政治を斬る!

オーストラリアから日本を思って(54)2025年年末に突然訪れたピンチ!急遽雲行きがおかしくなってきた豪州…日本の未来予想図として~今滝美紀

オーストラリアにも表現の自由と民主主義の弱体化の波が押し寄せてきていると感じる悲しい出来事が、12月14日、シドニー東部の裕福層が多いボンダイ・ビーチで起きました。

今年最後の連載は、書ききれなかった“世界の政局と高市政権・日本の位置”を書くつもりでしたが、それは新年に持ち越し、急遽変更してこの事件とオーストラリアの危機について、書こうと思います。日本の他山の石になればと思います。

ユダヤ教の人々が、ビーチでユダヤ教のハヌカ(光明祭)という「油の奇跡」を祝う光のお祭りで、集まっていた時のことです。ハヌカは紀元前2世紀、ギリシャ・シリアの支配下でエルサレム神殿が冒涜された後、ユダヤ人が神殿を奪還し再奉納したことを記念するそうです。

その時に、インド出身の親子二人が、銃を撃ち15人が亡くなるという事件が起こりました。50歳の父親は、警察に打たれ死亡し、24歳の息子は、入院するというケガをしました。そのため、事件の真相が明らかにならないまま、労働党のNSW州ミンズ知事(Chris Minns)は、以前からシオニスト組織から要請されていた、表現・言論の自由の規制や抗議集会の禁止(事件後3か月まで)する法律の設定を早急に決定すると息巻き、ユダヤ人コミュニティーから拍手喝さいを浴びました。米国のミネソタ州でも、抗議集会やデモを禁止する政治的動きがあるそうです。

一方で、シドニーのユダヤ人を含む約10の団体がそれは憲法に反するとして、訴訟をすると表明しました。パレスチナ支援のデモでは、反ユダヤにも反対しているのに、なぜ抗議集会が禁止されるのかという疑問が上り、労働党団体からは、「裏切り行為だ」という声が上がりました。

ミンズ知事は、多文化社会で平和に安全に暮らすためには、言論の自由の規制が必要だと発言し、人々はこれから以前のような自由でないことを告げられ、「オーストラリアで、残っていた表現の自由が死んでいくのを目にしている」「多文化主義より自由が欲しい」という声が上がりました。(こちら参照

元国会議員のカメロンさん(労働党)は次のようにXで非難していました。

「ミンズ氏は、真の民主主義とは、非人道性、ジェノサイド、アパルトヘイト、植民地主義、そして権力の濫用に抗議する、関心を持つ市民のデモであることを理解していない。労働党の首相は、無知で短期的な、反射的な反応のために民主的権利を犠牲にしてはならない」

スミスさんは、8月にシドニーで数十万人が集まり、シドニー・ブリッジを渡りながら、人道に対する抗議の様子とコメントを次のようにXに投稿しました。

「ミンズ知事は、人道のための行進に参加した30万人以上のシドニー市民が、2人のテロリストの行動に何らかの形で責任があると主張し続けている。これは、オーストラリア政治史上最も不条理な主張の一つだ」

コロナ騒動で、安全のために外出禁止令、ロックダウンの命令が出て、自由が奪われたことを思い出しました。日本を含む西側諸国は、移民が急速に増え多文化化していますが、為政者たちは「自由や民主主義だ」と言いながら安全や平和のために表現・言論の自由が奪われている傾向にあるのではないでしょうか。

日本での憲法への緊急事態条項追加を進めようとする政治家たちが浮かんできます。私は、人々の自由を奪わなければ、平和や安全を守れない、独裁的な政権や政治の方が危険だと感じます。

生きているだけで、命を失うリスクはつきもので、例えば車・列車・飛行機に乗れば、自己で死亡するリスクは常にあります。豪州では過去1年間で1332人が交通事故で亡くなりましたが。しかし、便利さを優先して使われ、大きく憂慮することはありません。

それと同じように、民主主義をうたう社会に住んでいれば、表現や抗議のデモの自由は、最大限確保されなければ、成り立たないと、普通のように思ってました。それが突然、奪われる時代に生きるとは、思ってもいませんでした。

以前書いたように、すでにイギリスでは、パレスチナ・アクションというパレスチナ支援団体がテロ認定され。老若男女の多くが抗議しています。テロリストを犯せない、年配や障がい者の方々まで、この団体を支援することを表明して、警察に次々と逮捕される様子は、目を疑いました。でなぜ、パレスチナで、大量虐殺している人々は、テロではないのか?という声に触れます。

