嘘から戦争が始まったのなら、平和は真実から始められるーー。これは数々の国際的なジャーナリズムの賞を受賞した豪州人Julian Assangeジュリアン・アサンジ氏から世界へ広がった言葉です。
英米は公益情報を国家機密だと主張し、戦争犯罪を暴露したアサンジ氏を犯罪者だとして拘束しています。グローバルサウスの政治家たちと一般の人々たちは、アサンジ氏の早急な釈放を10年以上も訴えています。彼をヒーローだと呼ぶ人々も多くいます。
5月20・25日はシドニー市街で幾つかの集会が開かれました。バイデン米大統領の来豪に合わせ、AUKUS(英米豪の軍事同盟)や戦争に反対し、アサンジ氏の釈放を求めるために計画されたものです。しかし、バイデン大統領は米国内の債務問題への対応を理由に来豪をキャンセルしました。(関連記事)
アサンジ氏は、嘘から始まったイラク戦争、アフガニスタンでの戦争犯罪、グァンタナモ軍事基地で主にアジア・中近東・南米の人々が非人道的に扱われていることを世間に明らかにしたことで英米に拘束され、懲役175年という理不尽な刑を科されました。5月30日の豪州での世論調査では、89%が豪政府は米国と交渉してアサンジ氏を釈放させるべきだと回答しました。豪州政府も与野党共に釈放を求めています。
集会のある市街中央のTown Hallに向かってまず驚いたのは、目に飛び込んできた白青赤の大きな旗でした。オゾン層が壊れた下にある、目に染みる真っ青な空に、いくつものロシアの国旗が舞っていました。白は高貴と率直を、青は名誉と純潔性を、赤は愛と勇気を表す。 また、白がベラルーシ人、青がウクライナ人、赤がロシア人を表すそうです。米と西側諸国やNATO(その軍事同盟)の東欧への進出とウクライナ戦争の加担を抗議するものでした。
アサンジ氏の父、兄、夫人も英から集会に参加しました。この集会は各TV局でも放送されました。下はその時の様子です。
アサンジ氏は2×3メーターの狭い牢獄に1日22時間閉じ込められ精神的・肉体的苦痛を与え続けられ、この問題は彼自身だけのものではなく、世界の報道の自由・一般人のFree Speechフリースピーチの危機だ、と言われています。英米豪以外の国々でも問題視され、釈放の声が高まっています。
G7広島サミットにも出席したブラジルのLulaルラ大統領は「平和・環境保護・差別撲滅」の民主主義を訴え去年再選しまた。新興国をまとめるリーダーとして期待されます。
大統領2期を務めた後、2010年政治的策略だと言われる収賄容疑で服役させられた経緯があります。大統領はウクライナに武器を提供し続け、終戦させようとしない米と西側諸国を非難し、アサンジ氏の拘束についても次のように訴えています。
汚職を非難したジャーナリストが、逮捕され刑務所で命を失わせようということは、恥ずべきことだ。クレージーだ。フリースピーチを提唱しながら、一方で犯罪を指摘した人をスパイだと捕える。捕まえた権力側はスパイを続けている。私には理解できない。世界的に行動を起こして、ジャーナリストたちを救おう!
また、豪州ではアフガニスタンでの戦争犯罪を指摘した軍の弁護士、税務署の不合理な税の取り立てを指摘した公務員が、終身刑に直面しています。日本での特定秘密保護法や共謀犯等は、このように政府に不都合な事実が暴かれないように、また理不尽なことが許されるために制定されているようです。 “Rules – Based Order”命令されるルール、という民意に反して続々と悪法が制定される状態は、権力で人々を縛る権威主義の社会で、民主主義と言えるのでしょうか。
アサンジ氏が長期拘束され、他国でもジャーナリストたちの逮捕が次々と起こっています。
このように政治の世界では「嘘や言語不一致」という理不尽が横行し、矛盾が溢れる社会が増々、現代の民主主義社会の特徴でしょう。
また、アサンジ氏はすでに逮捕される12年前、次のように訴えていました。
アフガニスタン戦争の目的は問題を解決することではなく、アフガニスタン戦を通じて、米やヨーロッパ諸国(日本も含まれるでしょう)の課税基盤から資金を洗い流し、その資金を多国籍の安全保障に戻すことです。目標は終わりのない成功しない戦争を続けること。戦争を続ける人々を止めることが必要です。なぜならこれを普通である社会をつくってはいけない。そうしないと2、3年以内に不断に続く戦争が始まるでしょう。その時、戦争は異常でも、驚くべきものでも、怖がるべきものでは無くなっているでしょう。戦争はNew Normal ニュー・ノーマルになってしまう。ですから人々に深慮深くなり、気づいてほしい。
そして今、世界の現状を見渡すと、アサンジ氏が予言したように、複数の国で紛争や戦争が続いていて、それに加担するように平和・終戦ではなく“War-monger/Fear-monger”と呼ばれる戦争や恐れを吹聴する主要メディアや人々の言葉が、拡張されていると感じます。
5月末には、コソボのセルビアの国境付近で争いが報じられました。朝鮮半島やベトナムのように、コソボはNATOや西側の援助を受けて、親露のセルビアから分断されました。北部コソボはセルビア人が多く住み不満が募り、選挙がきっかけでNATOが出動するほどの騒動が起こりました。この地域は、セルビアに属したい多くの意向があるにもかかわらず、EUが許可していないそうです。
