以外何物でもありません。
Bankバンクはエオラの国の原住民ガディガルの人々の伝統的な土地にあります。私たちは、過去、現在、未来の年長者に敬意をはらいます、と書かれています。これは差別をせず、どんな人も年齢も関係なく、ここで楽しい時間を過ごしてほしいというサインだと思います。
オーストラリアは、18世紀後半にイギリスからの入植者が、原住民アボリジナルの人々を残虐に扱い、アジア人など有色人種も差別し排除する政策も1880年代から百年近く続きました。
今でも白人ではない移民に攻撃的な言動をとる政党「One Nation一つの国」があり、国会の上院で一議員ですが、去年の国政選挙で当選しました。2005年にはシドニーの南にあるCronullaクナラというきれいなビーチのある町では、主にアングロサクソン系の白人(イギリスを起源とする白人)の人々が、中近東の外見だと見られる人々を攻撃する暴動が起きました。オーストラリア国立博物館によると「俺たちはここで生まれて育った。俺たちのビーチだ。お前たちは、逃げて来たんだろ」と言うような罵声や怒号が飛び交い、分断と争いで「Living in harmonyハーモニーのように暮らそう」というモットーとは程遠い雰囲気でした。メディアの中近東の人々への印象操作が一つの原因だとも言われています。
イギリスからのキリスト教を中心に国をつくってきたオーストラリアで、もうじき世界で一番人口の多い宗教となるイスラム教の移民に対して、私の周囲でもネガティブな意見に触れることは確かにあります。
それでも当時、自由党(裕福層派+キリスト教に近い、自民党に似ています)首相だったHowardハーワード氏は「Multicultural Culture文化の多様性」という言葉を否定して、「One Australia一つのオーストラリア」を提唱しました。しかし世論で多くの国民がこれを反対し、多様性のある社会づくりに賛成しました。ハーワード氏は、同性愛者にも否定的でした。(こちら参照)
オーストラリアではキリスト教を基にしたというHillsongヒルソングという宗教団体がつくられ、世界約30ケ国に広がっています。なぜか日本にもキーウにもあるそうです。若者の教会離れの中、信者の約半数は若者で、聖書の教えというより、モダンな音楽、コンサートのエンタメが中心です。その教えの中に同性愛者批判やBlack Lives Matter黒人の命は大切運動で起こった黒人差別の黙認という差別があるようで心配されています。
数々のセレブも支持を表明しています。有名なロックグループU2のBonoボノや若者に絶大な人気のあるJustin Bieberジャスティン・ビーバーもその一人です。
ヒルソングの活動に近年のオーストラリアの自由党の首相たちは、参加し援助もしてきました。キリスト教信者へのアピールや選挙協力のためでしょう。日本の政治家が統一教会や創価学会と関わることに重なります。
また最近、オーストラリア国内で寄付をすれば神から恵みが与えられると教えられ、主に人々の救済に使われると思われた寄付の相当な額が、アメリカの聖職者への送金、セレブへの謝礼、幹部の贅沢な旅行や生活に使われたこと、豪の税務署に報告したが、何も起こらなかったことが報道されました。この寄付の不正な流用は、ヒルソングの内部告発で、無所属の国会議員Andrew Wilkie氏に報告されたことで明らかになりました。
キリスト教の本来の目的から大きく外れ、政治的・自己利益に宗教が使われているようで、統一教会の手法に類似し、世界にも広がっています。統一教会についても全容が解明されず、あやふやに終結されないことを願います。
昨年の政権交代前のオーストラリアの自由党+国民党と日本の与党政権は、驚くほど似ている点があります。例えばLGBTに否定的、宗教、裕福層と大企業優遇の財政、反中、メディアとの関り、少数派・公的教育と医療・環境問題への配慮の低さ、不正、隠蔽、ハラスメントなど、同じマニュアル本を使っているのではないかと思うほどです。
去年の労働党への政権交代で、前政権のこれらの政策は未来志向へ一転し、不正や隠蔽を明らかにする独立した機関が設けられます。とは言ってもまず、日本でも政権交代を起こさなければ始まらないので、別の回で投票率アップと政権交代のためのアイディアを考えていきたいと思います。
さて、話を戻します。日本は、ほぼ単一民族国家で、日常生活で差別される側にいるという感覚はほとんどないと思います。でも例えば被差別部落を設けたり、隣国の同じアジア人に差別をしたりすることで、国を治めた歴史もあります。
歴史を見ても差別が争いや戦争の原因や手段となってきたことは明らかです。ユダヤ人がナチスに差別され弾圧されたように、ウクライナで1年以上も続いている戦争も、2014年に暴力的な手段で政権を倒した革命で、米と西側に近い政権が誕生し、その後、ロシア国境付近の親露派が多いドンバス地域の人々が弾圧され始めました。ドンバス地方の平和への合意がロシアとの間に2015年に結ばれましたが、2019年ゼレンスキー氏は大統領就任後、新たに平和のための合意をロシアと結ぶことを拒否し、ウクライナ政府がこの親露派の人々への弾圧を治めなかったことが火種となりました。このことは、オーストラリアの国営放送の番組で放送されました。
