4月末に西村やすとし経済産業大臣がアイスランドを訪れ、二日間ほど視察や会談をした。ニュースによれば、アイスランドと日本の間で「地熱分野で協力を進める共同声明に署名した」とある。
そのような共同声明が友好国である日本とアイスランドの間に必要なのか、素人の私には不思議だ。
ちなみにアイスランドの電力はほぼ100%がグリーンエネルギーで、ざっくりと7割が水力、3割が地熱だ。
よくアイスランドは人口が少ないからグリーンエネルギー100%で賄えるのだという意見を見る。けど、それは短絡的すぎる。実際は国内で使用される10倍以上を発電しており、余った分はアルミ製錬での売電にまわされる。国際企業のデータセンターやマイニングなどでも電力は大量に消費される。サメタイの読者においては、アイスランドは売電国であることも知ってほしい。
アイスランドと日本の地熱協力のニュースを受けて、少しばかり思うところがある。なので雑記を。
まずは地熱で協力するというこういった類の共同声明にはどんな必要性があるのか?声明に署名する前から、企業間の協力は存在している。あえて共同声明を出す必要性は何なのか?もちろん悪いことではない。けれど、以前からあった枠組みに名前をつけ、仲良し宣言を外に出す程度であれば、公費でのアイスランド観光出張が可能になるとか、甘い何かが関係者にもたらされるのか?
アイスランドで使用されているタービンは主に日本の三菱重工と東芝で、私は富士重工製も見た覚えがある。言わずもがな心臓部のタービンは日本の技術力をアイスランドはずっと借りてきた。あえてここで協力というからには、互いに提供できる情報があるはずだ。アイスランド側に技術や情報を持っているとしたら、掘削関係かと思うが、実際はどうだろうか。
私がひねくれているのだろうか。「合同部会を設置」とあるのも、大臣が来たことへの手土産にしか思えない。これまでに交流がなかった訳ではないので、どうも形骸的にしか見えないんだよなぁ・・・。
もっと驚いたのは、同じ日に同じ地熱発電所へ私も行っていた!内部は何度も見学したことがあるので、あえて寄らなかったが、Co2の回収装置を見ておきたかったのだ。そのエリアは立ち入り禁止とあったので、一般道の部分から写真を撮っただけにした。
ヘトリスヘイジ地熱発電所は見学用の施設を併設している。交通量の多い1号線沿いでもあり、レイキャビクを出て南部へ行く観光客は必ず通る道だ。車でひょいと気軽に立ち寄ることができる。また、近年噴火した火山は、このお隣の火山帯だった。可能性は低かったが、ごく近場なのでもしやこちらの火山帯では?という観測もなかった訳ではない。
少し古い写真になるけれど、発電所の内部を少しご紹介しよう。
この他にも掘削関係の展示や地震に関する情報、マグマがどのように地表に影響しているのか、地熱発電や発電所の歴史等、かなり拾い年齢層が楽しめるものになっていた。
見学は事前予約がベター。サイトはこちら。10月に計画をしている私の独自企画アイスランド・ツアーにも、この発電所の見学は入れてある。
私たちは電気を得るためにさまざまな方法に頼っている。原子力、火力、風力、地熱、水力などのよく知られた方法もあれば、廃棄物やバイオマスを利用する方法も試みられている。利用する熱源は異なっても原理はすべて同じだ。要はタービンを回して電気を起こす。効率は悪いが、人間が自転車を漕いで発電することもできる。
そんな中でも環境に優しいとして注目されているのが地熱発電だ。どの方法も完璧なものはなく、地熱も利点ばかりではない。地熱が安定しなかったり、時には地震や地盤沈下の原因になることもある。それでも、壊滅的な事故につながる原子力や、大きなダムの建設で自然破壊が強いられる水力よりも、地熱利用は穏やかな気がする。ちなみに、私は大規模な風力発電と太陽光発電が気に入らない。
地熱は蒸気を取り出し、その圧力でタービンを回す。タービンを回したあとに副産物として出てくる温水は、各家庭に配られて暖房や生活用水として使われる。近隣の温熱の街クヴェラゲルディでは、その温水を温室に利用し、大規模な野菜栽培が行われている。発電所の副産物である温水も、しっかりと利用できる点でも無駄がない。
世界最大の露天風呂として名高いブルーラグーンも、実は地熱発電所の副産物だ。スヴァルスエインギ地熱発電所が温水を周囲に垂れ流していたところ、それが溶岩大地の間に溜まっていった。その温水に入りにくる人が現れ、皮膚の調子がよくなるらしいという噂が立った。調べてみると、湿疹や疥癬に効果のある成分が多く含まれていることがわかった。そこに着替え用の簡易な小屋を建てたことが、ブルーラグーンの始まりだ。
ブルーラグーンの露天風呂は年々広がり続けている。私は20年ほど移り変わりを見てきたが、今や驚くほど道路の近くまでブルーの水が溢れてきている。
ブルーラグーンの裏手もまた、たまたまこの週末に通りかかり、道路から動画を撮っていた。前に見える白い建物が発電所で、ブルーラグーンの温泉施設は、最後の最後のところで右側の端に見えている建物がそれだ。
シリカの乳白色が伴うブルーの水は美しいけれど、このまま流し続けるとどうなるのか、少し心配になってくる。ちなみに、道路から見えている部分の水は冷水で、入るのは自由ではあるけれど寒くて無理。温泉として営業しているのは、建造物(動画には写ってない)の向こう側の部分になる。そこは湯の温度が38-40度程度で、大変に気持ちがいい。
裏手の部分は動画でも分かる通り青い水が清々しく、手軽に散歩できるようなコースが整っている。訪れた際はお湯に浸かるだけでなく、ぜひここでの散策をおすすめしたい。
この露天プールは美しく、その大きさは露天風呂として絶大なものがある。絶景だ。類を見ないということでも一度は体験してみたい温泉だ。アイスランドを訪れる際にはぜひブルーラグーンへ!
今回のこのコラムを書いた後に見た動画が衝撃だったので、追記しておきたい。
西村大臣は元明石市長の泉氏と先輩・後輩の仲であるという。なのに・・・。
西村大臣は首相の席に座ることしか興味がないらしい。以下の動画はすぐにその話が聞けるようにリンクを作った。鮫島さんの質問も鋭いし、泉氏の回答が突き刺さる。サメタイ読者は既にご覧になっているかと思うが、まだであれば、この部分だけでもぜひどうぞ。全編を見るともっといいです。もらい泣きします。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。