政治を斬る!

こちらアイスランド(194)私はなぜ4年前に音楽アーティスト藤井風を封印したのか。そして今は・・・〜小倉悠加

不覚に風の沼に落ちた。

いや、不覚でもない。ありがたいことに、だ。

私は藤井風が大好きだ!
今回の「こちらアイスランド」はアイスランドから大幅に外れての私の推し活!

藤井風ってそれ、インフルAと違うの?という風邪ではない。あ、面白くないですね。ごめんなさい。

藤井風、もうみなさん知ってますよね。紅白歌合戦で「満ちてゆく」を歌った、あのかっこいい男性です。

かっこいいけど、別にそこはおまけとして付いてきた、みたいな感じ。

私は藤井風を初めて動画で見た時、背の高いあの男性は動画用のモデルで、実際に曲を書き、歌い、アレンジをしているアーティスト自身だとは思わなかった。というか、最初に大写しになった時、あぁこの人かとは思った。けれど、あまりにかっこいいので、いや、これは絶対にアーティスト本人ではないはずだ、と、すごーく混乱した。

藤井風、絶対的にいい!声がいい、歌がうまい、ピアノうますぎる、和音の使い方が好きすぎる、アレンジが素晴らしい、そしてオマケとして、たまたま見た目がモデル並みに素晴らしい。微笑みが天国のようで、この人は現実なのか?と思うほどあれもこれも持っている。

天才!天才!と世間では言うし、まぁそうなんだけど、藤井風は努力の人だと思っている。

だって、だってだよ、10歳の頃から youtubeで演奏を披露していて、学校終わって家に帰るとピアノ弾いて、夕食食べてからまたずっとピアノを弾いて、土日もピアノを弾いてた子だよ。努力の塊なのよ。

ショパンの「幻想即興曲」を弾く13歳ごろの風くん(かわいい❤️)。音がとれてるだけで凄い。その上、暗譜してる。そして指が長い!!!

私もピアノは習っていたけれど、この年齢でここまでは弾けなかった、私の10倍以上の練習量だと推測できる。

クラシックの難しい曲まで弾けるようになり、音楽的に独自に開拓できる余地を本能的に見なかったのではないだろうか。それよりもポップ、ジャズ、ソウルのジャンルの方が面白そうだ、自分に向いているであろうと13歳の子がそこまで考えたかは別だけど、クラシック向きでないことは如実だ。

藤井風のことは、実は湯川れい子先生に数年前から合う度に言われていた。

「ねぇ、この写真見て。この人、本当に素敵なのよ。才能もものすごくあるし」と私に話をふってきた。推し活をされていたのだ。

私のリアクションはかなり冷淡だった。イケメンなので無視をきめた。だって、アイドルには興味がないから。それでも、れい子先生があれだけ「才能がある」というのだから、本当にそうなのだろう。

「自分で作詞作曲もするのよ」と言われたけど、その時の私はここまで突き抜けた才能があるとは夢にも思わなかった。

アイドルに興味はないけれど、先生ご推薦なので、一度だけ藤井風というアーティストの曲をYoutubeへ聴きにいったことがあった。

そして私は藤井風を完全に封印した。封印せざるを得なかった。

それが封印した「帰ろう」という曲だ。風さんが4年前に発表した。

この曲が発表された4年前、私は心を病んでいた。これ以上は耐えられない。日本に帰りたいけど、状況的に帰る訳にはいかないだろうと、毎日悩み苦しんでいた。

心の病みは手の震え、悪寒、動悸などの肉体現象となっていた。そこから脱しようともがいていた時期だった。ただ、原因は私のニーズを汲み取れない、読み取れない、どんな形で話しても譲歩しない相手にあったため、私は袋小路に追い込まれていたのだ。

そんな時にこの曲だ。

どこまでも優しい歌声に、「あぁ、全て忘れて帰ろう」「あぁ、何も持たずに帰ろう」「去り際の時にに何が持って行けるの」「ひとつひとつ荷物手放そう」etcと、心に沁みるフレーズが続いていく。

号泣せずにいられなかった。正直、この曲を聴いてしまうと未だに涙腺を突かれる。

包容力がありすぎて、ものすごく心に沁みて、沁みすぎて痛い、痛くて耐えられない。

この曲を何度も聴きたいけれど、聴き続けたらたぶん私は爆発して飛び出してしまうだろう。それはできないーーー。

封印した。

藤井風は今後一切、聴いてはいけない。見てもいけない。

それに、正直この動画を見ても歌手が誰だか分からなかった。この男性が歌っているような気配ではあるけれど、背が高いいい感じのお兄さんだ。モデル?