世界を見るとパレスチナでは、英の賛同で始まったユダヤ人の入植で、米や西側に近いイスラエルが建国され、それから争いが70年以上続き、戦いは停戦どころかエスカレートしミサイルが飛び交い、多くの庶民やジャーナリストが命を失っています。もともと住んでいたイスラム教徒のパレスチナの人々の居住地は、どんどん縮小しています。この状況はまるで黙認されているようです。
イギリスを起源とする国々、英米加豪新はFive eyes5つの目という国のセキュリティーを共有し、他の国々と一線を引いています。米を一番の同盟国としている日本は入れてもらえていません。アメリカではコロナ後、アジア人をターゲットにした差別が起こりました。
その時オーストラリアで、コロナと差別は自覚がなくても持っていると思って、人に接しよう、という言葉に触れ、ハッとしました。「差別はダメだ」とは自信をもって言えます。でも国のリーダーである岸田首相が「差別の感覚はない」と自信満々に言い切ることは、無自覚にある差別について自覚せず、差別に対する危険感が低いのではと感じます。
どんな差別も黙認、容認するような政治家は要注意だと感じます。
誰もがパーフェクトではないこと、差別により国が混乱し秩序が乱れた失敗から、オーストラリアでは、1975年労働党政権で、人種差別禁止法が制定されその後、国と各州でも独自に、障害や疾病、人種、性、年齢、婚姻の状態により不当に扱われ、人権が侵されないよう差別反対の法律が制定されました。心の中や表現の自由はありますが、教育、職場や公共の場での差別は法に触れることになります。そのような場合、無料で相談や解決の場が与えられる機関が、州政府により設けられています。日常で差別されていると感じる時は、ほとんどありませんが法のおかげで平等に扱われ、守ってくれるという安心感がもてます。
そうでなければ、多様な人種や宗教が同居する中で、油断すると差別意識は簡単に芽生え、争いが絶えず起き、社会が荒れることは予想できます。
そうならないように、ただの楽しいお祭りという意味だけではなく、人々を包容するイベントや環境で平和な雰囲気づくりをすることの意味は、思うより大きいのだと思います。
豪Albaneseアルバニージ首相(労働党/庶民派+社会派)は、平等を受け入れ、彼らは何で、誰を愛しているかを認めるために、1983年からマルディグラで行進してきた。初めて参加する首相になれたことは光栄だ。誰もが尊重されるべきで、それを祝う日だと述べました。次のツイートです。
これから未来をつくっていく子どもたち、今を担っている若者たち、国をつくり支えてきた年配の人々が平等に尊重され、誰もが大切にされるというポジティブで明るいメッセージや雰囲気が、多くの人々に好意的に受け入れられたと感じます。
また、首相として宣誓する際、聖書を持たずに行い、政治に宗教をもち込まないことを示したことが話題になりました。
社会に波紋を広げ、問題視されたマルディグラは、誰でも自由、平等、尊重が得られることを願うために、今ではNSW州政府が行う毎年欠かせない大切なフェスティバルになりました。
下のツィートは、World Prideの最終日のイベントとして、シドニーブリッチで行われたパレードの様子です。Robynさんは、マーチに参加できない世界中の人々のことを考えながら行進しようと呼びかけ、首相は人を集め、繋げるのが橋の役目だ、この17日間は多様性と包容の素晴らしいお祝いだった。その豊かさを世界へ向けて送っているとしました。
World Prideのコンサートでは、夜空にレンボ―シャークが輝きながら泳いでいました。次のツイートです。
話題のニュース
1英国のミュージシャン、Harry Stylesハリース タイルズがシドニーでのコンサート中に、オーストラリアの原住民アボリジナルの旗を振りかざすパフォーマンスをし話題になりました。労働党政権のthe Voice to Parliamentという政策で、原住民の人々の声を国会に取り入れることを記すことを国民投票で決める予定です。それにYes賛成を呼びかけるものだと受け止められました。次のツイートです。
2Superannuationスーパーアニュエーションという退職金制度があります。職が変わっても非正規でも雇用主から支払われ、積み立てられます。スーパーアニュエーションにAU$3millions(3億円弱)以上ある人(人口の0.5%)は、今までその利益に税率が15%掛かっていましたが、30%にすることを労働党政権が決定しました。効果の少ない使い方にもかかわらず、前政権から引き継いだ100兆円の赤字を補うことと、より庶民に税の重荷が掛からないようにするためだとアルバニージ首相と財務大臣が説明しました。以下がそのツイートです。次の国政選挙後に実施する予定なのに、主要メディアは、公約違反ではないかと攻撃していました。
今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。