アイスランド人の夏休みは長い。勤務年数にもよるが、正社員の彼の夏休みは6週間だ。夏休みはゆっくりできない。夏しか外を出歩ける季節がないため、生き急ぐように大忙しで夏を楽しまなければならない。それはもう、国民の義務のようなものだ。
この時期、太陽を求めて海外に出るアイスランド人はとても多い。入れ違いのように海外からどっさりと旅行客が入ってくる。アイスランド国内の旅行はアイスランドに住んでいても高いので、海外に出た方が総合的にはお得感がある。それでも私たちはアイスランドの魅力を求めてアイスランドを旅する。
今年は彼の労働組合の貸別荘に宿泊できたので、北部をじっくりと回ることができた。
北アイスランドといえば第二都市のアクレイリであり、ミーヴァトン(クレイター満載の湖)、デティフォス(ヨーロッパ一の水量を誇る滝)、ゴゥザフォス(神々の滝)、クヴェリル(温熱地帯)あたりを観光するのが主流だ。たぶんこの中の数カ所は既にご紹介したと思うーー記憶違いであればゴメン、ゴメン。
今回はそういった有名どころではなく、少し外れた場所にある魅力あふれる場所をご紹介したい。
Aldeyjarfoss
去年チラっと寄った場所でとても印象に残っているのがAldeyjarfoss(アルデイヤルフォス)の滝だった。滝を囲む柱状節理の玄武岩の造形が芸術的で、立地も見え方も素晴らしいと思った。けれど、天気が悪く楽しめなかったので、今年は彼にお願いして車を走らせてもらった。
ここは前述のゴーザフォスと同じSkjálfandafljót(スキャゥルファンダフリョゥト)という川にある滝で、ゴーザフォスよりもこちらの滝の方が断然芸術的だと思うのだが、いかがだろうか。落差は20メートルあり、迫力も申し分ない。
この滝があまり知られていないのは少しばかり寄りにくい場所にあるからだ。その上、建前としては四駆の専用道を使うため、二駆の乗用車では尻込みせざるを得ない。けれど実際は、グリップのいいタイヤさえ履いていれば、二駆でも問題ない道ではある。
この川はヴァトナ氷河が水源であるため、澄んだ水ではない。なのに、世の中には透明感のあるブルーの水の色の写真が出回っているようで、理解に苦しむ。水の色はどうとも、周囲の岩石の形状をじっくりと見てもらいたい(写真はクリックで拡大可能)。この造形が芸術家を刺激しても全くおかしくない。
この日は天気もよく、風もなく、時間もあったので、周囲を少し探索してみた。すると驚いたことに、滝が落ちる手前の大きな岩まで歩いていけることがわかった。
途中、ごく最近割れたと見られる岩石があり、白く見えているところはすべてガラス質のようだった。小さなガラス質の物質が入っている溶岩はよく見るが、これほど大きなのがゴロゴロ入っているのを見るのは初めてで、少々驚いた。
滝の上流の川沿いも、やはり同じような柱状節理の岩石が連なり、奥の方にも小さな滝が連なっていた。道がある限り歩きたくなる衝動にかられた。行きはよいよい帰りはこわいで、調子に乗って先へ行き過ぎると帰りが大変になるので、適当なところで引き上げることに。
Hrafnabjargafoss
この川を辿ると、実はもうひとつ滝があり(滝ばかりでごめんと謝りたくなるほどアイスランドは滝が多い!)、その名はHrafnabjargafoss(フラフナビャルガフォス)という。アルデイヤルフォスから車で7分の距離の姉妹関係? なので、ここまで来たら寄らない手はない。
フラフナビャルガフォスは手頃な大きさの滝が広範囲に広がっている。滝を眺めながら岩場を歩くのが、楽しい場所だ。いろいろな角度から、あちこちの滝を見渡すことができて飽きがこない。川沿いの大きな岩で風が避けて、お弁当を食べるのにもってこいだった。
Goðafoss
ついでなので、Goðafoss(ゴーザフォス=滝)のことも。ゴーザフォスは北部観光の目玉としてよく紹介されるので、検索すればいくらでも情報は出てくる。ゴーザフォスから今回ご紹介したアルデイヤルフォスまで約1時間。
幅30メートル、落差12メートルの壮大な滝で、交通の便もいいことから人気が高い。駐車場も完備で、二駆の普通乗用車で安心して行くことができる。
それにしても、人はなぜ滝を見に行くのだろう。もう飽きるほどたくさんの滝を見てきた。絶景と言われる滝も多い。それでもまだ、滝があると聞くと観に行きたくなる。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。