「なぜこんなに“ひどい”ことができるんですか?」
これは、日本人の若い女性と思われる方が投げかけた疑問です。
なぜだと思いますか? きっと多くの人々が思っているでしょう。
私は段々と、一部の人々にとっては、意図的に「ひどい」ことをしているのではないかと感じるようになりました。いくら世界中の庶民が「ひどい!」と叫んでも、政治家たちは聞く耳を持たず、戦争は続き、貧富の差はどんどん広がるからです。
人それぞれ、「ひどい」と思うことはまちまちで、自分自身が「ひどい」状況に置かれていると、自分のことで精一杯で周囲の「ひどい」ことに目も向けられないと思います。これ自体も「ひどい」状況です。
そこで、今回は、現在「世界で一番“ひどい”」と思うことを追っていきたいと思います。
私が、おかしいと感じ始めたのは、パンデミック、そして唖然としたのは、中東、パレスチナ、ガザの光景です。
そして豪州では、敵対する反ユダヤ主義とイスラム嫌悪を巡る事件や意見が巻き起こりました。
世界最大の人権団体 アムネスティは、ガザでのジェノサイドの証拠が揃っていると訴えます。
豪州主要メディアで、ほぼ毎日報道される、このガザ・パレスチナ・シリアなど中東での紛争の赤裸々な映像は、私にとって、生まれて初めて触れる「ひどい」ニュースです。激しいパレスチナ侵攻は、もう600日以上続いています。
また、親パレスチナというだけで、罪に問われ、デモも規制され、抗議の声さえも消されているようです。
アメリカでは、トランプ政権下で親パレスチナ活動の学生が標的になり次々と逮捕や拘束される様子も報道されました。言論の自由問題からも非難が上がっています。(こちら参照)
5月15日は、「ナクバの日」Nakba Dayです。これは、パレスチナでのイスラエル建国が、イギリスの提案で国連に認められ1948年前後にパレスチナの人々の大多数が永続的に強制退去を余儀なくされた、パレスチナの「悲劇」「大厄災」として知られるナクバを思い返す日です。ナクバは、より厳しくなり苦しみが続いているようです。
SNSで日本でのデモの様子を知ることができました。坂本龍一さんの娘、坂本美雨さんが東京でナクバの日にメッセージを送っていました。
東京での2025年ナクバの日の抗議集会を見つけました。
政党では、れいわ新選組が抗議していました。
なぜパレスチナとウクライナの扱いは違うのか?
ウクライナの状況と比べて違うのは、ガザでは生命維持に必要な「食料・水・電気・医療品」の輸送がイスラエルに抑えられ、一般の人々が飢餓と病気・怪我で苦しめられていることです。
しかも、ガザに封じ込められ、何処にも逃げられない、他国に難民も受け入れてもらえない、「民族浄化だ」と非難が高まります。
西側はロシアに制裁、ウクライナに多大な援助を続けますが、イスラエルにロシアのような制裁をし、パレスチナに、ウクライナのような援助をするという、リーダーの声は耳にしません。
また、西側リーダーたちからは、イスラエルには、(国際法では占領下の地域に自己防衛による攻撃は当てはまらないのに)自己防衛の権利があると擁護の声を、よく聞きました。しかし、ロシアには安全保障のためだ、という声は、ほとんど聞きません。
なぜ、扱いがこのように大きく違うのでしょうか?