クリスマスイヴの報道で、グレタさんが、英国でテロリストだとして、逮捕されたことが伝えられました。彼女は、「パレスチナ・アクションと囚人を支援する。ジェノサイドに反対」というポスターを持ち、ハンガー・ストライキをしていました。

ジャーナリストのジョンズさんは次のように投稿しました。

「私たちが住むこの世界では、西側諸国の指導者たちはジェノサイドに武器を供給して自由に歩き回ることができるのに、グレタ・トゥーンベリは危険なテロリスト支持者として逮捕されているのです」(こちら参照

ガザの選挙で選ばれた政治団体ハマスをテロリスト認定しているのはイスラエル・米国・英国・日本・豪州・ニュージーランド・カナダ・パラグアイ・EUだけだそうです。私たちの住む、西側社会ではテロリストとは、米国やイスラエル等に従わない抵抗する勢力のようです。世界の多数は、テロと見ていない。彼らは、西側諸国をどう見ているのでしょうか。

豪州ではテロリストのシンボルや旗などを持つたり、示したりすると罪になります。早速西オーストラリアの男性が、反ユダヤの投稿やテロ組織の旗を持っていたので逮捕され、12月24日に報道されました。

欧州では、EUの委員会委員長フォン・デア・ライエン氏が「言論の自由はウイルスで、検閲はワクチンだ」と述べ、言論の検閲と規制を厳しくすることを発表し、激しい非難が起きています。西側諸国で一斉に表現の自由を奪う動きが急速に広がっているのではないか、と危惧します。(こちら参照

“Globalise the intifada”

最近では、ボンダイでの事件後、英国で親パレスチナ抗議指導者が“Globalise the intifada”というコールを指揮したとして、逮捕されたことが、物議を醸し出しています。Intifadaはアラブ語で「反乱、蜂起、あるいは抵抗運動」という意味だそうです。それを「世界に広めよう」という意味でしょう。(こちら参照) 

ミンズ知事は特に“globalise the intifada”を「憎悪に満ちた暴力的な表現」だとし禁止する方針だと述べました。

定義が争われているフレーズを禁止することに対して、警告する学者もます。

NSW大学のヘイトスピーチ専門家、ルーク・マクナマラ氏は、意味が議論されているフレーズを禁止するのは危険だと言います。彼は次のように言います。

「フレーズは人によって意味が異なり、禁止すれば裁判沙汰になる可能性が高い」

「争点となっているフレーズを特定の解釈で固定化し、それを自動的に犯罪とみなすことには、非常に注意が必要です」

私は、政府や政治批判が世界で強く広まるのではないかという、為政者らが感じる不安から、人々の抵抗や抗議を抑圧するために、禁止したり逮捕したりするのではないか、と頭をよぎりました。

「反ユダヤ」とは何?

ユダヤ人やどの人種の人々も差別されてはいけないというのは常識だと思っていました。しかし、イスラエル政府を批判することまで、反ユダヤ主義だ、と定義されるようです。政府批判は、民主主義で認められているはずです。西側諸国では、ロシア、イラン、中国をよく批判します。なぜイスラエル政府、特にパレスチナで起こる。多くの子どもたちを含む大量死、食料難、町々の破壊を非難して、止めることを非難していることが、ユダヤ人の人種差別になることに、疑問が湧いています。

穏健派であるオーストラリアのユダヤ人カウンシル は、約2年前に「反ユダヤ」について次のように、表明しました。

「抗議活動、ソーシャルメディアへの投稿、ボイコット等を含むイスラエル政府に対するあらゆる批判が、反ユダヤ主義であるという考えは、全くの誤りです。批判されない政府など存在しません」

全てのユダヤ人がシオニストではない

このユダヤ人カウンシルのように、イスラエル政権が進めるシオニスト(イスラエルの建国と領土拡大を進める人々)に反対したり、イスラエル政権に「ユダヤ人の名の下でパレスチナ攻撃を止めろ」という抗議をしたりするユダヤ人の人々もいます。これらのユダヤ人の人々の声は、主要メディアや政治家たちは、ほとんど取り上げず、無いものかのように扱われているようです。(こちら参照)

ユダヤ教者であることは、必ずしもイスラエル人であること、あるいはイスラエル国家を支持することと同義ではありません。世界に散らばるユダヤ人には、ネトゥレイ・カルタ(Neturei Karta:正統派ユダヤ教で自由なパレスチナを望み運動している)などのコミュニティーも広がっているそうです。同じようにイスラム教の人々も数々の派閥があり、過激派、原理主義派、穏健派と様々で、全ての人々がテロリストではありません。

