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こちらアイスランド(31)夏だけ通行可能なF道を駆け、雪道を歩いて「Víti(地獄)」という名の温水湖へ〜小倉悠加

(前回の話) いやはや、夫に任せているととんでもない旅になる。夫がそこへ行ったのはン十年前に一度だけ。なのによく調べず、その時の印象だけで「早く帰れたら滝を見に行こう」などと前日に言われていた。結果、ホテルに帰れたのはギリギリ夜中前。どんだけ計画性ない?!

目的地はアスキャ(Askja)という火山地帯にあるヴィティという温泉湖。湖全体が温泉で、泳ぐこともできるという。うーむ、温泉湖と聞いては行かない訳にはゆかぬ。

アスキャはアイスランドの巨大な中央高地の北部に位置する部分で、標高1500メートル級の火山であり、そこに重なるカルデラと周いの山を含む地域全体をしめす。ヨーロッパ最大の氷河ヴァトナヨークトルの北西部にもあたり、NASAがアポロ計画で飛行士の訓練を行ったことでも有名だ。

ーーーという能書きだけで、なんとなく凄そうですよね?!

アイスランドの内陸部は夏の数ヶ月のみ通行できる場所が多く、そういった道には道路番号の前に「F」が付いている。当初私はそれを四駆のみ(Four x Four car only)という意味だと思っていた。アイスランド語が母国語なのに、おかしいなぁ?とは感じたものの、道路標識は国際基準であろうから、標識がそのように統一されているのかと。

ンな訳ないっちゅーの!

「F」はアイスランド語で山を示す「fjall(複数はjöll)」の頭文字だった。高地を走る山道のことで、通常6月下旬からオープンし、9月末ごろに閉鎖される。通行可能の時期は、天候や地表のコンディションにもよるため、毎年何月何日から開通するという日付は定まっていない。

荒涼なるワイルド感極まりないアイスランドの山道。

普通乗用車で通れるF道は少ない。入り口に「四駆以外この先通行禁止」と書いてあるところや、川渡りがあるため、「車高が高い車以外は推奨できない」という注意書きも。これらの情報は当局のサイトを見れば大体分かるし、川の水位に関しては電話をすれば最新情報を教えてくれる。

はっきり言って(精神的に)たーいへんだった。車が新しく、まだ運転手が車と馴染んでいなかったことも大きく、本格的にF道を走るのも初めてで、勝手がわからず無用な躊躇や冷や汗が多発。

加えて、「道が分かれてるけど、どっちへ進む?」のような、標識があればいいのに〜という場面も。スムーズに走れる場所は稀で、大体が以下の動画のようなゴツゴツ、でこぼこの道。まじでワイルドだ。

そんな道を走って4時間、ドレイカギル(Dreikagil)という峡谷に辿り着いた。ここにはDrekiというキャンプ場があり、生命の気配に乏しい殺伐とした場所を通ってきたので、人を見てホッとした。峡谷の断崖絶壁は迫力があり、歩いて中へ入ってみたくなる。キャンプ地があるとは知らず、一泊できないことを悔やんだ。

ドレイカギル峡谷。この手前にキャンプ場がある。
キャンプ場を通り過ぎ、いよいよ目的地へ。アスキャの看板を見てちょっと感動。

あと数キロで目的地へ、というところで突然雪の壁の中を走ることに。7月初旬とはいえ、高地であり、数日前に雪が降ったという。でも、雪はきれいに整備されているというか、高地にしては交通量があるので、自ずと整ったのかも。

そして目的地に到着!と言いたいところだが、まだ続きがあるんだなぁ、これが。

グーグル地図の検索でミーヴァから170キロ、所要時間3時間10分の道のりを、4時間半をかけて走った。右へ左へと車体は揺れっぱなし。そして慣れない川渡りまで。

4時間以上、精神的な緊張と物理的な揺さぶりを続けられ、ドライブだけでいっぱいいっぱい。なのにやっと到着した駐車場の周囲は雪だらけ。ここから2.5キロの道のりは、雪の中を歩く(往復5キロ!)。いやはや、まったくぅ。

駐車場から目的地まで2.5キロ歩くことは分かっていた。平坦な道だと聞いていたので、その程度なら歩けると思っていた。けど雪は想定外!(トホホ)。

靴に入った雪でグショグショになりながら歩いた往復5キロの道っぽいところ。平坦だったのが救い。

そしてやっとやっと、現地に到着。もー、この時点でいろんな意味で結構ゲンナリ。お姫様のようにお籠で連れてきてもらえるならまだしも、自らの足で溶けかかったシャリシャリの雪の中を歩くのは大変。そして、想像以上に湖面までの道のりが急斜面!

