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こちらアイスランド(185)絶景と仲間の笑顔の余韻が響きつづける「大人の修学旅行」アイスランド一周旅行〜小倉悠加

15年以上お付き合いが続いた旅行代理店との仕事を無事に終了した。会社の方針転換で、個人旅行の販売部門を廃止したからだ。

この動きは数年前からあり、なんとなくそれは担当のS氏を通して感じていた。それでも、S氏が会社を説得してここまで続けてくれたのだ。本当にありがたい。

今後どこか別の日本の代理店と組むか、アイスランドの旅行会社と組んでアイスランドから募集するかになる。希望者を募り、グループ内で計画するのはアリだ。

計画するのであれば、一生に一度かもしれないアイスランド旅行にふさわしい内容にしたい。それは単に訪れる場所のセレクションに限らず、どう旅行を導いていくかにもかかっていると思っている。

ひょんなきっかけからアイスランドの音楽フェス、アイスランド・エアウエイブスを見に行くツアーを初めて作ったのが、確か2006年だった。

以来、さまざまな理由で3軒ほど旅行代理店を渡り歩いた。3軒目の株式会社クオニイツムラーレとのお付き合いは15年続き、今日に至ったのだ。

私はツアー企画も集客も、アイスランド国内の手配も私ひとりで全部できる。ワンストップソリューションだ。けれど、旅行参加者を一般募集するにはライセンスをもった旅行代理店が必要だ。

ツムラーレのS氏とは最初からのお付き合いで、温厚でとしても気が利くし確実な仕事をしてくれる。加えて、私の性格をよくご存知なので互いにやりやすい。いや、彼はやりにくいと思っているのかもしれない(汗)。

私のツアーは個性的だ。特に音楽ツアーをやっていた時の記録を見返すと、よくぞこれほど泥沼のマニアックな企画が通ったものだと思う。企画を通すも通さないも、私の一存でそれができたからよかったのだ。

現地で培ったミュージシャンとのコネクションを駆使した超絶企画が多く、アイスランド音楽という沼にハマった参加者には毎回大変によろこばれた。同じ企画も2度としなかった。中身は毎回一期一会である。だから毎年参加していた人強者もいたし、リピート率も異常に高かった。北欧のツアーは一般に年齢層が高いのが普通だが、私のツアーは30歳前後と非常に若かった。常に最高年齢参加者が私だった。

この音楽ツアーの成功は業界でも話題になった。他の旅行代理店が真似したツアーを出した時期もあった。

趣味の楽しいツアーを10年以上続けた。今回の担当のS氏も音楽ファンであったため、このツアーはどこまでも雰囲気がよかった。

私が企画するツアーの大きな特徴は参加者の年齢層が若いこと。それから、私自身が女性であるせいか女性参加者が多い。

「女性のひとり参加ですが大丈夫でしょうか?」

「企画発起人の私が女性ひとりなので、問題ないですよ〜」という会話が常にある。

今回の一周旅行も多分に漏れず女性参加が多く、男性参加者は添乗員を除いて1名しかいなかった。彼は音楽ツアーに参加したことのある人だった。彼が参加した時に同じく参加していた女性がたまたま今回リピート参加していた。顔馴染みだ。添乗員も私も同じなので、全くの異次元空間でなくてよかった。

そんな感じで、今回の旅行も年齢層若め、女性参加多数、顔馴染みがすでにいる状態でスタートした。

今回のツアーの売りは「アイスランドをぐるり一周!」。

少々駆け足ではあるけれど、名所を見学しつつ、アイスランドの景観を楽しみ、食事を楽しみ、願わくば参加者が仲良くなり、楽しく旅行できればとかなり緻密に計算し、内容を吟味した。

最大の難関は天気!こればかりは祈るしかない。天気には本当に気を揉んだ。私がいかに気を揉ませようと天気が変わってくれる訳ではない。それでも祈らずにはいられなかった。

