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こちらアイスランド(28)第二都市アークレイリはおとぎの街。でもグルメはお値段がはって〜小倉悠加

前回の話はこちら)未練たっぷりでHveradalir(クヴェラダーリル)を離れた私たちは、アイスランドの第二都市アークレイリへ。第二都市といっても人口約2万人のかわいらしい街。首都のレイキャビクでさえ郊外を束ねても人口20万人程度なので、推して知るべしの規模。

北部の観光拠点でもあるため、それなりにご飯を食べるところはある。

ここでアイスランドの外食事情をサクっとご紹介しておけば、値段が張る。材料は良質ではあるけれど、日本人からみると料理の腕は一般にゴニョゴニョと言葉をにごしたくなるレベルの料理に出会う確率が高い。旅行者として来ていた時代は物珍しく、材料がいいこともあって美味しく食べていた。けれど、居住者となった今は毎日旅行者のような暮らしはできないし、二週間以上の滞在だとレイキャビク市内でも食べる場所がなくなってくる。ハンバーガーやピザが大好きという向きなら問題は少ないが、その他の何かと思うと、選択幅がない。

*赤信号がハートなのがこの街の売りのひとつ。

具体的な値段は、ハンバーガーとポテトフライで2-2500円は当たり前。パン付きのスープが一杯2000円強。不味いホットドックでも500円は覚悟。レストランと名のつくところでメインだけを食べても4-5000円する。外食は懐に大きく響く。外食をするのはよほどお得な何かがあるか、新しい店をチェックしに行くか、または料金を支払っても食べたいと思えるプロの仕事をしてるところしか行かない。

その点、日本の外食は天国だ。アイスランドと日本では、外食において無人島と宇宙の差がある。比べてはいけないし、考えないことにしてる。

アークレイリの街中。少し御伽噺っぽい雰囲気。右側はハートのオブジェが半分見えている状態。

そんな厳しい外食事情の中、地方に行く度に楽しみにできる店は本当に貴重。誇張ではなく有り難さが骨身にしみる。日本に住んでいた頃には、全く知らなかった感覚だ。

地方ではどこかで外食をせざるを得ないため、食べに行くに値する店があると心底嬉しい。宿泊が決まった時からレストランのRUB23を予約しておいた。アークレイリには二泊する。1日目はRUB23で、二日目はどうしようかな。

(2023年6月27日追記:残念ながらシェフが変わったようで、味付けが全てタイ風の甘辛、ニンニクの効いた甘い醤油たれ風味に変身していた。レイキャビク店がミシュラン星を持つDillの姉妹店をお勧めします。RUB23はお勧めしません。Rub23と近くの回転寿司は姉妹店なので、スシを試したければ回転寿司でいいかと思う。)

RUB23 :ラブ23と読む。オーナー・シェフはかつてアイスランド代表として世界クッキングコンテストに出場したこともあるという。そんなことは知らず、去年評判を聞きつけて寄ったところ、とてもよかったので、今年も予約を入れた。

こういったレストランにはTasting menu(お試しメニュー)があることが多い。コースに何種類かあったなら、皿数が多いコースが絶対的におすすめ。数千円の違いで、結果的に信じられないほどお買い得のコースになるのが常だ。

このレストランは魚料理に力を入れており、スシも得意だ。

去年と同じくオーダーしたのは一番品数の多い6皿の「究極のフード・フェスティバル」というコース料理。シェフお任せで、このレストランの代表的な料理を味わうことができる。

地方都市なので、グルメ御用達店とはいえ食通好みのメニューばかりは作れない。アイスランドの一般人が満足(=満腹になるボリューム)するメニューも出さなければならない。それを踏まえつつ、アジア・エスニックを取り入れたメニューはバランスが良く、日本ほどの繊細さは望めないとはいえ、決してスシも悪くなく、私は好きだ。このレストランから数ブロック先に回転スシがあり、そこもここのレストランが監修している。日本の3-4倍の値段とはいえ、お金を出せばそこそこ食べられるスシがあるだけで有難い。

さて、究極のフード・フェスティバルの6皿はこれ!

これで一人前1万円は破格!どこが破格なのか分からない人に説明しておけば、どんなレストランでもデザート一品1500円は当たり前で、このレストランのデザートは全品2000円。デザート四種盛りで既に8000円(二人なので一人前4000円)になる。単品で頼んだ場合、例えばタイ風リブは3000円、ラムは6500円、甘辛の北極いわなは4000円。量が異なるとはいえ、3品頼めば1万円越え確実なので、あれもこれも味見をしたい時はこのメニュー一択!ちなみに、ドリンクは肉でも魚でも合いそうなカクテルを注文。

飾り付けや細部のこだわりも味に出ていて、プロの仕事と言える。二年間続けてこのコースをいただいたので、次回は単品のスシ、またはスシ・フェスというコースもあるのでそれにしてみるか、と。

アイスランドは長い間植民地でヨーロッパの最貧国だった。残念ながら世界に誇れるようなフード・カルチャーがなく、未だに肉とポテト、魚とポテトの組み合わせ以外は食べないという人もいる。育った家庭によってはごくシンプルな食事なのだろう。

隣のテーブルにご夫人3名が着席した。美味しそうな感じの前菜が来たが、そしてどうも様子が・・・暗い。言葉の様子が重苦しい。私はアイスランド語が理解できない。後から彼から聞いた話では、どうやらこのご夫人たちは、勇気を奮って珍しいものを食べに来たらしい。「こんな不思議なもの、初めて。許容範囲を超えそう・・・」と異口同音に言っていたそうだ。

そんなに珍しいもなのかぁ。そのテーブルからはスモークに込められて出汁の香りが漂ってきたものがあり、メニューを見たところホタテの貝柱をメインにした一品のようだった。食欲をそそる香りだけど、慣れないと不思議な感じがするのか〜。理解できないことはないけれど、初めての香りでも、美味しそうなものは本能的にわからないんだろうか?食の範囲が狭い世界に育つという意味を目の当たりにした気がした。いや、日本人が雑食すぎるのか?

RUB23は美味しいけれど、旅行者向けではないと感じる人へのお勧めはBAUTINN(ブイティン)。アークレイリの街中のとても目立つ場所にある。鯨肉や野鳥肉等のご当地名物が食べられる。サラダバーも有名。ただし、どうやらコロナでメニュー縮小らしい。写真は数年前のものなので、華やかなメニューが映ってるけど、サイトで見る限りこういったメニューは現在提供していないので、本当に行く人はご注意を。

デザートに1500円も2000円もという人には、アークレイリ名物のソフトクリーム屋Brynja(ブリンニャ)を推薦。地元民にも人気で、アークレイリへ行くと必ず食べるというアイスランド人も多い。我が家も毎回、一度は行く。私はごく普通のサッパリしたクラシック(Klassiskur)と言われるソフトクリームが好きで、彼はチョコレートをディッピングしたものを頼むことも。お値段も小さいのは350円からで、懐が寒い時でも心暖まることができる。

アークレイリには植物公園があり、その中のカフェは雰囲気が素敵だし、このブリンニャからも歩いてそう遠くない。植物公園を見学し、カフェでお茶をしてからソフトクリームをぱくつくコースもアリだ。少し街中から離れてはいるけれど、クリスマス・ハウスを見に行くのも楽しい。

次回は、夏だけオープンする美術館と周辺のドライブなどをご紹介予定。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。アイスランドと日本の文化の架け橋として現地新聞に大きく取り上げられる存在に。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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