冒頭の写真は、豪州の子どもたちと保護者が選挙当日、投票場の入り口でBBQやお菓子、飲み物を売っている様子です。売り上げは全て学校に寄付されるそうです。ジュージューという激しく焼ける音と美味しい臭いが漂っています。
お母さんは、性被害を乗り越えたTameさん(連載第4回で紹介)のTシャツを着ていました。BBQのソーセージはデモクラシー・ソーセージという名で、投票日に食べることがお決まりです。
豪州で気づいたことは、民主主義/デモクラシーのとらえ方が違うことでした。投票率90%という高さも不思議でした。米大統領選の投票率は近年では2020年が一番高く、それでも約65%でした。
日本の学校では多数決で物事を決めます。選挙もダントツで自民党が勝つ。数の多い方に従うことが民主主義。一番良い制度。だから数で負けると従うしかない。
でも、豪州では多様に民主主義をとらえているのが新鮮でした。
良いイメージの民主主義の例
・少数派の声は民主主義を強化します(豪州政府教育機関)
・人民の人民による人民のための政治(リンカーン米大統領)
・大衆が情報にアクセスでき、意志決定に参加し影響を及ぼすことが出来る社会のこと(ノーム・チョムスキー言語学者、哲学者)
・政治は世のため人のため 誰ひとり見捨てない政治(泉房穂前明石市長)
悪いイメージの民主主義の例
・民主主義は自然と独裁者を生む。全く自由の中から、横暴極まる圧政と奴隷制度をもたらす(プラトン哲学者・プラトンは哲人の独裁政治を提唱し興味深いところです)
・民主主義という意味は人民の人民による人民のために殴りつけ強要すること(アイルランドを代表する文学者オスカー・ワールド)
・大衆を意思決定に参加させず、情報のアクセスは巧妙に管理される社会のこと(ノーム・チョムスキー言語学者、哲学者)
・利権と自身のための政治 貧富や差別で国民を分断(Samejima times ・筆者の連載第3回)
ちなみに「民」という漢字の語源は、大きい矢が針で目を突き刺す形で記されました。おそらく異民族を戦争でとらえ、その『人』の『目』に処罰を加えるものと考えられる、と本で読んだことがあります。
岸田首相や西側のリーダーは、よく「民主主義を守るため!」と威勢よく言いますが、ネガティブで悪い方向の民主主義に走っているのではと危惧しています。
民主主義は、やりようで良くも悪くもなるもので、どちらに導こうとしているかという点で大きく違ってくるでしょう。日豪を比べて大きな違いは、選挙のシステムとルールです。
ポジティブで国民のための民主主義への選挙
1 最大の多数派、少数派マイノリティーを不利にしない選挙
豪州の民主主義で印象的なことは、多数派で決めることだけでなく少数派も大切にすることです。「少数派の声は民主主義を強化します」また「市民が自分の代表者が良い仕事をしていると思わない場合、次の選挙で新しい代表者に投票できます」と政府教育機関からも教えられます。有権者は、多数派のためだけでなく、より国全体としてよい政治を行う方を選ぶ、という意識も育てられるのでしょう。(連載第2回参照)
少数派を足せば多数派を上回ることはあり、政府が少数派の声に耳を傾けながら行う政治は、泉房穂さんの「誰一人見捨てない政治」に通じると思います。
選挙にも少数派の声が反映される「優先順位投票」が採用されています。全候補者に希望の順番を数字で記入します。下の写真のように党や候補者がすすめる記入例を受け取り、参考にすることができます。番号を足し、計算式で得点数が割り出されます。ですから優先希望1位を一番多く得ても、落選することがよくあります。
日本でも少数派を合計すると多数派を上回ることは、よくあります。例えば、下のツイートのグラフ、4月末の千葉5区補選の例です。よく野党乱立で自民を利するというジレンマに陥ります。自民党に投票が一番多いですが、優先順位投票にすれば、違った結果になる可能性大です。
また、野党の中には、勢いのある維新に日和ってしまい、目指す政治を見失っている議員もいるようです。この制度にすると、他党に遠慮せず全選挙区で全政党が候補を立て、それぞれの社会像·政策·人柄で、勝負する本来の選挙ができるのではないでしょうか。
システムを変えて野党分断や政治ゲームをストップさせるべきです。
2 不公平な制限選挙を公平に(供託金300万円と無所属への不平等ルール)
300万円の供託金は、法の下の平等とは思えません。庶民派で議員を目指そうとすると、政党に頼らざるを得なくなります。これは、支配者が扱いやすい二大政党に議員を集めるための仕組みだと感じます。
豪州の国政選挙では供託金は$2000(約20万円)です。その代わり、選挙区から100人の推薦人が必要です。日本も供託金を数万円程度に減らすか廃止するかして、推薦人最低100人+推薦文と理由(ある程度の長さ)を提出させ、それを公開して国民が見ることができるというのは、どうでしょうか。
下の写真は泉房穂さんの言う「政治は結果だ」と同じ意味No Excuseというシャツを着た、若者に人気の第三政党グリーンのサポーターです。
3 投票率アップ
豪州では第一次世界大戦後、急激に投票率が落ち、国民の政治離れを危惧した与野党が合意して、選挙が義務化されました。国の政治を守り変えることができるのは国民ひとり一人の投票だという先人の知恵です。
