前回は、「沈黙の陰謀」としてオーストラリアでの先住民アボリジナルの人々が、帝国主義のイギリスからの入植で、迫害され少数派となり、移民を増やした後に民主主義・選挙制度が始まったことを書きました。
日本では、米国の政治がよく報道されるようですが、イギリスの政治手法・政策が日本に似ていると思います。
日本は江戸時代末期に、伊藤博文をはじめ長州藩(山口県)藩士たちが英国に受け入れられ留学し、倒幕運動をすすめ、西洋化を進めました。日英同盟も結ばれ、両国とも島国で、今も皇室が存在します。天皇皇后両陛下が6月に渡英され王室同士の良好な関係を示しました。イギリスは継続して影響を与えられている国でしょう。
怒りを爆発させる人々
西側諸国では大量に受け入れられる非先住民(移民・不法移民)と先住民の間で、両方に不満・摩擦・争い・分断を生み、社会が荒れ、混乱しているようです。政府の不十分な説明・準備・政策も原因でしょう。
それなのになぜ、次々と戦争を行い、国々を焦土して移民・難民を増やすのか?
なぜ、国民や移民の声に真摯に耳を傾け、共に平和で幸せな共存できる社会をつくろうとしないのか?
疑問が湧きます。
最近イギリスで、怒りを爆発させる人々の様子が、頻繁に報道されます。豪州SBS(NHK相当で無料)では、イギリスでのナイフ所有率とナイフでの犯罪が増えていることが報道されました。アルジャジーラがこれをイギリスの緊縮(重税)と生活苦と合わせて記事にしていました。(こちら参照)
移民の怒り
社会背景から書かれたフラサ―・マイヤーズ(FRASER MYERS)さんの記事によると、この7月18日、英国のヘアヒルズHarehillsで暴動が起きました。ここは80を超える国籍と民族を包含しているコミュニティで、住民の43%が英国外で生まれ、「21世紀のゲットー」と呼ばれています。ゲットー(ghetto)とは、貧しい少数派の集団という意味です。ヘアヒルズのような場所は、より広い英国社会からほぼ密閉され、過去に何度か暴動が起きている場所です。
事の発端は、ロマ族の移民家族から3人の子どもたちを引き離し、保護施設に送ろうとしたことで、争いが起きました。様々な民族を巻き込み暴動に広がり、バスが炎上する大惨事に発展しました。英語力が不十分なルーマニア国籍の人物がライターを持ってバスの横に立って放火した罪で起訴されました。
移民が社会に溶け込んでいない場合、彼らは国や地域の機関をほとんど信頼しない傾向がある。これが、政府が家族の子どもを引き離そうとした試みが、これほど敵意をもって迎えられた理由でしょう。
イギリス政府が多文化主義を容認したことは、間違いなく緊張をあおって不満をかき立てる一因です。市議会が多様性をポジティブに指摘する一方で、一部の住民は、社会福祉機関が家族の問題に介入する決定について、ロマ人に対する「組織的人種差別」と「迫害」のせいだとすぐに非難し、移民がイギリス社会で統合されず、安心して暮らせていない状況を浮き彫りにしました。
国民(先住民)と庶民の怒り
7月29日には、イギリスの静かな海辺の町サウスポート(Southport)のダンス教室で11人の子どもたちが、ナイフの殺傷事件で重軽傷を負い、3人の少女が命を失いました。後に犯人は、17歳の少年、アフリカ系のイギリス人であることが公表され、犯行の理由は明らかにされてませんでした。悲しみ・動揺・不安・恐怖・怒りからか、その後、事件の起きた周辺で、多くの住民が集まり、ビンやゴミなどが、モスク・警察・パトカーに投げつけられ、発火する大きな暴動に変わりました。
この哀悼と怒りは、国内外に広がり、エスカレートした暴動がロンドンの首相官邸近くやイギリス各地で起こり、亡命・難民申請者を収容する複数のホテルへの放火も起こりました。「もうたくさんだ・Enough is enough」「子供たちを救え・Save our kids」「ボートを止めろ・Stop the boats」というフレーズや「ホームレスを救え」「医療不足だ」などの看板が並びました。(詳しくはこちら)
イギリスも日本のように重税で、出生率が低く、貧富の差が広がり、庶民は生活苦が多く、民営化が進められた国です。「ボート」とは、外国から危険を冒して小さなボートで違法に入国する亡命者や難民の人々を指します。国内の移民の規模、特にイギリス海峡を渡ってフランスから小型船で到着する多くの移民に対する懸念が大きいようです。
なぜアイルランド人(先住民)なのか?