このような中でも批判を恐れず、社会に影響を与える人々が、戦争・不正に反対する声を上げていることは、心強いものです。
男子テニスの世界ランキングのトップ争いを続けているノバク・ジョコビッチNovak Đoković選手は、子どもの頃NATOがセルビアの自宅周辺を爆撃し、逃げ惑った体験と今も感じるその恐怖を語っていました。そして、全仏オープンの試合終了後に「コソボはセルビアの心だ。暴力を止めよう」とカメラに書き。会見では、社会的な役割を果たすためにこのメッセージを送ったことを、臆せず伝えました。
先日の集会でもNATOに抗議する声が上がっていました。
この原稿が、もう少しで書き上がろうという時に、アサンジ氏の新しいニュースが飛び込んできました。
豪州や世界でアサンジ氏の釈放への期待が高まる中、米のFBI(連邦捜査局)が、新しい疑いでアサンジ氏の捜査を始めたということです。豪州は米から破格の原子力水潜艦を購入し、米に必要なミネラルを提供し、一番親しい同盟国として協力してきたはずなのに、豪州人アサンジ氏に更に懲罰を与えようとする姿勢に、SNSでは、失望や怒り非難のコメントが相次いでいました。
イギリスの循環器医Aseem Malhotra氏は、ワクチンや被害の真実を求めるキャンペーンを豪州各地で開催しています。大手TV局にも出演しました。その内容は今回は省略しますが、なぜコロナやワクチン被害・環境破壊・戦争など非人道的な問題が次々と起こるのかを理解するうえで、必要な事実を指摘していました。
それはカナダの社会学者・犯罪心理学Roger Hare氏が明らかにした、企業(個人ではなく)は、利益追求のためにサイコパスのように振る舞い、罪悪感を感じられず、利益のためには 真実を隠し、ずる賢いことを行う傾向があることを理解しなければならない、ということでした。
また、米の心理学者Stanley Milgram氏の「アイヒマン/服従の実験」というのを目にしたことがあります。戦時下でなぜ人は残酷になるのか、という疑問から始められた研究です。
調査は、教師役は間違うと生徒役により高い電圧を加えていくという内容で、指示者が強く指示することで、悲痛な声が出る最大の電圧を85%の教師役が与えたそうです。この結果が示すことは、参加したのは善良で一般的な人々ですが、権力を持つ者から命令を受ければ、高い確率で非人道的行動をとる、ということです。信じがたいことですが、自戒も込めてこの事実を認識する必要があると思います。
戦時下だけでなく、今の政府や与野党の議員が、庶民に増税を繰り返し生活苦を高め、衰退を招く悪法を通すのは、これらの理論が働いているのではないでしょうか。
社会や組織で、指示・命令のされ方でモラルを失うことが過半数を超えるという兆候は、民主主義の下で、腐敗へと進んでいく可能性が大きいことの示唆でしょう。これを防ぐためのルール・システムづくりが必要ですが、世界覇権を目指すグローバリストと強く繋がる今の社会は、健全な方向に向かっていないのではないでしょうか。
方向転換するために、隣国との分断や争いの工作に乗っている政党や候補者はとても危険なので、多くの有権者が現状に気づき、投票してほしいと思います。人々のために政治をするという自負のある政党は協力し、有権者に選択を与える責任をもち、全選挙区に候補者を立ててほしいと思います。
その中で希望は、アサンジ氏のように公益のために、支配層が隠しておきたい真実を人々に伝えよるジャーナリストや独立したメディアの出現だと言われています。ですからそれを疎ましく思う支配者たちに、拘束されたり、追いやられたりするのでしょう。
5月末には、Roger Watersがトレンドになりました。もうすぐ80歳になろうとする現役ロックンローラーで、今でも精力的に各地でコンサートを行い、アサンジ氏の支持者でウクライナ・パレスチナ紛争の終結を訴える活動もしています。
彼のコンサートでは、大きくよく肥えた豚の風船が宙を舞っています。その腹部には”Steal from poor, Give to the rich”と書かれています。強い正義感から過激な演出になり、物議を醸しだすこともあります。(こちら参照)
その後、生涯を通じて権威と圧力に異議を唱えてきた。私のパフォーマンスはファシズム・不正義・偏見に反対し疑問を投げかけるものだ。強く批判されても続ける、というメッセージを送りました。
アサンジ氏のために「君がここにいてほしいWish You Are Here」という柔らかくやさしい歌をコンサートでもよく歌うそうです。平和や公正を求める人々には、大きなエネルギーを与えています。下はコンサートの様子です。
最後に「真実を求める集会」と「Free Assangeアサンジを自由に!」の集会の写真を載せておきます。
今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。