私の知るユダヤ人は日本人のように思いやりがあり驚くほどです。好感もあります。イスラム教の人々に嫌悪感を感じたことはありません。そして、宗教を意識して接することはありません。それぞれオーストラリアのルールにそって生活している。宗教という違いが強調されることで、分断が煽られているのではないか、とも感じます。

ユダヤ人カウンシルなどの豪州でイスラエル政権を非難するユダヤ人の人々は、NSW州と国が、自分たちに耳を傾けてくれないので、自分たちで意見表明し署名を募る活動に乗り出しました。その内容を下に引用します。(こちら参照

「ボンダイ・ハヌカ虐殺を利用して分裂を招く政策を推進している政治家やロビイスト(陳情・圧力団体)に対抗するユダヤ人と連帯し、あなたの名前を追加してください。

日曜日、ボンダイで私たちは憎悪の恐るべき結末と、それがいかに暴力を生むかを目の当たりにしました。ユダヤ人コミュニティと国全体が悲しみに暮れる中、政治家たちは攻撃に転じ、悲劇を利用して分断を煽り、コミュニティ同士を対立させようとしました。

ハンソン氏とジョイス氏(野党国会議員)は、イスラム教徒とパレスチナ人の友人、家族、そして隣人を標的にしています。イスラエル首相のネタニヤフ氏とジリアン・シーガル氏(豪州反ユダヤ対策特使)は、市民の自由を侵害し、ジェノサイドに平和的に抗議する人々を攻撃しようとしています。ハスティー氏(野党国会議員)とフライデンバーグ氏(野党元財務大臣)は、移民コミュニティを攻撃することで政治的な利益を得ようとしています。

宗教や出身地に関わらず、私たちは皆、安全を感じる権利があります。 私たちの悲しみ、恐怖、怒りが、分断、イスラム恐怖症、そして反パレスチナ人種差別を広めるために武器として利用されることを許してはなりません。

ユダヤ人コミュニティは文化的にも政治的にも美しく多様性に富んでいます。その多様性が失われると、反ユダヤ主義と人種差別が蔓延します。極右のイスラエル政府はオーストラリアのユダヤ人を代弁しておらず、私たちの安全にも関心がありません。私たちだけが、お互いの安全を築けるのです。

私たちは、この考えられない悲劇を受けて、オーストラリア全土の人々に反ユダヤ主義、人種差別、銃による暴力に反対して団結するよう呼びかけています」

ひいきと差別

NSW州ミンズ知事もここに上げられる政治家たちも、ユダヤ人カウンシルの人々のように、パレスチナで起きている非人道的な行為を非難し、パレスチナ人に寄り添う言葉をきくことは、ありませんでした。抗議のデモに参加しません。

シドニー大学で講師を務める、リメアー博士のコラムが目に留まりました。下に一部抜粋で引用します。

「『ボンダイ事件のような事態を再びシドニーで起こさないためには、パレスチナ人に対するジェノサイドの継続を容認する必要があります』という主張は、悪質な人種差別的な裏側を持っています。特別扱いされる国や人々があるとすれば、他の人々は差別されているという事でしょう。

ガザでの大量虐殺から2年以上が経過したが、NSW州政府と企業の支援を受けたイスラエルによって、ガザの親族が殺害され、財産を奪われ、身体が切断され、飢えさせられたシドニー在住の何百人ものパレスチナ人に対して、支援策らしきものは一度も提供されていません。

NSW州ミンズ知事は彼らにほんの少しの援助も、思いやりの言葉さえ与えず、迫害と中傷だけを与えました。

先週金曜日、イスラエルはガザ地区の避難民避難所で6人を殺害した。同時に、人道支援に対する継続的な封鎖により、乳幼児の凍死が相次いでいます。

ミンズ氏にとって、こうした恐怖はこのまま続いても構わない。なぜなら、平和的に反対することは『私たちのコミュニティの中にある、抑えきれない力を解き放つ』からだと彼は主張します。

言い換えれば、ユダヤ人の安全のためには、想像しうる最も基本的な道徳的主張——つまり、ある人々の「存在そのもの」を理由に大量虐殺を行うという行為を反対する人々の声を抑圧することを必要だという事です。

