この週末は、「噴火するする」騒動から少し離れることにした。ちなみに本日2023年11月24日現在、まだ噴火していない。地震の回数も激減し、今回の騒動は噴火せずに終わる可能性が日に日に高まっている。
今回は噴火せずよかったとも言えるし、噴火条件によっては噴火した方がよかったと言えなくもない。今回噴火しないことにより、近い将来より大きな噴火につながる可能性もあり、どちらに転んでも翻弄されることになる。
そんなことを考えながら、まだ道が開いているハイランドの入り口へと向かった。目的地はソルスムルク(Þórsmörk)というエリアで、特にどこへ行きたいというポイントはなく、走ること自体が目的だった。
ここは冬季でもこういったツアー(リンク)であれば行くことができる。というか、ツアー以外の車は我々だけだった・・・。
ここでソルスムルクと書いたが、正確にはゴザランド(Goðaland)へ行った。ソルスムルクとゴザランドはクロスアゥ(Krossá )という川を隔てて、北側の地区か南側かという違いだ。ゴザランドにはバゥサル(Básar)という人気キャンプ場がある。夏季のみの営業で現在は閉鎖されているが、そこまでの道はまだ使えそうなので行ってみることにした。
ちなみにこの道路はF249号線(Þórsmörkvegur)で、川がとても多い。我が家のジムニーが通れるかは水位次第だ。ソルスムルクへ行く時は、クロスアゥという川を越える必要がある。とても深いので、この川は絶対に車では渡らない。夏季は簡易橋がかかるので、車は橋の前に駐車して、歩いて向こう岸へ行く。
今回は南側のゴザランドしか行かないので、この川を渡らなくていい。けれど、クロスアゥの次に難関のクウァンナゥ(Hvanná)は越える必要がある。
近年は観光客が増え、川で事故を起こすことが増えている。予防の意味を込めて道の入り口にはこんな看板があった。フルサイズ以上のジープしか川は通ることができず、レンタカーの保険は一切きかないことも明示されている。
ここのところずっと雨が降ってなかったので、川はまず大丈夫だと踏んだ。無理そうであれば引き返せばいい。とはいえ、一旦渡った川は帰宅時に再度渡らなければならない。水嵩が増えることも念頭に置く必要がある。
このツイートは、水嵩次第ではジムニーでは手におえなくなるクウァンナゥを渡り終えた時のものだ。
冬季のアイスランドを観光するにあたり、一番厄介なのは日照時間だ。11月20日現在で日の出は午前10時半、日の入りは16時となっている。普通のツアーがギリギリ催行できる程度の日照時間かと思う。
太陽は頭上高くのぼってくれない。山間部へ行くと渓谷の中まで日照が届かないので、ずっと日陰の中にいることになる。実は先々週大好きなケルリンガルフョットルへ行ったのだが、暗い写真ばかりになってしまった。今回のゴザランドのドライブもそうなった。
下の写真は、この道路沿いにある「妖精の教会」と呼ばれる場所だ。緑あふれる写真は7月初旬19時撮影。青っぽいのは11月19日14時だ。晴天であることは見て取れるが、太陽が周囲の高い山に阻まれ届いてこない。
この一帯は南側にエイヤフャットラヨークトル(Eyjafjallajökull)東側にミルダルスヨークトル(Mýrdalsjökull)、北側にティンドフャットラヨークトル(Tindfjallajökull)という三つの氷河に抱かれる。特にティンドフャットラヨークトルの頂上は神話の巨人イーミル(Ýmir)と呼ばれ、『進撃の巨人』のユミルはこの名前が使われたと思われる。
氷河は標高が高く、その下には火山が潜んでいる。不思議だ。なぜ火と氷が、火山と氷河が表裏一体で共存できるのか、さっぱり理解ができない。
そういった極端な存在が均衡を保っている、怖いような素晴らしいような、そんな自然の懐へと入っていった。
景色を楽しむだけのドライブだ。それでもどこかで「ここが今日のハイライトだ!」と思える場所がある。
最初にそう感じたのは、道がどこまで通じているかを探った時だった。正式な道はゴザランドのキャンプ地バゥサルまでだ。キャンプ場の先端まで走ってみると、道はそこからも続いていた。水で流されたのだろうか、ところどころ道の痕跡が消えているジープ道があった。
こんな道があるとは知らなかった。よく見る地図サイトには載っていない道だ。こういった知られざる道を探す際お世話になっているmap.isさえ、この道は掲載されていなかった。
たぶん、以前は本格的な道があったと思われる。その一部は残っているけれど途中かき消されているのでーーーここまで書いてハタと思った。2010年のエイヤフャットラヨークトルの噴火時の洪水で流されたんだ、きっと!
そして道路公団のサイトを拡大していくと、あったった。ここは道としての掲載がある。
どこへ行くのかもわからない道を進むのは、冒険心をくすぐられて楽しい。川にはばまれ先へはいけないけれど、目の前にあるミルダルスヨークトルを見ながら、「今日はここがハイライトかぁ」と思った。1日に10分でいいから使える羽があり、少しだけ飛び立って奥を偵察に行ければいいのにね!