豪州で暮らすにつれ、自分の周りや影響を与えた人々にアイルランド系豪州人が多いことに気づきました。
豪州が好きになったきっかけとなったホストファミリー、英語を鍛えてくれた先生も、一番の友人もアイルランド系でした。たずねてもいないのに「私はアイルランド系だよ」と会話に出てきます。それを聞く度に、なんだか特別なことなのか?アイルランドの人々はイギリス人とは、ずいぶん違うものなのか、と思うようになりました。
アイルランドの悲しい歴史は、ご存じの方も多いと思いますが、記しておきます。
イギリスの隣国アイルランドは、ケルト人、ケルト文化というユニークな文化・言語を育みカトリック教徒(ローマ教皇を首とする)の国でした。
イギリスは、ドイツ北部からのアングロサクソン人の入植で英語を話し、エリザベス1世は1558年に戴冠すると、自分がアングリカン(英国国教会)の最高権威者であると宣言し、英国国教会を国教とし反カトリックとなりました。1649年イギリスの清教徒革命を起こしたクロムウェルが、アイルランドを征服しました。
アイルランドに侵攻した彼は、虐殺、寺院の焼き討ち、婦女子の乗ったボートを沈めるなど残虐行為を行い、彼はそれを「神のみちびき」と議会に報告したそうです。現在のガザとイスラエルに重なって見えてしまいます。その歴史からアイルランドの人々が、パレスチナの人々を支援する所以なのでしょう。
そして、アイルランドでは、先住民のケルト人・カトリック教徒への差別が始まり、土地が取り上げられました。イギリスが豪州に入植した同時期、1801年にはアイルランドはイギリスに併合され「カトリック処罰法」が制定され、カトリック教徒は徹底的に無力化され、アイルランド語は使用できず、その文化・伝統は否定され、カトリック教徒は大学に行けず、医者にも弁護士にもなれず、農民は5ポンド以上の価値のある馬を所有することができず、土地も所有できず小作人として暮らすしかなかったそうです。
農業は、畜産・穀物の生産が行われていましたが、ほとんどは、本国のイギリスへ送られ、ジャガイモが主食とされていました。そのジャガイモも外国からの疾病で、有害や不作となり飢饉に見舞われました。貧しいアイルランドの農民は、小麦やトウモロコシを買うだけの金もなく、調理用具さえも持ってはいないことが多く数百万人が亡くなり、多くが外国へと移住せざるを得なくなりました。
このような経緯から、アイルランドの最大の輸出品は「アイルランド人だ」ともいわれ、アメリカでは、黒人の人々と同様に奴隷扱いだったそうです。
長く苦しいイギリスとの闘い、アイルランド人同士の分裂を経て、1949年に独立しアイルランド共和国となりました。イギリスとの関係を断って、独立した主権国家となったアイルランド共和国は、次第に経済成長を実現させ、西側の軍事同盟であるNATOには加盟せず、中立を守ってきました。
しかし昨今のアイルランドの政権・政治家は変わり、西側や日本と足並みをそろえた、自国民に思いを寄せない政治のようです。 Foxニュースが詳しく報道していました。下に内容をまとめました。
アイルランド国民も高インフレ、深刻な住宅危機、医療制度の崩壊で生活に苦労していますが、西側諸国やEUの政策で大量の難民申請者がアイルランドに流入し、アイルランド人の税金から、移民の人々へあらゆる種類の福祉給付や住宅が提供されているそうです。ウクライナ難民の人々には、無料の住居・医療・月約15万円が支給されていたそうです。
移民のために宿泊施設が建設されて、移民はホテルや公共施設を利用できます。しかし4月には過去最高を記録したホームレス人口に対してはほとんど何もされていないそうです。 ホテル利用が妨げられ、観光業も打撃を受ける一方、一部のホテル経営者や建設会社は利権で利益を上げています。
「アイルランド人(先住民)より外国人(非先住民)が優先されているという感覚が本当に明白です。実際そうなのです」とアイルランド人ジャーナリストのガニングさんは伝えます。
米国と同様に、亡命を求める人々は、どこの誰だか、犯罪歴があるかも分からない、本質的には納税者の金庫を浪費すると感じています。しかし、アイルランド政府は前例のない揺るぎない移民優先の決意を固めます。違法移民も起訴されず、強制送還されない。移民の人々のホテル内での暴動や殺傷事件で不安も高まります。アイルランドの有権者は激怒し、これは米国の移民危機と多くの類似点がある、と危機感を募らせます。
イギリスの不適格難民の多くが、北アイルランド(イギリス領)との陸路国境を越えて、アイルランドに入国していると言われます。