それは間違っている。“だから、ガザでパレスチナ人が殺害されている間、私たちは沈黙するように言われているのです。”」(全文はこちら

これらの意見からイスラエル政府批判を”差別だ”とされるのは、論点のすり替えで、理論が成り立たず、イスラエル政府への非難を封じ込めるために、ユダヤ人の人々を利用しとしているようにうに感じます。また、反ユダヤ主義が広がる一因だという見方もあります。

ボンダイ・ビーチで命を失ったユダヤの人々は、誤った反ユダヤ主義の定義の犠牲になったのではないか。そしてもし、表現の自由と民主主義の弱体化のために人々の命が利用されたのなら、怖いことだと、思いを巡らせてしまいます。

内政干渉するな

イスラエルのネタニヤフ首相は、ボンダイでユダヤ人が攻撃されたのは、「豪州がパレスチナ国家承認を支持したからだ」「あなた方の政府は反ユダヤ主義の蔓延を阻止するために何もしなかった~略~病気を蔓延させ、その結果、今日私たちが目にしたユダヤ人に対する恐ろしい攻撃が起きたのだ」とまるで、事件が豪州のアルバニージ首相が起こしたかのような口ぶりでした。豪州は多文化の人々が暮らすため、人種による差別はずっと禁止されてきました。私は豪州の人々は、ただイスラエル政権のパレスチナでの行為に人道的に反対や非難の声を上げている、という印象です。

8月、ネタニヤフ首相は、パレスチナの国家承認をした豪州政府に対して「歴史はアルバネーゼ首相を、イスラエルを裏切り、オーストラリアのユダヤ人を見捨てた弱い政治家として記憶するだろう」という発言もしました。

これらに対して、豪州の大御所の元政治家たちから抗議の声が上がりました。

元財務大臣(労働党)のスワン氏は、こう投稿しています。

「ボンダイでの犠牲者の追悼集会に到着した、アルバニージ首相に対し、ブーイングをしたユダヤ人の人々がいました。しかし、彼らはイスラエルのネタニヤフ首相を支持しています。ネタニヤフ首相は1200人のイスラエル人が、イスラエルでハマスによって虐殺されることを許したのにです。このような偽善が尊重されるようになるとは、信じられない事です」

元オーストラリア首相のタンブル氏(自由党)は、豪州首相への非難に対して次のように、はっきりと反対意見を伝えていました。  

「ネタニヤフさんどうぞ、私たちの政治に距離を置き、干渉しないでください。私はネタニヤフ首相を良く知っています。あなたの発したようなコメントは、助けになりません。正しくもありません。パレスチナ国家承認は、世界で多数派です。イスラエルもかつては、2国間解決を支持していました。私は外国の争いを豪州に持ち込まないことを主張していました。私たちは、多文化共生国家を築くことに成功してきました。ここに争いを持ち込まないでください」

ファルキさんとミッシェルさんの指摘のように、オールドメディアは、ネタニヤフ首相、右派(より親イスラエル)政治家、主流メディアの最上級ジャーナリストや編集者からなる連合からの4日間にわたる容赦ない圧力により、首相は明らかに決してやりたくないこと(ヘイト・スピーチ規制の名の下の表現の自由規制やビザの取り消し強化等)を行うよう追い込まれたようです。

ボンダイの事件直後から、待ってましたとばかりの勢いで、時には過剰と感じる興奮と感情をあらわにした首相の非難が繰り返し報道されました。人々の自由を奪わない政策は、弱い政治家だと言われ、自由を守ろうとする政治は、弱さの表れだと、非難されていました。それは、反対だという意見は、報道されず、そのためXを通じて#IstandwithAlbo(私はアルバニージ首相を支持する)が、トレンドの1位となる現象が起きました。

そして、アルバニージ首相が、シオニストの要求に応じず、自由の規制(イスラエル非難を抑制するルール)を豪州の人々に強要しなければ、また不幸なことが起こる、または世界各地や豪州でもかつて起きた政権転覆が起こるのではないか、という思いがよぎりました。

おわりに

前述のリメアー博士のコラムの最後の言葉のように、私はただ“シドニーでも、日本(ふるさと)でも、パレスチナでも、地球のどこでも虐殺が無い世界に住みたい”多くの豪州人や世界の人々は、そういう思いで、抗議やデモに参加し、声を上げていると改めて思いました。

冒頭の写真は、近所にあった“FxxK Trump”と “Free Palestine” の落書きが描きなおされていたものです。隅に小さく遠慮がちに、パレスチナの旗とアボリジナルの人々の旗が描かれていました。下はその写真です。

今年も、私のコラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。読者の方々にも、2026年少しでも多くのハッピーな出来事がありますように!


今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。