政治を斬る!

オーストラリアから日本を思って(51)政治を動かしているものはハニートラップ? そこから見えてくることは?「私は誰の少女ではない」が語ることから~今滝美紀

前回は、政治が「巨額の金」と「私的ビジネス」の利用で動かされているという非難が広がっていることを、トランプ大統領を取り上げて書きました。同時に、ハニートラップが政治を動かしているのではないか、という非難も広がっています。権力を握った人々は、その力を私利私欲「金と性」に利用し、その罠にはめられ、脅しを受け、保身のためには、言われるままの政治を行わなければいけない、というシステムがつくられているのでしょうか?(※この コラムには、読者の方が悲痛に感じる虐待の内容が含まれているかもしれません)

連載47回では、政治と金、性の関わりで、世界で注目を集めている「エプスタイン・ファイル」(人身売買・性被害についての事件で、政治家・学者・著名人が関わっていたとされます)を取り上げました。ここでもトランプ大統領がエプスタイン氏(性の人身売買で有罪を受け、牢獄で自殺したとされる)と親密な関係であり、この事件に関わっていたのではないか、ということが取り沙汰されています。

ジュフリーさんは、エプスタイン氏とそのパートナーのマックスウエル氏(現在服役中)により、人身売買と性被害にあったことを、公に明らかにし、闘ってきた女性です。彼女は、4月25日西オーストラリア州の自宅の牧場で命を失ってしまいましたが、ジュフリーさんの自伝を含む被害について、新たに伝えられた回想録「Nobody’s Girl」が出版さました。これは、彼女にとって、計り知れないほど悲惨だとされますが、彼女は、自分の状況がどのようであっても、出版されることが「心からの願いだ」と語っていたそうです。

彼女の生前のインタビューで、世界で起こる人身売買と虐待を止めたいという事を訴えていました。権力の乱用、抑圧のはけ口に、まだ知識や経験の少ない子どもたちや若者が犠牲になることが、いたたまれなかったのでしょう。

その後、ジュフリーさんが数回犯されたと訴えていたイギリス王室のアンドリュー王子は、この犯罪を否定していますが、この本の出版と同時期に、英国皇室から追放されたことも、大きなニュースとして、報道されました。(こちら参照

日本では警備の厳しい議員宿舎内になぜか、中国人女性がいた(こちら参照)。ハニートラップがあるのでは、という非難にもふれます。

これらのことから何が見えてくるのでしょうか? 探って行きたいと思います。

Nobody’s Girl」が伝えること

豪州ABCによると、この事件で驚くことは「登場人物の何人かは、世界で最も裕福で、最も権力のある人々」だったことです。これはジュフリーさんの証言からです。

エプスタイン氏と関わったと思われる大物には、アンドリュー王子の他に、米国のトランプ大統領とクリントン元大統領、英国ブレア元首相、イスラエルのバラク元首相、ビルゲイツ、マイケル・ジャクソンなどが含まれるということです。(詳細はこちら

ジュフリーさんは、英国のアンドリュー王子、元首相・大統領(名前は公表されていない)、その他の複数の男性と交わることを強要されたこと、アンドリュー王子は、それをまるで王子の「生まれながらの権利であると信じているかのように、権利意識が強かった」と伝えています。

また、ジュフリーさんは、幼少のころから父親とその友人から性的虐待を受け、それに嫉妬し不満をもつ母親により、施設に移されて暮らしていたところ、エプスタイン氏のパートナーであるマックスウエル氏に声をかけられたことから、また性の虐待に会うことになります。

私は、理性を失った世界で最もパワフルだと見られる人々が、地位・金・権利の乱用で性の虐待を行い、裕福でない人々も、抑圧された社会で、不満をもちながら生きる中、性の乱用でうっぷんを発散する雰囲気が広がっているのではないか、それをジュフリーさんは、自分を犠牲にしても世界に伝え、止めたいと思ったのだではないか、と感じました。

虐待を許される人々はいるのか?

アンドリュー王子は、英国の皇室の一員であるから、性虐待や人身売買に関わっても許されるのでしょうか?

豪州ABCのバード記者は次のように疑問を投げかけていました。

「ロンドン・タイムズ紙に掲載されたジョナサン・エイトキン牧師の次の手紙を読んで、私は立ち止まりました。『そろそろアンドリュー王子に少しばかりの慈悲の心を向けるべきではないでしょうか。どんな過ちを犯したにせよ、彼は今、心の奥底で深く傷つき、苦しんでいるに違いありません。少しでも非難された経験のある人なら、一言二言、親切な言葉をかけてもらえることの尊さを知っています。ですから、嵐の目の中でも、アンドリュー王子に、静かに響く、ささやかな人間の思いやりの声を少しでも聞かせてください』。しかし、これは単なる集団攻撃ではなく、小児性愛の疑いです。本当の苦しみは、人身売買、レイプ、虐待を受け、長年正義を求めてきたジェフリー・エプスタインの被害者たちにある、と言う方が正確ではないでしょうか? 告発者の中でも最も著名な、今年4月に自殺したバージニア・ジュフリーさんにこそ、本当の苦しみがあるのではないでしょうか?王室は、自分たちの行動、通信、コミュニケーションの多くを公式には精査や尋問から守ることを可能にする秘密主義を今後も正当化できるのでしょうか?」