どちらにしてももう二度と見ても聴いてもいけない。動画に出てくる男性が誰であろうと関係ない。もうどうでもいい!

素晴らしいフレーズで、素晴らしい歌唱力で、ぶっ倒れるほど素敵な歌だけど、心に沁みすぎて耐えられない。私はここで藤井風を封印したのだった。

その後、何度かれい子先生から話を振られたけど、完全に封印して思い出さないようにもしてたので、あぁそうですかぁのような、けんもほろろなリアクションだったと思う。ごめんなさい、先生。そういう事情がありました。

私はその後、たぶん1年半ほど努力は続けたけれど、根本的な改善が見られないので投げることにした。自分の精神を病みながらも努力し続けるのはこれ以上無理!そこで突き放すことにした。

ほどなく、放映されたのが藤井風のタイニーデスクのライブだ。Youtubeの音楽番組で、時々見ていた数少ないお気に入りプログラムだった。すっご〜、見ます、見ます。

藤井風、封印していたけど、個人的な問題はほぼ解決しているし、封印は解いてもいいかと、そのライブを見ることにした。

私は高校生の頃からずっと音楽業界に身を置いてきた。プロ中のプロとも言わないけど、聞く耳は持っているつもりだ。両親がクラシック好きだったこともあり、育ったのはクラシック音楽と昭和歌謡(テレビの影響)、中学生からは洋楽にのめり込んだ。当時のおこづかいの関係でジャズにはあえて手を出さなかったけど、音楽はかなり雑食だし、ちーとうるさい音楽ファンなのだ。

藤井風はこのライブで私を魅了した。唸らせた、納得させた、虜にした。完全に降参です。今まで無視いして大変に失礼しました!

いや、失礼でもないか。心の奥に迫る歌を作ったがための封印だった。能力が低いどころか、高すぎて封印せざるを得なくなったのは、ひとえに藤井風の逸材である証なのだ。

好きです。大好きです。素晴らしいです。身悶えながら私にこんなことを言わせた日本人アーティストはあなた一人です。本当に!

唯一他に日本人で心底感心したことがあるのは、坂本龍一だ。作曲家としての坂本龍一はずば抜けて巧みに日本的な旋律を綴ってきた。当然、世界的に注目され続けた真の芸術家だった。

藤井風のことは、エルトン・ジョン、ビリー・ジョエル、スティングあたりの偉大なシンガー・ソングライターと同格で捉えている。風さんのソウルフルな歌を聴いていると、いつかスティービー・ワンダーといっしょにスキャットしてほしいと思ったする。彼は世界の一流になると確信しているのだ。

って、結論を言っちゃったけど、彼の曲は斬新で新鮮で心踊る。そして何よりも人間愛にあふれている。溢れて溢れおちてすべての生命を慈しむような印象を受ける。

歌詞がいい。言葉遊びも面白いし(日本人でよかった!)お国言葉の岡山弁も斬新だ。聴いていて嫌な歌詞が一切ない。意味のない単なる穴埋めのような歌詞もないし、何を聴いても気持ちがいいのだ。面白いのだ。笑っちゃうことさえある。

「帰ろう」では号泣してしまったが、紅白で歌われた「満ちてゆく」で感涙した人も少なくなかったことだろう。

彼は20代半ばで、いや、20代前半からあのような清々しい歌詞だけを書いている。きっと本当に心優しい人なのだろう。それは声の質にも如実に現れている。

あの歌詞に癒されたり、励まされたり、救われたり、考えさせられたり、クスっと笑ったり、したことがない人はいないはずだ。聞けば聞くほど、噛み締めれば噛みしめるほど、味のある歌詞を書く稀有なソングライターだ。その上、ピアノもうまいし、音階の使い方や和声も独特だし、なんちゅーか、大好きです(笑)。

私は邦楽を全く聴くことなく来てしまったので、アイスランド人の夫からはっぴえんどを聞かされて、こんないいポップスを50年前に書いていたのかと今更驚く無知ではあるけれど、そんな無知を差し引いても藤井風の歌詞には深みがある。

その歌詞を載せるメロディがこれまた掟破りなのだ。多彩なメロディが一曲の中に押し込められている上、微妙な転調もやたら多い。聴く者を飽きさせない。流行りの歌の大半はつまんなくて一曲丸ごと聴けないことが多い。彼の曲の中には驚きがいくつも散りばめられていて、その驚きはわかりやすかったり、ひどく微妙な時もある。毎回聞くたびに新しい発見があり絶対に飽きさせない。

すでに卓越した楽曲構成の上に、藤井風の肉声である濃厚な生クリームがフレージングという美しい技巧に彩られる。も〜、これが最高じゃなくて何が最高なんすか?