選挙に行かない人は$20(約2千円)支払いが求められるだけですが、究極、誰も選挙に行かなければ民主主義は成り立たないし、選挙には大きな費用が掛かるので納得できます。優先順位投票と投票義務があるから政権交代できたという声も聞きます。
日本で投票を義務にして罰金を課すと選挙にネガティブなイメージが沸くでしょう。今は物価高なので、投票した人に、地域の商品券や貨幣の配布、一緒に来た子どもたちが楽しめる企画をすれば、選挙が待ち遠しくなるのではないでしょうか。
投票率アップは喫緊の課題です。投票に足を運ぶ習慣をつければ、社会政治に関心が向き、投票は大切だ、行かなければならないという意識が根付くと思います。
政権与党は投票の義務化を行う可能性は低いと思うので(法的にどうかは分からないのですが)まず都道府県や地域で「ポジティブな民主主義を広げよう」というリーダーにぜひ実施しほしいです。そして、全国に広がれば選挙が盛り上げるでしょう。キャッチフレーズやキャラを地域ごとに考えるのも面白いと思います。
4 エコで公平な選挙
やたらと看板にポスターを張ったり、街宣車で名前を連呼したりするスタイルは日本の特徴ですが、一向に投票率はアップしません。その上、辻元清美さんの衆院選では、他の野党が街宣車から誹謗中傷を浴びせる光景を見ました。
豪州では街宣車を見たことはありません。私の地域では選挙ポスターを見かけるのは投票所周辺のみですが、それでも投票率は約90%です。
政治家の街宣車の代わりに地方行政が選挙啓発の街宣車を走らせ、各候補の紹介や政策パンフレットを郵送し、ホームページでも公開すれば、経済的な不公平が軽減され、庶民からも政治家を志して立候補する人が増えるでしょう。雇用も生まれます。政党助成金を減らして賄えばどうでしょうか。
問題のある政党助成金(Samejima times)は国会議員5人以上などの要件を満たす政党にしか配布されず、幹事長が使い道の権限を握り、大きな政党が優位になります。議員は資金を受けるために党に縛られ、健全な民主主義を妨げている制度に見えます。無所属を含む各議員へ政治活動のために適切な額を配布し、小さな政党や無所属への不利な条件を無くすべきです。
5 主要メディアと選挙期間
選挙期間は約2週間では足りません。
豪州では6週間にわたって毎日、数時間以上は選挙について報道され、SNSやYouTubeでも流されます。主要政党の代表は生放送で約30分間、毎日メディアと自由な質疑応答を遊説先でも行います。主要議員も同様に行います。生放送の党首討論も3回は様々な形式で、局を変えて行われ、視聴者は評価し勝ち負けが決まります。これらをこなした候補者が首相、リーダー、議員に選ばれる資格があるのだと思います。
日本の有力政治家たちは示し合わせて、国民の前に出て話すことを避けているようです。これでは国民が判断することが難しい。NHKは地方局もあるので選挙期間中、毎日各候補を追い報道することもできるはずです。義務づける法律を制定するなどできないのでしょうか。
暗殺された前米大統領JFケネディは「一人の有権者が民主主義に対して無知であることは、あらゆる安全を低下させる」と警告しました。
6 都道府県の選挙
これは疑問なのですが、なぜ国政と違い、都道府県は議会と首長選が別々なのでしょうか。首長が民主党系で当選しても、議会は自民多数でねじれが起き、いつの間にか自民党に取り込まれていくことが多く、落胆することが多々あります。
民主党政権で道州制度が提言されていましたが、これを復活し、国政選挙スタイルを実施してはどうでしょう。地方の権限と予算を増やし、国の権力が影響が及ばないようにし、そして地域で自由にクリエイティビティを発揮し、切磋琢磨し、日本全体が活気を取り戻せば、選挙も盛り上げることができるはずです。
7 団結野党として約束を守る
野党は、国民や国を守ることを約束し裏切らないと約束することは必須だと思います。
例えば、これ以上庶民の負担になる増税を行わず減税する。憲法を守り防衛のみで他国の戦争に加担しない。非常事態法制に反対。非常識な軍事品の爆買いや海外へのバラマキは行わない。危険で膨大な費用が掛かる原発は廃止するなど、与党や「ゆ党」との違いをはっきりさせ、国民へ強くアピールすることは難しくありません。国民の不信を払拭して欲しいです。
まだまだ課題はあると思いますが、アイディアを出し合い日本独自の選挙をデザインすることで、社会も活性化すると思います。良い意味の民主主義の実現を願います。
最後に少し3月末にあったNSW州の選挙の様子を伝えます。
以下のツイートは、政権交代した労働党の代表のメッセージです。選挙後に「尊重と品格を保ち純粋な政策アイディアのバトルだった。それができることを証明した」と与野党代表でエールを送り合う気持ちの良い選挙でした。これで8州(準2州含む)のうち7州が労働党政権になりましたが、NSW州では過半数に届かなかったので、グリーン党や無所属がキーポイントになります。
下の写真は投票当日の様子です。豪州では選挙当日も選挙活動ができて話を聴けます。投票場では子どもたちがパンフレットを楽しそうに配っていました。泉房穂さんが「子ども政治学校」を開かれることのこと、楽しみです。小さい時から政治に親しめば、素晴らしい政治家や興味を持つ人も増えるでしょう。(参照)
今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。