2月、トランプ大統領に指名された米国の司法長官のボンディ氏(Pam Bondi) は、エプスタインの顧客リストが公開されるか、とのメディアの質問に対し「今検討するために私の机の上に置いてある」「それはトランプ大統領の指示だった」と伝えました。その後、FBIの情報筋から、公表されていない数千ページがあることを伝えられ、FBIに「エプスタインに関する完全なファイル」を提出するように命じられたとも述べたそうです。

しかし、トランプ大統領は一転し、「エプスタイン・ファイルは存在しない」「まだ、そんなことを言っているのか」というように問題を矮小化し、エプスタイン事件に関する質問に対して、激怒する様子も見られるようになりました。

この矛盾した態度に、米国内ではトランプ支持者を含め疑問の声があがり、トランプ支持率の低下を招いているようです。

世界のリーダーたちからもエプスタイン事件について触れたり、被害者に寄り添ったり、性被害を無くそうという姿勢が感じられず、それどころかトランプ大統領を持ち上げ、ガザの停戦を呼び掛けたことで(実際にイスラエルはガザやパレスチナへの攻撃を続けているにもかかわらず)、高市首相やパキスタン首相は公の場で「トランプ大統領にノーベル平和賞を」と呼び掛けていることに、違和感を感じてしまいます。

これは、なぜでしょうか? 

日本では日本駐在の米国兵士による性暴力の問題があるようです。沖縄タイムス阿部岳記者は「打ち沈んでいる。きょうの沖縄タイムスはテレビ欄をつぶし、沖縄戦から続く米兵の性暴力の長い年表を掲載した。被害者には9カ月の乳児も、58歳の女性も。米兵10人による犯行も。本当はこの年表は、本土に届けたい」と数十年続く数々の性暴力記事を投稿していました。

豪州でも、アフガニスタンの戦争に参加した時、アフガニスタンの人々に性的虐待を目撃した兵士に、自分たちは、戦争に勝つという大義のために戦っている。この程度の味方の悪態には、目をつぶっておけ、と指示されたということをきいたことがあります。

実際、豪州の弁護士としてアフガニスタンでの戦争に参加したマックブライドさん(David McBride)は、豪州兵士が非武装のアフガニスタン人を殺害したことをメディアに報告しましたが、それは機密情報のため、殺害した兵士は罰せられず、マックブライドさんが罰せられ、投獄されています。これは人々に戦争に勝つという大義の下では、敵国やその人々に対する犯罪には目をつぶれ、受け入れろ、と言われているように感じてしまいます。

豪州ABCはこの事件を追った番組「アフガニスタン・ファイル」という番組で報道しました。

この8月には、イスラエル人の米国滞在の高官であった アレクサンドロヴィッチ氏(Tom Alexandrovich)氏が、米国内のラスベガスでインターネットで子どもたちを性的行為に誘い込こんでいた罪で起訴されましたが、その後なぜか釈放されイスラエルへの帰国を許可されました。これも主要メディアは取り上げようとしませんが、国際的に話題となりました。(詳細はこちら

日本でも、罪を犯した外国人の人々が、理由を明らかにされないまま釈放されるという不可解なことがあり、世界規模で起こっているのではないか、と察します。

性の虐待から見えることは?

英国ジャーナリストのサンダースさん(Richard Sanders)は「ヴァージニア・ジュフリーは、ある男性を恐れている以外は、とても強い女性でした。彼女は『子供がいなければ、あの男と闘う』とよく言っていました。エプスタインの依頼人の中には、サド・マゾヒズム的な人が驚くほど多く、そのうちの一人は彼女を殺しかけたほどでした」と語ります。

ジェフリーさんは、アンドリュー王子を訴えても、元大統領か首相の名前を出すことをしなかったのは、自分の子どもたちの命が危なくなるとわかっていたのではないでしょうか。また、サンダースさんは、エプスタイン事件の主犯のエプスタイン氏やそのパートナーのマックスウエル氏は、諜報機関と関わっていたと思われることも伝えています。(解説動画はこちら

9月10日に暗殺されたカークさん(Charlie Kirk)も、米国CIA、イスラエルのモサド、UAE(アラブ首長国連合)の諜報機関が関わっていたのでは、と語っていたことと重なります。彼の死亡直後に、イスラエルのネタニヤフ首相は「カークは真実を語って殺された」という投稿をしています。(連載49回

また、アンドリュー王子は英国住在の中国人スパイとも関わっていたこと、日本でも中国人女性が議員宿舎に侵入していたことを考えると、日本の政治家の方々にも脇を締めて欲しいところです。

もし、政治家や超裕福層、著名人をハニートラップの罠に陥れ、弱い人々を犠牲にし、政治や政策を自己の都合の良いように操り、社会を動かそうという力が働いている可能性があるなら、矮小化しよう声に対して、エプスタイン・ファイルの開示を強く求める世界の人々の声は、世界を正すために、支持されるべきだと感じました。


今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。