力強く、やさしく、包容力のある美声だ。男性らしいドスのきく野太い声も出せば、天使のような裏声も持っている。地声と裏声を巧みに使い分け、美しいフレージングと、巧みなフェイクで攻めに攻めるプロ中のプロなのだ。無骨な風さんも、花園の守り神の風さんも、その間の全てもぜーんぶが藤井風であり、自由自在、声の魔術師、なんというか、音楽の申し子で、非の打ちどころが本当にない!

いや、あえて言うなら、イケメンすぎんかあれは?かっこよすぎないか?身長180センチ!モデル並みの甘いマスク。惚れる。

ここまで揃えば、容姿がよすぎるのは(私の中で)マイナスではなくプラスへと転じる。

私、あまのじゃくです。

藤井風は全部持って生まれてきたーーとは言われるけど、音楽的なことは努力の結晶だと私は思っている。そこに一縷のセンスがあるかないかが大きな違いを生む。

彼の造形が整形でないことは、10歳からYoutubeに動画を出し続けてきているので、誰でも知っている。歯を矯正した程度。

あれだけ身長があれば何を着せてもサマになる。なりすぎるのが嫌なのか、本人、外してヘンな顔をするのも大好きらしい。風ファンには、変顔として親しまれている。

アルバムに詰められた曲も穴埋め的な曲が全くない。何千枚と音楽アルバムは聞いたけれど、穴埋め曲がないアルバムは、1%にも満たないほど本当に一握りだ。風くんはアルバムを2枚リリースして2枚とも捨て曲がないことにも驚愕している。だって、全部の曲がいいんだもん。

アレンジも素晴らしい。これに関してはヤッフル(Yaffle)氏の貢献らしいが、アレンジの巧みさにも関心。難しくなりすぎず、大衆に媚びもしなければ突き放しもしない斬新なアレンジ。そこここに風さんの趣味であろうアメリカン・ポップスの言語が散りばめられている。私は長年の洋楽ポップス・ファンなので、そこらへんもとても楽しい。深掘りしがいがある。奥行きを感じる曲ばかりだ。

そんな大量の感想を私に抱かせるアーティストはものすごく稀有だ。最後にこれほど夢中になったのは・・・レディオヘッドだったかな?

という沼の周囲を彷徨いている時に、日産スタジアムでのライブのストリーミングがあった。

藤井風は解禁したし、スタジアム・ライブなら力が入っていることだろう。ライブ構成も見てみたいし、エンタメとしての完成度も見てみたいーーーという少々音楽業界的な目線で見始めたものの、すぐにそんな分析目線は吹き飛んでしまった。

かっこよくて楽しくて、それだけでいいじゃん!

残念ながら2時間近い動画はYoutubeでは見られないが、一部はまだ残っていたのでぜひどうぞ。

風さん、かわいい、かっこいい!指が長い、ピアノめちゃ上手。夏から秋にかけて、私はあの動画を何度見たことか。

ドポン。ここで完全に沼落ちした。風の沼。うれしい、楽しい、もう出られない!

書きたいことを凝縮したつもりなのに、すでに5千字超え。今回はここでお開きにしますね。

そうそう、風さんはオランダのジャズ・フェスティバル、ノース・シー・ジャズに出演決定。私、応援しに行きます。風さんに一つだけ言いたいんだけど、自分で英語の歌詞を書くなら、英語の勉強はもっと必要。勉強しているとすれば口語中心でやっていそうな気配なので、なんでもいいからとにかく英語の本を読んだ方がいい。一冊、二冊と読んでいくうちに、絶対に英語力が違ってくる。

楽しい藤井風ライフ、これでやっとれい子先生と藤井風さんの話で盛り上がれる。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。