抗議者らは、沈黙する有権者の大多数が、「移民が多すぎる」という主張(いくつかの世論調査によると約75%)が、自分たちの声だと訴えます。
また、政府はアイルランドで亡命を申請した場合に受けられる魅力的な特典を詳述した通知を8か国語でオンラインに投稿し、アイルランドを移民にとって人気の磁石にしたと非難が上がります。
しかも、アイルランドの難民・亡命希望者だというだけで、地方選挙で投票できるという事実も問題となっています。これは、アイルランド人(先住民)が少数派となり、非先住民がその地域のことを決める多数派となり、アイルランド人の声が届かない、差別・排除されるかもしれない、という心配が高まります。日本でも外国人投票権をすすめる自治体があると目にします。
地元住民は抗議活動しても、すでに政府に無視されていると訴えます。絶望と幻滅感が広がります。最大野党の中道右派も左派に転じ、進歩主義とグローバリズムを受け入れています。これは、日本の国政に似ているようで、最近の西側諸国や日本の政治は、軍事化(極右)するグローバル政治(極左)に見えます。
首都ダブリンで去年の11月、移民によるナイフによる襲撃で子供3人を含む5人が負傷した後、アイルランド各地で、政府を非難するイギリスで起こったような激しい抗議が続きました(こちら参照)。「アイルランド人の命は大切だ」「包囲、侵略だ」「(植民地のような)プランテーションを終わらせろ」「大量追放だ」と訴えられます。
そして、イギリスとアイルランドの共通点として、移民に若い男性が多い、ということです。移民の人々を、不足する兵士を補うため、軍隊へ加入させ、戦場に送るためか?という危惧もあります。
移民が悪いのか? 国民(先住民)が悪いのか?
♦「極右」「極左」というレッテル
前述のフォックスニュースは、他の主要メディアが、取り上げない点を下のように伝えていました。
抗議者の怒りは、主流メディアの扱い方によっても煽られている。主要メディアの主流はリベラルで、保守的な抗議活動をほとんど報道せず、偏見を持って報道することもあると伝えます。
ガニングさんは「過去2年間、移民に抗議する人々、『移民には賛成だが、人数は制限すべきだと思う人』は誰でも『レイシスト』、『極右過激派』と呼ばれてきました。アイルランド政府・政治家・主要メディアとその社会階層の人々は、住民の不安・懸念に耳を貸そうともせず、移民は完全にプラスだと言い張ります。それが現実なのです」と報じました。
SNSでは「『子どもの安全が心配だ』と言うと『極右』と言われる」と同様のコメントが溢れていました。
国民が犠牲になるほどの大量移民や不法移民の推進を「極左」と呼ぶ人もいます。「極右」「極左」と呼ばれるグループは、デモで対立し、いがみ合うような構造にはめられているようです。日本でも、川口市でクルド人の人々の問題を巡り、野党間で対立していると聞きます。
しかし、「移民も先住民の庶民も、生活苦を強いられているという点で同じだ」「分断工作だ。乗ってはいけない。支配者層の思う壺だ。連帯しなければいけない」「社会を混乱させ不安定にしようとしている」というような意見もあります。
激しい抗議が繰り返される中、8月はじめには、ポジティブなシーンが認められました。北アイルランドのベルファスト(イギリス領)は、イギリスとの紛争で戦火に見舞われ、アイルランドから引き離された町です。そこでは、一つの抗議場で、左右が包摂され、様々な旗(アイルランド、パレスチナ、反ファシズム、イギリス、LGBT等)が舞う様子が注目されました。「昨日の敵は、今日の友だ。これが勝つ方法だ」「うれしい光景だ。アイルランドとイギリスは、土地・文化・伝統を守るために共に戦うべきだ」「全面的に支持する。英国にとって、アイルランドが先住民族の多いカソリック教国であり続けることが不可欠だ。アイルランドが崩壊すれば、イギリスも同じ運命をたどるまで、長くはかからないだろう。その逆もまた然りだ」というコメントに賛同が集まっていました。下はそのツイートです。
♦ 状況が違う豪州
豪州は移民が集まり、世界でも最も多様な人種が共に暮らす、差別に厳しい国ですが、状況は全く逆です。
移民問題は頻繁に議論され、選挙の焦点となります。今の与党(労働党)は、移民推進派で、野党(自由党)は移民削減派です。収容所で難民一人のために掛かる費用は1年で約2千万~4千万円(施設建設・管理・人件費・生活費等)と報告されます。国民保護の視点(治安・インフレでの生活苦・教育や医療の充実・国民の就業確保・住宅問題など)から、野党(自由党)は移民増加を反対し、国民もそれに賛同する傾向があります。ですから、与党(労働党)も選挙で勝つためには、その声を聴き入れざるを得ない状況です。
