アイスランドは暦の上では二季しかない。正式に存在する季節は冬と夏のみだ。
日本人の感覚ではアイスランドの夏は到底夏だとは言えない。日本の感覚だと、春先程度でしかない。ここにあるのは冬だけで、十分過ぎるほどまっとうな冬景色に包まれる。
こちらの感覚はといえば、昼間の気温が二桁(=10度)あれば夏らしい天気だし、15度を越えれば意地でも盛夏認定になる。20度という数字を見ただけで狂喜乱舞だし、商店や会社を臨時休業にして「日照を楽しもう!」となっても私は驚かない。裏を返せば、それだけ一年中寒いか涼しい気温にしかならない。
夏は4月の第3週からと決まっているし、冬は10月の下旬からと制定されている。アイスランドの季節に関してはそれで説明を終わらせても間違えではない。とはいえ、それなりに、そこはかとなく、秋の風景はある。
秋らしい風景、つまりは紅葉だ。
アイスランドには基本的に木がないし、植林も針葉樹なので紅葉がないと思う人も多かろうと思う。
チ、チ、チ、そうじゃないんですよ、お嬢さん。
ほれ。
これを紅葉と呼ばずして何と呼ぶ、という感じではなかろうか。そしてこれはブルーベリーの木なのだ。ブルーベリーはアイスランドの津々浦々に分布する野生の植物だ。
アイスランドにもしっかり紅葉はあるのでどうぞよろしく。
2024年9月22日。紅葉狩りを目的とした訳ではなかったけれど、たまたま時期と場所がよかったようで、ランガバトン(Langavatn=長い湖)を一周した際にアイスランドの紅葉と秋の姿をたっぷりと楽しむことができた。なので、その様子を写真でお裾分けしたい。
ランガバトンは西アイスランドの人里離れた場所にある、とざっくりと書いてある情報が多いようだ。実際に地図で位置を見ればすぐにわかるが、フィヨルドが入り組むいわゆる西アイスランドではなく、私の感覚ではレイキャビクとスナイフェルスネス半島の間くらいといった方がわかりやすい。
細長い湖で、面積は5平方キロメートル。三方向の川につながっており、北はランガバトナ川、東はベイラ川、南へはランガ川が流れる。非常にいい釣り場(有料)だそうで、釣り人はよく見かける。
ここは1号線から553号線を使って行くのが順当な道筋だ。釣り人用の小屋があり、そこまでは普通に車で行ける。夏に初めてこの場に来た時、私たちはその道を使ってきた。
553号線は小屋で終わっているけれど、道路はその先も続き、湖の東側の湖畔にはずっと道路が通っているのが見えた。小屋の表示ではハイキング・ルートの表示ではあるけれど、私の目には車道に見えた。
きっといい感じのジープ道があるかもしれない。
普通に走れる道はあらかた走ってしまったため、最近はジープ道と言われる正式な道なのか何だかよくわからない道を探して探求することが増えた。
正式な道ではあるけれど、グーグル地図などには掲載がなく、そういった道路はかなりディープに調べないと出てこない。たぶんそれは、旧道として使われていた、万が一現在の幹線道路が使えなくなった場合回避道として使えなくもない、だからある程度は使えるようにしておきたい、秋になれば羊を山から下ろす作業で現在も年に数回は必ず使われる道である等の理由があろうかと思う。
つぶすのも通行止めにするのも厄介だし、メンテナンスや巡回などはほとんどできない。決して簡単な道ではないため、事故が起こる確率は高い。なので、知る人ぞ知る道ということにしておき、こういう道に慣れていない人は来ないでほしいという道路公団の不文律のようなものかと私は思っている。思っているだけ、ね。
という東側の道を追っていると、どうやら普通道から見える対岸、つまりは湖の西側に出られる道を見つけた。
入り口は54号線から分かれる535号線だった。道路標識に記されている農場を抜けると、確かにジープ道はあった。ごく普通に走れる道で、たぶん夏は釣り人がよく使うようだ。釣り人を何名か見かけた。
川沿いの道を抜け、土地が広がる場所に出ると、そこには見事な溶岩大地があった。アイスランドでは手付かずの自然が見られるというが、それは本当だけど、道路沿いは人の手がまず入っている。ハイランドでもそうだ。
でもここは、有名なハイランドの道でもなく、釣りでもしない限りは行くことのない場所で、釣り人は釣りには興味があっても、たぶん溶岩大地などはありふれたそこらへんの景色でしかなく、眼中にないのかと思う。