次々と命を失う人々
3月に終戦協定が始まっても、すぐイスラエルは破棄しました。トランプ大統領となっても、平和どころか、ガザの状態は酷くなります。
アルジャジーラによると、3月16日から2,3日で少なくとも591人が亡くなり、その内200人が子どもで、1042人が負傷したと発表されました。
瓦礫となった建物しかない故郷で荷馬車を押して、逃げ場をふさがれて惑う人々。食べ物を求めてお皿を持ち涙目の子どもたち。怪我をしても手当てを受けられない人々。赤くにじむ白い布で包まれ並んで置かれている遺体。道端で倒れた人々にモザイクを掛けられた光景。その周りで、悲しみと怒りで声を上げる人々。
国連ニュースによると、2023年10月以降、ガザでは少なくとも408人の援助活動従事者も命を失っているそうです。
豪州では、3月18日イスラエルのネタニヤフ首相の停戦破棄後「数百人のパレスチナ人がガザで亡くなった。ほんの始まりに過ぎない」という発言が報道されました。豪州主要TVやSNSで「Gaza」を検索すると、見るに堪えない映像の数々が現われます。
そして、豪州SBS(5月19日)によると、5月中旬には、イスラエルのネタニヤフ首相は、内閣がガザ地区全体を占領し、そこに住む約210万人のパレスチナ人を強制退去させる計画を承認したことを受け、同地区への前例のない地上侵攻の強化を開始すると発表し、実際にガザの南北各地区で大規模に実施されたと発表されました。ハマスを理由に多くのパレスチナ人の命を失うことは仕方のない事のように聞こえます。
かつても、世界大戦で多くの一般市民を犠牲にし、歴史上類を見ない攻撃が行われたことを思い出します。米国による日本への原爆投下、イギリスのドイツへの空爆と食料封鎖などです。
ハマスはパレスチナの独立国家が認められれば、10年以上の停戦をすると、報道されました。そこで、米国の人質問題担当特使アダム・ベイラー氏は、イスラエル抜きで直接ハマスと交渉し、「ハマスの交渉担当者は非常にプロフェッショナルです。譲歩しつつも、自分たちの立場を貫いてきました。彼らは非常に頼りになるパートナーなので、状況は大きく変わるでしょう」とハマスを評価しました。
しかし、イスラエルはそれに応じず、理不尽にきこえる理由で、ガザの全てを破壊するような、民族浄化だと言われるような攻撃を続けます。
5月19日の豪州ABCによると、過去1週間のイスラエル軍の攻撃で少なくとも460人のパレスチナ人が死亡したと発表しました。北部で部分的に機能していた最後の病院や食糧支援団体も閉鎖に追いこまれました。
3月2日から続く食料封鎖による飢餓は深刻で、水も下水や海水を飲んでいるそうです。そのため栄養失調、命を失う人々も出ています。(詳しくはこちら)
UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)職員の一人は、「かつては小麦粉やちょっとした食事のために、何キロも歩き、何時間も列に並んでいた人々がいた。今では列さえなくなり、食べ物も残っていない」と伝えます。
また、UNRWA事務局長はイスラエルが “食糧と援助の拒否” を “戦争の武器” として利用していると考えている。これは国際法の下では戦争犯罪となる可能性がある、と伝えます。
アル・マワシ・テントキャンプへの攻撃で親族を失ったアマル・アル・シャエルさんは、自分の家族は世界から見捨てられたと語ります。
「イスラム教徒はどこにいる?アラブ諸国はどこにいる?彼らは私たちに何が起こっているのか見ていない?毎日、子供たちが〇殺され、女性が死んでいる。彼らに何の責任があるの?これらの子供たちの何が責任なのか、これらの女性の何が責任なのか?これはハラム(haramイスラム教法に反すること)ではないの?これは不当ではないの?私たちを見ているの?誰も私たちのことを気にかけていないのか?私たちは〇〇される羊なの?」
WHO(世界保健機関)も「これは人為的な危機です。解決策は非常に簡単ですが、彼らは意図的に“食料を武器”として利用している」と非難します。
ジャバリア難民キャンプへの新たな空爆の後、地元住民のナスル・ナスルさんは、飢えている人々が殺されたと言います。
「彼ら(一般人)は無実の人々です。抵抗勢力とは何の関係もありません。彼らは飢えながら命を落としました。なぜなら、今日、ガザの人々は皆飢えているからです。私たちには食べ物がありません。小麦粉も、パンもありません」という言葉で記事は締めくくられていました。