豪州では、ボートで亡命をする人々は、祖国に送還され、永住権はとれない法律が成立しました。それは、「命を冒す危険な航海をすすめてはいけない」からだということでした。
不思議なことは、移民削減・強制送還の声が上がっても、豪州人や豪州政府・政治家を「極右」「人種差別者だ」という報道や声を聞かないことです。
世界各地での、戦争・差別・迫害で、祖国を離れなければならなかった人々が集まってできた国の歴史や経緯から、用心深いのかもしれません。
豪州の隣国で「天国に一番近い島」と呼ばれるニューカレドニア(フランス領)でも5月に、独立を望む先住民(カナック族)により主権を巡り過激な抗議が続きました。宗主国のフランス政府が、10年以上住むフランス人にも投票権を与ると公表したからです。マクロン大統領が暴動後、この島に訪れるほどでした。フランスは、この地の資源や太平洋での軍事力維持を利用したいからではないかと憶測します。
ここでも先住民の人々が、選挙で少数派に追いやられ、意見が無視されるのではないか、という不安・不満・怒りが爆発したようです。(こちら参照)
豪州のグリーン党のバント( Bandt)党首はツイートで「私たちは、億万長者より亡命希望者との共通点の方が多い。英国の極右暴動は不穏だ。…政治支配者層が、直面する問題を疎外された人々のせいにする時、彼らは真犯人である既得権益者、大企業、そして彼らの欲望を実現可能にする政治家を守っていることを忘れないでください。ここ豪州、英国、そして世界中の多様なコミュニティ、そして私たちを分断しようとする憎しみの力に反撃する全ての人々に、力と連帯を捧げます。我々は多数である。彼らは少数だ」と呼び掛けました。
そういえば不思議なことは、反移民派の政治家やリーダーたちは、イスラエル擁護派で、パレスチナ擁護派を見かけないことです。なぜでしょうか?
移民に反対なら、戦争を反対し止めて、戦争で荒らされた国を復興し繫栄させることを助け、祖国で暮らすことができるように援助するはずです。
日本で移民問題が「沈黙」しているのはなぜか?
このように移民問題は世界各国で、喫緊の重要な問題だと捉えられています。しかし、移民が急激に増えている日本で、同様に議論されないのはなぜでしょうか…。
豪州では、先住民と新しい住民が共に、幸せに暮らすためのルールがあります。永住権や国籍取得は一般的に、①IELTSという英語試験(英語準1級以上)、②豪州の文化・価値観を尊重し調和して共生できるかを問う英語での試験③経済力が判断材料とされます。日本では、このような厳しい規制はないようです。
日本をどのような国にするのか?移民問題情報が伝えられ、選挙の争点として議論されるべきだと思います。
豪州から長崎と日本の人々へのメッセージ
8月9日の長崎原爆投下平和式典が世界で話題となりました。また、イスラエルとロシアに対する扱いの大差が、公然と世界に示されました。豪州とニュージーランドでもジャーナリストが取り上げ、独立系メディアに記事「Team genocide walks out on Nagasaki commemorations」が寄稿され、注目されました。
以下は内容の一部です。
先週、長崎市の鈴木史朗市長は、毎年恒例の平和式典へのイスラエルの招待を取り消した。それは、平和式典が何であったか、そして今もなお何であるかを忘れてはならないという、穏やかだが厳しい外交メッセージだった。鈴木市長は6月にイスラエル大使に停戦を求める書簡を送った。市長は長崎の原爆被爆者の子として武力紛争の人的被害を十分知っていると指摘した。
米・英・豪・加・仏・伊を含む西側諸国の大使がイスラエルとの連帯を示すため、追悼式典を欠席すると発表したという。これらの国々が、歴史で行ったことから考えると驚くべきことだ。
私たちは、道徳と合理性の一貫性で、複雑な問題の核心を見出そうと試みるべきだ。
南アフリカの国際司法裁判所によるイスラエルに対する大量虐殺訴訟に加わる国は増え続けており、トルコが最新の国であることに注目したい。一貫性を考えると、ニュージーランド、オーストラリア、その他の国々も加わるべきだろう。
私は長崎の人々の判断を称賛します。(全文はこちら)
長崎の姿は、国政でも、市民を思い、道徳・合理性・一貫性のある政治家が、連帯すれば、日本はとても素晴らしい国になる、と確信できるものでした。
デイビット・ボウイは、豪州の先住民アボリジナルの人々に「Let’s Dance・踊ろう」という歌を送りました。冒頭の写真は、シドニーの街角にある彼の壁画です。
今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。