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こちらアイスランド(37)夏の一周旅行も最終日。旅の終わりは夢の終わり〜小倉悠加

天候の関係で山登りが最後のイベントとなり、雨天を数日過ごした後、毎年恒例のアイスランド一周もこの日が最後。今回は二連泊の場所を増やしたので少しだけ落ち着いた気分になれたとはいえ、家を二週間も離れると、自分が水に浮かぶ藻のように、どこまでも止まるところを知らず流れ続けていくような気がしてくる。

同じ場所にとどまる生活とはどんな感じだったのか?長時間の無理な移動にブーブー文句を言いながらも、心の中ではそんな驚きに満ちた旅が実現している今の自分が、夢のようにも感じた。

「こちらアイスランド」の読者の皆さんも、アイスランドの写真を見ながら「夢みたいな生活だ」と思っているのではないだろうか。私自身も夢のような気がしていたし、こうして写真を見返すと、なんと素晴らしい場所に身を置いたのかと驚愕に近いものを感じる。

前回のハイキングの下山後のひとこま。水面の反射が美しい。風がなくて歩きやすかった。

夢の終わりは意外にもあっけない。この日は最終日ではなく、翌日ないし翌々日が最終日になる予定だった。天気のいい場所でキャンプ場を見つけ、車中泊を考えていた。

数日間お世話になったエスキフョルヅルの家を出たのは、午前中の遅い時間。レイキャビクまでは約800キロあり、とても1日では走れない。とは言いつつ、3年ほど前に、実は3日間でアイスランド一周をしたことがある。その時はエスキフョルヅルからレイキャビクまでを1日で走破した。

私たちは滝が好きだ。アイスランドは滝の宝庫で、名前の無い滝がゴマンとある。手軽に寄れる滝が大好きで、彼と私は自称の滝ハンター。道路からよさげな滝が見えると、路肩に駐車できる安全な場所を探し、勇んで滝へと向かう。

最初の滝は出発まもなくすぐに目に入った。というより、前回見つけた滝に寄りたかった。ハイキングの翌日が雨でさえなければ、この周辺を歩きたいと思っていた場所。小さな滝が幾重にも重なり、水の流れの間を歩くこともできて、なかなか楽しい。

この川沿いを上流へ歩けば、もっと滝がありそう。来年もまた来たい

景色の大きさは写真一枚では表現しきれない。動画の方が雰囲気はわかりやすいかと。

この時点で既に正午。先を急ごうと車を走らせる。天気が良くてありがたい。これを書いているのは8月の末。アイスランドは既に秋を行き過ぎ、日本の初冬の雰囲気をかもし始めている。天気のいい日のドライブの、それも夏真っ盛りの植物に彩られた動画を見ると、泣きたくなるほど夏を愛おしく感じる。なんと貴重な日々だったことか。

昼食は美味しいパン屋で購入したサンドイッチ。平均的なパン屋は数あれど、美味しいパン屋は貴重な存在。景色のいい場所のピクニックテーブルを探したものの、7月半ばはアイスランド人の大移動シーズン。どこのテーブルにも先客がいたので、落書きだらけの倉庫が視界の邪魔をする、風光明媚台無しの場所でひと息つくことに。

とは書いたものの、よく見れば、海は青く光っているし、山もくっきりと気高い。気持ちのいい夏の空気は十分に伝わってくる。あぁ、青空よ、レイキャビクに戻ってきてくれ〜(話が逸れてごめん)。

ご飯を終えて、再度ひた走る。

滝ハンターたるや、滝に寄らなくてどうする。道路から滝を見かける度に値踏みをする。値踏みといっても、まずは車を止める場所が近くにあるかが一番大きな要素。

アイスランドでは緊急時以外、路肩に車を止めてはいけない。路肩駐車は非常に危ない。路肩に止めるのであれば、然るべき場所を探さないといけない。車があまり通らない場所でも、私たちはこれをしっかり守ることにしている。

良さげな滝が見えたので、メモ代わりに車中から撮った写真。どこが滝かわかるかな?

この滝はいい匂いがしたので、探検に出ることにした。運よく車を駐車できる場所もあった。

場所もうろ覚えで、あまりご紹介するに値することがなく、目に涼しければ幸いです・・・。

次は卵アート。アイスランドの野鳥の卵にインスパイアされたアートだそうで、彼が「インスタ映えするらしい」と、柄でもない理由から見に行ってみた。

デューピボーグル (Djúpivogur)という街の名物Eggin í Gleðivíkとタイトルされたアート

アーティストには申し訳なかったが、正直なところ面白くなかった。見る時間帯にもよるのか?見かけ倒しの観光客集めだと思っていたアークティック・ヘンジが、予想外に奇想天外だったのとは真逆だった。

雰囲気のいい場所にこのアートがあると感慨も違ったのかもしれないが、ここは倉庫街で写真の右奥にクレーンがあり、雰囲気としてもイマイチ。コンセプトは悪くないし、鳥が好きであれば、私には見つけられなかったツボがあるのかもしれない。暇なら行ってみれば?程度のおすすめ度。

そしてまた走る。

少し雲行きが怪しくなってくるが、まだ青空は見えている。

「今夜、どこらへんで宿泊する?アテはつけてあるの?」

日本人は計画性を重んじる。私はどこに宿泊するのかを前夜から知りたかった。その時は「天候を見つつ適宜」と言われたので、それ以上は追及しなかった。お天道様の都合を理由にされては、問い詰めようようがない。でも当日の午後3時であれば間も無く夕刻だ。天気も見極めて然るべきだろう。

彼の計画性を疑っているように響くのを避けて、努めてさりげなく、そろ〜っと探ってみた。すると

「天気次第だし、南海岸あたりまでは戻りたい」

また天気かよ、チッ。と心の中で悪態をつきつつ、笑顔で「そうだよね〜。アイスランド、天気変わりやすいし、地域差も大きいしね〜」と、裏と表の顔が異なる日本人の地を出した。