「こちらアイスランド」の読者であればご存知の通り、私は週末になると夫とドライブへ出る。地元に住んでいる強みで、天気のいい日に天気が最善の場所を狙って行くのであり、天候が悪い時は家にいる。

企画した旅行では、それができない・・・。天候に関わらず、進まざるを得ないのだ。

なので、パンフレットには寄る予定の場所をいくつか伏せたままにしたし、雨風が強い場合どうするかの対策も考えた。対策といっても、限られるけれど。

強風というと、読者のみなさんはどんな感じの風を思い浮かべるのだろうか。アイスランドの強風は、甚大な被害が出る台風並みであることが多い。普通に立っていられない、飛べそうな気がする、風に逆うと前に進めない、風に押されて変な方向へしか歩けない、傘は凶器化するし、雨は横から身体に刺さってくる。風に車体があおられてバスが横転したり、大型トラックが道から外れたりするため、道路が通行止めになることもある。

そんな悪天候の場合は、諦めてもらうしかないのだが、そうはいっても一生に一度の旅になる確率の高いアイスランド一周。私はどうしても成功させたかった。

結果的に天候は大丈夫だった。唯一、非情な雨と風に祟られた日は移動が主な日で、観光地に到着すると晴れ間が出るほどだった。

むしろ移動日に猛烈な風と横殴りの雨、どんより陰鬱な空に出会い、「これがアイスランドの天気だ」と思った人もいたほどだった。ツアー企画者としては、天候に恵まれたいと願うところだが、この「恵まれる」という言葉には、バラエティ、つまりは曇り空も悪天候も醍醐味のうちであることを知った。

ツアーのご参加者には朝食会場で顔を見ることもあったし、夕食はずっといっしょだった。なるべくいろいろな方と話ができるように座った(つもりだった)。

それぞれにアイスランドへの思いを語っていたのが印象的だった。興味深いことに「都会よりも自然の中がいい」という人が多かったこと。類は友を呼ぶということか、紛れもなく私がその代表だと思われる。

人数的にも全員と話しやすい距離感があり、30名を超えるツアーから5ー6名のツアーまでやってきた中で、一番好きなのが15名程度のツアーだ。今回はぴったりそれに当てはまった。

バスの中ではアイスランド全般の物事、生活、これから訪問する場所の解説はそこそこしたれど、うるさ過ぎないようにとも心がけた。少しボケっとして、ゆったりと車窓を楽しんでほしいからだ。

車内からは「XXさんからです。お二つずつどうぞ」と、時々おやつが回ってきた。こんな小さな気持ちのいいコミュニケーションを通して、もちろん観光地をいっしょに歩いていくうちに、自然にみんながとても仲良くなっていった。

不思議なもので、車内の雰囲気が日に日に変化していった。最初はみんな手探りだったのだろう。たぶん、最初の夜の、自由参加だったにも関わらず全員が参加した夕食会で、互いに知り合う手がかりをつかんだのではと思う。

そして、知られたことではあるけれど、アイスランドは本当に美しい。特に北部ではこのツアーの数日前に雪が降り、一時的に通行止めになったほどの雪だった。幸い、ツアーが来る前にはすでに溶け始め、私たちが通った時は、まだらに雪が残り、それが日光に照らされて、異次元のような世界が車窓に流れた。

ツアー二日目からは車内が賑やかになっていた。話し声がよく聞こえてきた。どのタイミングでガイド役としてのマイクを握るかがわからなくなってきた。私が話し始めると車内がシーンとして、本当に、なんだか申し訳ないほどシーンとしてしまう。話し終えて少し経つと、また話し声が聞こえ始める。

私は小さい頃から一匹狼的なところがあった。疎外されたとか、いじめられたとかではなく、ひとりっこだったせいか、一人が好きだったのだ。人に話しかける習慣がないとも言えた。仲のいい友達はいたけれど、自分からアプローチすることはなかった。

こういう集団に入ると、自分がグループ・リーダーではあるけれど、どうも気後れしがちだ。なるべくどこかでひとりひとりと話したつもりではあるけれど、タイミングが合わずに個人的にお話をする機会を逃した方もいる。