ここで持参したサンドイッチをかじり、引き返す頃には午後1時半を過ぎていた。さて、次はどこを探検しようか。日照の関係で寄ることができるのは、あと一箇所に限られる。
彼はネットフリックスのドラマで撮影にも使われたという渓谷の奥へ行きたがった。私は氷河に近づきたいと思った。
「その渓谷は夏に奥まで行ったし、今日も渓谷は白きつねに会った場所で少し入ったからそれでいいっしょ?!私は氷河がいい!ここの氷河は行ったことがないし」と私にしては珍しく意見を押して、氷河を見に行った。
氷河へはF249号線を少し外れることになる。氷河への道もまた川が多く、浅瀬ではあるけれど、降雨や時期によっては川幅が広くなるであろうことは容易に見てとれた。こんな感じだ。
到着した氷河は、エイヤフャットラヨークトルの氷舌(ひょうぜつ)のひとつ、ギーグヨークトル(Gígjökull)という。氷舌は大きな氷河から文字通り舌のようにせり出した部分のことを示す。エイヤフャットラヨークトルには二つの舌があり、これはその一つだ。
エイヤフャットラヨークトルという長ったらしい名前に、どことなく聞き覚えはないだろうか?ここは2010年に氷河の下にある火山が噴火し、その火山灰が航空便のエンジンに危害を加えるという説に基づき、一週間もヨーロッパの航空便を止めてしまった。
この氷河(山)の名前が発音できず、面白おかしくそのことが取り上げられた。事の重大さよりもむしろ、氷河の発音の困難さで話題になったと言えるほどだった。
ここで少しだけ話は逸れるが、この出来事は2008年に経済崩壊したアイスランド経済がV字回帰を遂げるきっかけにもなった。国際メディアに広くアイスランドという国の特徴がとりあげられ、観光地として急激に人気が出たのだ。火山はアイスランドの無料広報として大いに活躍した。
先々週からの国際メディアによる「火山大噴火で航空便混乱か?!」騒動は、2010年噴火の余罪とも言える。
話を戻そう。駐車場に到着すると、氷河まではそれほど距離があるようには見えなかった。見通しがいい場所では、実際には結構な距離があっても、近く見えることがよくある。それは知っている。それでも、ここまで来たからには近づきたい。遠くても近くても、なんなら真下まで行きたい!
危険!注意!とばかりの赤い看板には、「氷河近く落石」「なだれ」「洞窟内での氷の落下」「鉄砲水」「地盤の緩み」といくつもの注意事項が書き連ねてある。意味は理解するが、実際の体験がないのでよくわからかったりもする。いや、体験がなくて当たり前で、無い方がいいことばかりなのだとも思う。
それにしても酷く極端な特徴が詰まっている場所だ。目の前にある氷河は氷の塊だ。その左には、ワニの歯のように、山肌がギザギザ模様になっているところがあり、右側には、パックリと割れた巨大な石のような地形がある。真ん中には年月を超えて圧縮された巨大な氷の塊が、こちらへと迫り来る。
今日のザ・ハイライトはここだ!
駐車場は丘の上にあり、氷河の方へ歩き始めると、すぐそこには川があった。渡れないような川幅でもないが、靴を濡らさずに進むこともできない。
こういう場所は先人が踏み石などを置いて渡れるようになっている場合が多い。今回は季節ハズレのせいか、もともとそのようなものはないのか、少し歩き回ったが、渡れる場所を探し出せなかった。
たぶん、自分の背丈ほどの細い板でも持ってくれば、それで十分に渡れる小さな流ればかりと見た。長靴があれば、そのままザブザブと入ってもいけるだろう。
見えるだけの川を渡ったとしても、もしかしたら先に大きな川があるかもしれないし、案外時間がかかりそうな気配だ。
車の中には常にウォーターシューズがある。夏であれば、濡れることは覚悟して、エイヤ!と気合いで入って渡るが・・・。この時点ですでに15時近い。日照の残りはあと1時間だ。それまでにF道は抜け出していたい。どちらにしても氷河まで行って戻ってくる時間的な余裕はない。
ということを説明しても、彼は気が済まないようで、それでも抜け道がないかと右手の山を登っていった。私もついていったけれど、川の流れは速く深くなるばかりだった。
2010年の噴火前は、氷舌の先端に湖があったという。現在のヨークルサルロンばりに、その湖には氷の破片がいくつも浮いていたそうだ。現在その湖は消滅している。
2010年の噴火直後には、先端の部分に小さな洞窟もあったという。それは今でも存在しているように遠目からは見えなくもないが、実際はどうなのか。
ここまで来て、氷河に近づけなかったのは少しばかり悔しい。次回は必ず長靴か何かを用意をして、必ず近づいてやる〜〜と思った。幸いなことに、ここは手軽に日帰りができる距離だ。
世界中の多くの人が「一生に一度だけでも」と願う場所に、私は何度も足を運んでいる。もう一生分の絶景を十二分に見たと本当に思っている。それでもアイスランド各地の風景を知れば知るほど、見れば見るほど、欲が出てしまう。深みにはまっていく。
日没数分前にF道から普通道へと出てくることができた。そしてそこには美しい夕焼けが待っていた。
ちなみに、エイヤフャットラヨークトルの氷河を行く冒険心あふれるツアーも出てるようなので、興味ある方は挑戦してはどうだろうか。一週間ヨーロッパの航空便を止めた、悪名高き(?)氷河の上を私もいつか歩いてみたい。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。