そしてまた走る。

そしてまた滝に寄る。

ここは珍しく彼が事前に調べておいた場所で、私たちの好物である「滝の裏に回れる」物件だ。

滝の裏側にまわれて楽しみの多いベルガルアゥルフォス(Bergárfoss)

近隣の街から10分程度で足を伸ばせる利便性も手伝ってか、この滝にはベルガルアゥルフォスという名前が付いていた。ここで夕方の5時半。夕食の話題は出ずとも、ふたりの腹の中では既に決定している。

レストランやカフェ自体が少ないアイスランドにおいて、地方の美味しいレストランはとても貴重だ。第二都市のアークレイリでさえ数件しかない。なのに、ホフンという人口約1800人の町にはこれが3-4軒もある!

私たちの一押しはオットー(Otto)とパクフーシヅ(Pakkhusid)。前者は店内が圧倒的にオシャレで、後者は大人数で入れるカジュアルな雰囲気。メニューはPakkhusidの方が多い。私たちはたいていオットーを選ぶが、既に満席の場合は迷わずパクフーシヅへ行く。この2店は100メートルと離れていない。

今回は営業開始直後を狙い、無事にオットーのテーブルにつけた。旅の最後に美味しいものが食べられるとは、なんたる幸せ!まずはシーフードスープを二人で分けて、メインは彼が鴨で私が魚。デザートのクレームブリュレも二人で仲良くわけた。色々と食べたい時はシェアするのが一番だ。

このレストランは付け合わせの野菜がとてもいい。今回、付け合わせに出てきたエンドウは、スーパーで1パック800円もする。さやえんどうに800円は辛いよね(涙)。なので、緑色の豆のさやを見ただけで気が遠くなりそうだった。久々に食べる青い香りの新鮮で甘いエンドウの味。うっまぁ〜〜〜〜。マジに涙したぞ。

付け合わせに野菜が存在しないか(じゃがいもは野菜に入らない話は以前に書いた)、野菜を煮すぎる傾向にあるアイスランドにおいて、シャキシャキ感を残した野菜を出してくるところは、まず間違いなく腕がいい。

おいしかったぁ。いつも本当にありがとう。盛り付けも美しく、付け合わせの野菜やハーブが美味しいと幸福感が高まる。今回もとても満足した。白いエンボスのアート展も素敵だった。

さーて、お腹もいっぱいになったことだし、あとは宿泊先を決めるだけ、だよね。もう夜の8時だし。

そしてまた走る。車が走ってくれてありがたい。こんなに長い距離、私は走れない。

もう宿泊のことは尋ねないことにした。「南海岸まで出たい」と昼間に言われているし、ホフンはその手前の南東部だ。どこかでいつか眠る時間をとることには違いないので、あえて尋ねる必要はないとした。

ヴァトナヨークトル(ヨーロッパ最大の氷河)は濃霧で隠れていた。

1号線を進み、南へ行けば行くほど霧が濃くなる。氷河湖のヨークルサルロンは雨だったし、雨から抜けたと思うと濃霧。どこまで行けばキャンプできそうな天候に出会えるやら・・・。少なくとも雨だけは避けたい。

もう少し、もう少しと走り続け、とうとう南海岸にたどり着く。けれど、彼は車を止めない。「あそこにキャンプ場があるね」と私が話を振っても、キャンプ場のマークに目もくれず、走り続ける。ええと、私は免許皆伝のゴールドだけど、アイスランドの免許には書き換えてないし、どちらにしても免許を取得して以来、遊園地のゴーカートしか運転をしたことがないので、助手席をあっためるのが仕事。

南海岸で有名なスコゥガフォスやセリャラントスフォスという滝の横を素通りした時、私は悟った。レイキャビクまで戻るつもりなんだ、と。

雨はますます酷くなり、中途半端にキャプをするより、自宅に帰った方がゆっくりできるという判断だったらしい。翌日が晴天であれば多少の雨でもキャンプも考えたが、次の2日間が悪天候と予報されていたことも、帰宅を急がせた理由だった。

南海岸から自宅までは数えきれないほど行き来している。勝手は十分にわかっていても、眠気に襲われないよう、注意力を維持しようと努力した。この時期はまだ白夜に近く、夜中のドライブは快適だし、眠気にも誘われにくい。そうはいえ、長旅で疲れが溜まっている。視界ゼロの濃霧に襲われ、スピードを出せないドライブは辛かった。

レイキャビクに戻ったのは夜中の2時をまわっていた。

帰宅は夜中の2時。約800キロを走破。運転、本当にお疲れさまでした。エスキフョルヅルを出発した時は帰宅予定ではなかったし、だからこそノンビリとあの滝にもこの滝にも寄り、ゆっくりと夕食をとることもできた。何をよしとするかはその時の事情で、最後はバッタバタの帰宅となったが、無事に帰れたのでよかったとする。

ね、あっけなく終わったっしょ。


コロナだけでも前代未聞なのに、五輪開催やジャーナリズム不信が渦巻く中、新聞記者職を退いて、フリージャーナリストになった鮫島さん。日本人は働きすぎるので、夏の暑い盛りは少しでも休んでもらいたく、週2本の連載を勝手に申し出た。夏の間、私は旅行三昧になり、写真はたんまりあるので、そこにテキストを少し加えれば完走できそうだと思ってのこと。

7-8月の2ヶ月間、私のアイスランド一周レポートにずっとお付き合いいただいた読者の皆さん、ありがとうございます(一周の初回はこちら)。「こちらアイスランド」はまだまだ続くので、引き続きどうぞよろしく〜。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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