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こちらアイスランド(7)アイスランドの季節感。4月22日は夏!〜小倉悠加

本日2021年4月22日、アイスランドは日本よりも早く「夏」を迎えた。

夏だよ、夏!本当に夏だからね!

SAMEJIMA TIMESの読者は、アイスランドという国名に惑わされて、まさか国土が通年氷に覆われていると思ってませんよね。寒くて夏がないとか思ってませんよね。春はどうした?なんて野暮なことは言いませんよね!

アイスランドは、国土が北緯66度の北極圏にかかる極北の国。今はまだ4月。昼間の気温が上がっても、摂氏5度に届くかというところ。日本は春を謳歌している最中なのに、アイスランドが夏とはいかに、と考えるのも無理はない。

日本は気候が温暖で春夏秋冬があり、朝起きる頃には日照があり、陽が沈むのは必ず夕方だ。それが日本人の季節感であり、社会もそれにしたがって動く。世界を見渡しても、人口が多い場所は似たり寄ったりの季節感。なのになぜ4月の今、極北が夏なのか。

ここで私が思うアイスランドの季節感ご紹介したい。

アイスランド名Holurt。海岸沿いの砂地でよく見る。日本ではシレネ・ユニフローラとして知られる植物の一種。

気温だけを見れば、日本人が考える夏はない。当然か・・・。あるのは冬と秋、ないしは冬と春だ。寒さでいえば、「とても寒い」から「涼しい」までしかない。ちなみに去年、気温が20度を超えた日は1度しか体験しなかった。

それでも夏が存在しないのはあまりにも寂しい。あり得ない。だから夏を捻出するしかないーーと思ったかは知らないが、ヴァイキング時代の旧カレンダーには、「陽が短い日(冬)」と「夜のない日(夏)」が半年ずつ定められた。そして、4月の下旬が冬と夏の境目になる。

ということは、アイスランドは冬と夏しかない!

アイスランドの夏の初日は、4月18日以降の木曜日と定められている。このコラムを書いている4月21日(水)は冬、そして翌日22日(木)は夏になる。その上、気合を入れて夏を祝うために、この日は国民の休日になっている。雪が降ろうと暦の上では夏なので、「夏だね〜、よかったね〜」と夏を噛みしめる。誰がなんといおうが夏を否定することはできない。

そして私の感覚でも、この日を「夏」と承認していい気がしている。アイスランドの季節は、気温ではなく日照時間に基づくからだ。日本人の私が、ヴァイキングと同じ感覚を持つようになるとは夢にも思わなかった。

アイスランドの日照は、四季(二季か!)を通して両極端に変化する。

日が最も短くなるクリスマス前後の日照は一日4時間弱。比喩ではない本物の暗い朝は、耐えがたく、屈辱的だ。世の中の何かが、間違ってるとしか思えない。ぶつけどころのない憤りを感じる。日の出は午前11時半で、ぎりぎり午前中に日は登るが、これが「朝日」に該当するのかも、解釈に苦しむところだ。
日没は午後3時半。おやつも早く食べないと日が沈んでしまう。この時期の空は朝焼けなのか、夕焼けなのかわからないオレンジ色が空を染めたかと思うと、すぐに暗くなってしまう。朝起きて、目が覚めきらないうちに、ふたたび眠くなっていくような、そんな感じだ。

2020年12月29日午前10時過ぎのレイキャビク。暗すぎて朝か夜かわからない。

かたや日照が一番長いのは、日が沈まない白夜。昼間がずっと続く。6月10日頃からの一週間は、日の出も日の入りもない。太陽は地平線の近くまで落ちるが、沈むことなくまた登っていく。これも日本人には慣れない感覚で、寝る時間がわからなくなる。寝る以前に、1日の仕事を終えるタイミングを逸する。真冬とは正反対の意味での、夕焼けなのか朝焼けなのかわからない状態で翌日がやってくる。

夏の夜は明るく、夜中ドライブしても暗くないのは実に楽しい。6-8月は夏休暇の季節なので、「どのみちいつでも明るいから」と、昼間寝て、夜間外でスポーツを楽しんだりもできる。冬の暗さの重圧を、ここでいっきに払拭する必要がある。寝だめのような、日光だめができるとも思わないが、冬の暗さに屈しない余力をつけておかなければならない。夏を謳歌するのは、国民の義務のようでもある。

2020年6月10日22時半のレイキャビク。日本の夏の夕方くらいの明るさがある。

これでアイスランドの季節感が気温ではないことを、少しは理解していただけるだろうか。

2021年夏の初日は4月22日木曜日。日の出は5時30分、日の入りは21時23分。日照時間は約16時間。ご存知の通り、日の出と日の入りの前後1時間ほど、空にはうっすらと薄明がある。1日24時間のうち、18時間はあかりに恵まれる。会社勤務を終わらせた後、数時間ほど郊外にドライブに出ても、日没前に帰宅できる。いい季節だ。

参考までに同じ日の東京の日の出は5時、日の入りは18時20分。

日本人の私が勝手知ったる夏は、アイスランドには存在しない。夜の気温が30度を超え、アスファルトから焼けるような熱風を受ける東京を恋しくは思わないが、肌をジリジリ焼く太陽を感じない夏は、正直言って寂しい。物足りない。

それでも、住めば都。慣れればそんなもの。気温がそれほど上がらなくても、日照だけは確実に長くなる。日が長いだけで、人生得したような気になる。心が軽く、楽しく感じる。日本にいた時には知らなかった感覚だ。アイスランドの夏は私が知る夏とも、世界が夏と認める夏とも違うけど、それでいいのだと思う。

ちなみに今回のアイキャッチ写真は、2020年7月7日23時、東アイスランドのエスキフョルヅルという街で撮ったものだ。

ということで、今回はアイスランドに夏が来たことをお知らせしました。以後、お見知りおきを。


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小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。本場のロック聴きたさに高校で米国留学。学生時代に音楽評論家・湯川れい子さんの助手をつとめ、レコード会社勤務を経てフリーランスに。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。アイスランドと日本の文化の架け橋として現地新聞に大きく取り上げられる存在に。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。