政治を斬る!

こちらアイスランド(1)私は五十を過ぎて妖精の国に移住した〜小倉悠加

私は妖精の国に住んでいる。嘘ではない。

大地には妖精の家があり、王国の城があり、彼らの許可なくして石を動かすことはできない。道路や建物は迂回して作られ、それを無視して強行すれば必ず事故が起こり、入居した家庭が崩壊する。そんな御伽話のようなことが現実社会に息づいている。

それがアイスランドという国だ。

妖精の街として知られるハフナフィヨルズル。道路も家も、妖精の住まいを避けてつくられる。

読者のみなさんは「アイスランド」と聞いて、何を思い浮かべるのだろう。

テレビの旅番組で取り上げられるのは、オーロラ、間欠泉、世界文化遺産といったところか。音楽ファンの間ではビョーク、シガーロス、ムーム、近年ではアウスゲイルやオブ・モンスターズ・アンド・メンといったアーティストに人気がある。私と同世代であれば、米ソの冷戦崩壊のきっかけを作ったレイキャビク会談で、アイスランドという国の存在を知った人も多いのではないだろうか。

アイスランド共和国は大西洋に浮かぶ孤島で、国土の一部が北緯66度の北極圏にかかる。冬は1日の日照が4時間以下になり、夏は陽が沈むことのない白夜だ。

アイスランドのレンタカーは地元の会社で

北海道と四国を合わせたほどの10万平方キロという面積に、総人口は約37万人。「370万人の間違えでは?」ということはない。正真正銘37万人で、都内であれば北区の人口とそれほど変わらない。一言でいえば、人口密度の低い極北の地ということになる。

そんな寒々とした国に、私は50代半ばを過ぎて移り住むことにした。移り住む必要性があった訳ではなく、子供も成人したことなので、年を取りすぎて動きが鈍くなる前に、風とおしのいい場所に住みたかったのだ。

そんな考えに至った経緯は後日書くことにして、今回はアイスランドがどのような国であるかをざっくりとご紹介したい。

苔むす溶岩台地。苔は数十センチの厚みにもなり、ふかふかのベッドのよう。

まずは日本とアイスランドには意外にも共通点が多い。

両国とも島国であり漁業が盛んだ。日本のスーパーに必ず置いてあるししゃもは大半がアイスランド産で、赤魚や甘海老なども日本へ輸出している。アイスランドと日本が正式に国交を結ぶ以前から、日本の商社がアイスランドに縁を作っていた。そしてどちらも捕鯨国。なので、国際会議等では口裏を合わせる大の仲良し。古くからの友好国である。

独自の言語を持つ。日本は日本語、アイスランドにはアイスランド語がある。

独自の通貨が流通する。日本は日本円、アイスランドはアイスランド・クローナだ。

日本は島国で人口も多いため、独自通貨や独自言語も理解できるが、人口37万人でのそれは絶滅危惧種のような危機感がある。それでも経済圏に関してEUに加入していないのは、国の経済を支えてきた漁業権、つまりは海里問題に色濃く関係している。という話をしていると長くなるので、話題を両国の共通点に戻そう。

両国ともに地殻プレートの境界線上に国土がある。ということは地震、火山、温泉の3点セットがもれなくついてくる。アイスランドには北米プレートとユーラシア・プレートが走り、その境い目が議会発祥の地として世界文化遺産に指定されている。奇遇なことに、この二つのプレートが再度地上で出会うのが日本となる。地続きのご縁!

太古の地を思わせる激しい形状の奇岩。石には妖精が住んでいる。

先日、日本では東日本大震災の余震があったようだが、こちらアイスランドでは2月末から群発地震が続き、火山噴火が懸念されている。この原稿を書いている間も、M5.4の大きな揺れを感じたところだ。

温泉好きも共通点だろう。マグマが地表に近いのは自然災害と隣り合わせとはいえ、その恩恵で温泉が湧く。それを地熱発電として利用し、温泉として楽しむ。温泉といっても正確には温水プールで、各地のコミュニティに必ずプールがある。そこにはホットポットと呼ばれるリラックスコーナーが社交場になっていて、隣近所の噂話も、政治家と意見を交わすのも、このホットポットでの日常だ。
 
温泉好き、風呂好きが健康にいいのか、両国とも長寿国である。数年前になるが、日本女性が世界一の長寿であった時、アイスランドは男性が世界一位になっていた。

日本もアイスランドも美人が多い! 近年はポリコレで女性を美しいと褒めてはいけないらしいが、ここは少し目を瞑ってほしい。アイスランド人は元を正せばノルウェーからの移民で、何を思ったのか彼の地からアイスランドに来る前に、アイルランドに立ち寄り、選りすぐりの美人をさらったらしい。その血が脈々と受け継がれているのか、アイスランド人女性はミス・ユミバースやミス・ワールドのファイナリストが多く、過去に3度ミス・ユニバースを輩出している。確かに私の周囲にも美男美女が多く、その美人度は日本と全く同じである(コホン)。

そして最後にご紹介したいのは、両国とも多くの神様が存在しているという点。アイスランドは現在国教をキリスト教としているが、それは争いを避けるための政治判断であり、元来は多神教、北欧神話の神々が存在する。日本も最高にラッキーなのは船に揺られる七福神であり、八百万の神であろう。

神ではないが、とにかく人間ではない見えない存在で多くのアイスランド人が信じているのが(「否定する材料がない」という消極的な肯定ではあるが)妖精だ。わかりやすくここでは妖精と記すが、アイスランド語では「隠れた人々」と呼ばれる。そして冒頭のように、彼らの許可なくして道路も建造物も作れないのがアイスランドだ。

そんな訳で、私は妖精と日々の生活を共にしているらしい。

追記:2021年3月19日20時45分(日本時間は翌日の20日正午ごろ)このコラムの公開を直前に控え、アイスランドで噴火が始まった。レイキャネス半島での噴火は、約800年ぶりとのこと。同盟筆者の口火を切る当コラムに、筆者の私に、アイスランドが火花を吹き、溶岩を奮発して、盛大に祝福してくれたと思うことにしたい。


小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。本場のロック聴きたさに高校で米国留学。学生時代に音楽評論家・湯川れい子さんの助手をつとめ、レコード会社勤務を経てフリーランスに。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。アイスランドと日本の文化の架け橋として現地新聞に大きく取り上げられる存在に。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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