「なんでこんな場所へ来ちゃったんだか」と日本語でぶつぶつ言いながら、ここまで来るのに費やした労力と時間を考え、恐る恐る湖面へ降りることにした。怪我をして迷惑になることは避けたいお年頃なので、急斜面ではへっぴり腰。ノロノロとしか動けない。

湖からカルデラの上へ登っている途中、身動きが全く取れなくなり彼に引っ張り上げてもらった。雪の上は楽に歩けた。
やったぁ、Víti(=地獄)という名の温水湖に到着!

湖面に達すればこっちのもの。これまでの苦労なんかサ〜っと忘れて、「うわ〜、いい感じじゃん!」と気分はV字回帰。

湖水を触れば、あったかい!皮膚感覚で25度。いい湯だな〜ほどの暖かさはないけれど、この日は風もなく、まだお日様もある。浸かっても寒くはない。

入ってきました証拠写真。硫黄分が非常に強く、石鹸で手を洗っても硫黄の匂いがとれなかった。

湖を独り占め(正確には彼と二人占め)で何かと面白かった!硫黄臭かった!楽しかった!カルデラの上から見てた観光客のいい被写体になってあげた!(たぶん)

水は濁っているけれど、水面はキラキラと太陽に光って美しい。水泡が出ている部分もある。足の指の間から暖かな温泉がボコボコと湧き出ているのを感じた。自然ってすごいわぁ。

湖水には30分ほど浸かっていただろうか。その後、着替えるために適当な場所に腰を下ろすと、お尻の部分があったかい。え???そうか、ここは温熱地帯。地表に近いマグマが水を、地を、暖めているのだ。

着替えをする目の前に見えていたカラフルな場所は、まさに生きた温熱地だった。

よく見れば、黄土色の周辺の穴から、蒸気が吹き出していた。火傷するほどの温度ではなかったけれど、いつそれが変化するともしれない。彼が以前大火傷をしたような、高温の泥沼が隠れているとも限らない。用心用心。

ちなみに、Víti(ヴィティ)という湖はアイスランドにふたつあり、ひとつがこの温泉湖。もうひとつはKrafla(クラプラ)の地熱発電所近くにある。名前は同じでも別の湖なので混同しないでね。

それから、この温水湖のすぐ隣には、Öskjuvatn湖がある。面積11平方キロもある大きな湖で、深さ最大220メートル。水が冷たすぎて遊泳はできない。

手前がVítiで、奥に見えているのがÖskjuvatnという湖。

温泉湖への登り下りも見事にこなし、ホっとして少し周囲を探求。カルデラの細い部分がふたつの湖を分けているだけなので、同じ場所から写真を撮るのでも、アングルが異なると全く別の場所のよう。

後ろに見えるのが温泉湖のViti。
こちらがOskjuvatn側。風がなく、晴れ間にも恵まれ、湖面の反射がロールシャッハ・テストに出てくる画像のようになってた。

初の本格的F道走行、雪道のハイキング、急斜面の登り下り等、前人未到の地ではないにしろ、私にとっては前代未聞の冒険だった。

帰路はスムーズだったとはいえ、雪道の2.5キロには閉口したし、気分的には楽でもドライブ自体は険しかった。19時半に駐車場を出て、夜中前にホテルに到着。

疲れと引き換えに、楽しく思い出すことのできる話題と自然の驚異をたっぷり体験できた。改めてアイスランド、凄すぎるわ〜。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。アイスランドと日本の文化の架け橋として現地新聞に大きく取り上げられる存在に。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。