この企画の中に、普通のツアーではまず寄らないであろうコースを入れておいた。アイスランド東部にあるストゥヅラギルという場所だ。ダム建設に伴う川の水位の変化で、美しい柱状節理が剥き出しになった。

ここは西側からは階段を降りて限られた景色を見るのみになる。東側からは片道2キロのハイキングが必要だが、たっぷりと自由に歩いたり、絶壁の下の方までいくこともできる。往復なんやかんやで5キロだ。この日の観光は、午前中も結構歩いているので、階段側にするか、ハイキング側にするか迷いに迷い、最後まで迷ったけれど、ハイキング側にした。

往復5キロの距離を、無言でサッサと歩く人もいれば、おしゃべりをしながら進む組もあった。私自身、集団に縛られるのがいやなので、旗を持って率先することはないし、時間内であればご自由にどうぞ、という考え方だ。全般に、ここの考えや行動に介入しない自由な空気感も心地よかったらしい。裏を返せばそれは、参加者自身がそれぞれに考えを持ち、率先しなくても行動できる大人だったということでもある。

グループで動く最後の夜は、郊外にとったホテルの屋上から、美しいオーロラが姿を現してくれた。仲間とはLineでつながっているため、「オーロラ出てます!」という号令でみんなが屋上に集合した。

毎回、グループの中のだれかひとりは写真上手がいる。オーロラをバックにいっしょに写真を撮り、時に夜空を舞う光の動きに目をこらし、寒いでしょうからと日本酒(!)とつまみまで持ってきた方もいて驚いた、さすが日本女性、気が利く!

私は立場上、参加者とは付かず離れずだったし、性格的にも集団の中の一員が苦手なので(なのにグループツアーを作る矛盾)、特定のどなたかと親しくなることはなかったけれど、みんなそれぞれに個性豊かでとても素敵な人だった。

大人になると、仕事を離れて人と知り合う機会が少なくなる。ツアーという共通項があるため話もしやすいし、利害関係もないので、計算高くなったり、変に気を遣う必要もない。それがとても心地よかったようで(私も!)、最後にはみんなが無二の親友のようになっていった。

普段は団体旅行は避けるという人も何人かいた(私も!)、そういう人たちも、「仲間がいると自分ひとりでは発見できなかっただろう楽しさがありますね」という感想をいただいた。

アイスランドの絶景もさることながら、今後も時々つながっていくことのできる知り合い・友人を得たことを実は一番意義深く思っている。ともに楽しく語ることのできる共通の体験も得ている。それはアイスランドの壮大な景色であり、虹やオーロラ、横殴りの雨、ホロホロと口の中で崩れたやわらかい羊肉の味。現場を離れると、そのひとつひとつが、愛おしい思い出として腹に落ちていく。

ツアー解散後も、結局はみんなで集まり、楽しく食事をしたそうだ。そんな写真が私の帰宅直後にシェアされてきた。この旅行を通して、時々会ってはくったくなく時間を過ごせる友人に出会えたことと思う。

企画者というのはちょっぴり寂しいもので、その中に入っていっていいものかと躊躇する。そんなことは考えず、ガハハと輪に入れる性格ならよかったのかもしれない。でも、こんな性格だからこそ、このような辺鄙な土地が好きなのだろう。

「大人の修学旅行、楽しかった!」という言葉がどこからともなく流れてきた。そうだ、これは修学旅行だったのだ。私のこれで長年お付き合いいただいた代理店との企画ツアーを卒業する。そういうことなのか。これは私自身も卒業記念の旅行だったのだ。

アイキャッチに使ったこの写真は、ご参加者から送られてきたスナップだ。スコゥガフォスの水飛沫が豪雨のように刺さる場所までズケズケと進んでいった私を追い、タイミングよく撮ってくれた。ここに掲載することも、快くご承諾いただいた。みなさん、本当にありがとう。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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