溶岩大地とブルーベリー・ブッシュのコラボ的なアイスランドの秋の姿。535号線に入った時に2-3台とすれ違った程度で、その後ここまでの1時間は他の車を全く見ていない。異次元だ。
この景色が好きすぎて、これで十分に来た甲斐があった。ここから引き返してもいいと思った。
日照はまだあるし、彼としてはランガヴァトンの対岸まで行きたいというので、先へと進んだ。
すると、遠くの方に小屋が見えてきた。へ〜、こんな場所に小屋が!釣り人のキャンプ場であれば地図に出てきてもいいが、そのような記載はない。近づいてみると人がいるので、彼が声をかけた。
ユニフォームでレスキュー隊員であることはすぐにわかった。何人かいたので、訓練をしていたのかもしれない。
彼が先の道に関して、特に渡る必要がある川があるかを確認したところ、とても意外な返事が返ってきた。
「ユーカ、ここから湖をぐるりと一周して、例の普通道に出られるそうだ!」
私たちの目的は以前行った道の対岸、つまりは湖の西側へ出たいだけで、グルリ一周は考えていなかった。先に進めば、遅かれ早かれそのことに気づいたのかもしれないし、気づいたとしても小型車では無理だろうと諦めた可能性が高い。
ぐるり一周できることを教えてくれたのがレスキュー隊員なので、無責任なことは言わないだろう。第一、あの小屋まで辿り着けたこと自体が、まず普通ではないし、車も見たので日本製小型ジープ(ジムニー)の実力をご存知なのだろう。
という経緯で、道の分岐路に来た時、西側の湖畔に出る道は「次回お預け」になった。当初は西側に出るだけだと思って行動している。日照時間の関係で、西側に出ていると、一周した後の帰りが暗くなってしまうからだ。
その後の道は険しかった。水の流れで道路がえぐられていたり、大きな石がゴツゴツの場所も多かった。一箇所だけ、小川のように水が流れ、道路幅が狭く崖っぷちになっている場所があり、そこはかなり緊張して通ることに。ジムニーだったので道路幅に若干余裕があったけれど、タイヤが大きい車の方が、あぁいった箇所は怖いのではないかと思った。
過去にあまりの悪路で引き返した唯一の道はエイヤフャットラヨークトル(氷河)へのルートだった。もちろん引き返した道は他にも数多くある。理由は積雪や道のぬかるみ、天候等だった。
この道路はそれに次ぐ悪路で、レスキュー隊員の言葉がなければ、どこかで引き返していたかもしれないし、ギリギリやれるかな?と思ったかもしれない。仮定の話なので、まぁそのまぁ、何が言いたいのやら(笑)。
写真で見てわかるように、西側の道はまず山の上に登り、それから下に降りて対岸へと進む。何度も書くけど、こんな道は地図をどれだけ見ても出てこない。
なのに、なのに、山を下ってみると分岐点があり、そこには正式な道路標識があった!これはハイキング道でもなく、正式な車道であることの証だ。アイスランド、ホントにわっから〜〜ん。
こんな場所に標識があるのはアイスランド人の彼もぴっくりで、これを見た時瞬時ふたりとも思ったのは、これを見たからには、道が必ず通っているので、別ルートも行きたい!どこまでも貪欲な二人。いつからこんな性格になってしまったやら。
そして今走ってきた対岸である、湖の東側の海岸線を走る。湖なので干潮も満潮もひどく差ははいとはいえ、水が多いと湖岸の道は若干心配だし、ここまで来て引き返すのは嫌だ。
湖岸が道路であることはわかっているが、ぬかるみや砂で足を取られるのはまずい。そんなところに注意しながら、ソロソロと進むべき場所はスピードを落とし、スピードあってなんぼの場所はサクっとスピードを出して上手に彼が切り抜けてくれた。
これでランガヴァトンをほぼグルリ一周したことになる。南側には道がないので、「ほぼ」なのだ。道っぽいものは見えているけれど、ここは全く使えないという情報は仕入れたので、どちらにしても小型ジープでは刃が立たないのだろうと思っている。
紅葉からやや脱線気味ではあるけれど、アイスランド人でもこの道の存在を知る人はごく限られていることもあり、書き留めておきたくてのお裾分けでした。
「こちらアイスランド」を月2回にしてから、タイミングがズレるけれど、引き続きお付き合いくださいね!
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。