「ひどい」現実に耐えられない若者たち
世界各地で、パレスチナの解放を訴えるデモが続きます。
そして、これらの信じがたい事実に耐えられない、若者たちの姿を目にすることも、いたたまれない「ひどい」ことです。
毎年3月16日、アメリカ人女性の名前がSNSに取り上げられます。2003年23歳だったレイチェル・コリーRachel Corrieさんは、ガザでイスラエル軍のブルドーザによるパレスチナ人家族の家の取り壊しを阻止しようと、家の前に立って抗議をしていました。レイチェルさんは、イスラエル軍のブルドーザーにひかれて、亡くなりました。3月16日は彼女の命日です。
1948年にパレスチナにイスラエルの建国が国連で認められ、ナクバ(アラビア語で「悲劇」「災難」で、多くのパレスチナの人々は、住み慣れた家から離れ、移住を余儀なくさた)が始まり、どんどんパレスチナ人の移住地は縮小し、世界中で大規模な抗議の声が上がってもナクバは激しくなり、残ったガザも破壊され、人々は次々と命を失い、日に日に最も悲劇的な厳しい状況になっています。
レイチェルさんは、10歳の時「私の夢は2000年までに世界の飢餓を無くすことです」と語っていました。そして、実際にパレスチナに渡り活動をしていました。下のツイートはその時の様子です。
2024年2月には、25歳の若者アーロン・ブシュネルAron Bushnellさんの命を懸けた平和への抗議が世界に強烈なインパクトを与えました。
彼の最後のFacebookの投稿は「私たちの多くは『もし奴隷制時代に生きていたら、もし米国南部のジム・クロウ法の時代に生きていたら、もしアパルトヘイトの国に生きていたら、もし自分の国が大量虐殺を行っていたら、自分はどうするだろうか?』と自問したがります」「そして答えは、今あなたがやっていることです」というメッセージでした。
彼の最後の言葉は、ワシントンにあるイスラエル大使館前で「ぼくは米空軍の現役隊員だが、今後は大量虐殺に加担するつもりはない。私は極端な抗議行動を起こそうとしているが、パレスチナの人々が植民地主義の手によって経験してきたことに比べれば、それは全く極端なものではない。これが我々の支配者階級が正常であると決めたことだ」「Free Palestine!パレスチナ人を解放せよ!」という叫びでした。
彼の言葉から「ファシズムは、妥協した人々の強要によって始まる」という言葉も浮かびました。
今では「Free Palestine」というパレスチナ擁護の発言は「反ユダヤだ」と、罪に問われる事さえあります。冒頭の写真は近所に描かれていた「Free Palestine」の落書きです。これが投稿されたFacebookには、反ユダヤ主義かどうかを巡り議論が起こっていました。
「Free Palestine」と声を上げることは、反ユダヤ主義なのでしょうか?
豪州で、グリーン党は政党で唯一イスラエルによるパレスチナへの行動を強く批判する政党です。
新しい代表になったラリッサ・ウーオーターズLarissa Watersさんは、豪州ABC(NHK相当)インタビューで「私たちはネタニヤフ政権が犯している残虐行為を強く非難していますが、それは、反ユダヤ主義ではありません。私たちも反ユダヤ主義ではありません」と訴えました。

また、ラリッサ代表は、5月21日豪州ABCの生放送で「オーストラリアはもっと強い言葉で発言する必要がある。この紛争への武器部品の輸出も止めるべきだ」「もしガザへの支援トラックの通行を許可しなければ、1万4千人の赤ん坊が命を失うと国連は伝えた。壊滅的だ。軍備拡張と戦争犯罪を止めなければ、オーストラリアと政府は、今すぐにイスラエルに制裁すると明言すべきだ」と踏み込んだ発言をしました。
パレスチナ以外でも、経済的・精神的な理由で、ひっそりと命を絶つ人々も多くいます。私たちの目に触れないだけで、報道されることもなく、伝えられない「隠されたひどい」現実はもっと「ひどい」ことなのかもしれません…。
次回は、なぜ「こんなに『ひどい』ことが起こるのか?」について追ってみたいと思います。

今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。