2025年夏の終わりに、やっとフャットラバック(Fjallabak)へ行くことができた!
フャットラバックとはレイキャビクから2時間ほどで入り口に到達できる自然保護区だ。面積4万7千ヘクタール、海抜500メートル以上の地域で、見たこともないような絶景が広がる。日本も自然環境に恵まれた国ではあるけれど、森林が多いため山の形がくっきりと見える場所は少ない。
片や同じ火山国でもアイスランドには大木がないため、山岳地帯は低木や苔、高山植物や地衣類が表面を覆う程度で、ほぼ剥き出し状態なのだ。自ずと見える景色は日本と全く異なる。
この地域に安全に入れるのは夏の間のみだ。道路が完全に凍結した真冬に自己責任で通ることは可能ではあるけれど、夏に行けば分かるが、怖くて冬には行けたものではない。深い雪でもはまる心配の少ないスーパージープで行く人はいる。
今回はこのようなルートを使った。
あれ?今年既にその地域へは足を伸ばしていたのでは?と思う愛読者は記憶力抜群。そう、もう行ってます(笑)。ただ、私が考える絶景のてんこ盛りではなかっただけ。
例えば、前回掲載した赤い瞳もその地区だ。
温泉やハイキングコースで有名なこの話とかあの話も同地区内にある。
おまけに仕事でこの地域には何度か行ったけれど、私が思う絶景てんこ盛りではなく、食い足りない感が満載だったのだ(贅沢な話!)。
ところで、今年の夏休みはどこへ?と思う読者はーーいないか。ま、いいや。
自分用のメモを兼ねて書いておけば、夏休みは8月初旬から3週間弱ほど自宅を離れた。一週間は北部にある労働組合の貸別荘に滞在し、そのほかの日程はほとんどあちこちのホテル住まい。そして数泊、毎年宿泊させてもらっている彼のお友達の家で過ごした。
夏のアイスランドのホテルはバカ高い。コロナの時に私たちはホテル・チェーンのギフト券という存在を知った。通年いつでもブッキングできて、特に夏は割安になる。夏のアイスランドのホテル宿泊代金は強気で、一泊普通5-6万アイスランド・クローナする(日本円にして5.5万円〜)。
このギフト券、今年はアイスランド語のサイトにしか掲載がなく、住民番号を持ってないと買えなくなっていた。

出発前に決めてあったのは最初の3泊のみ。あとは天候を見つつキャンプに切り替える予定が、諸般の事情で結局全ホテル泊となった。年齢が年齢もあり、キャンプは正直疲れる。アイスランドに移り初めてキャンプをしない夏を過ごした。
そそ、それで、東北部にいる間、あまり天候がよくなく、狙っていた道を走ることができなかったり、初めて行った場所はそれほど面白くなかったりで(たぶんこれは絶景贅沢病発言)、ドーンと大きな景色が次々に展開される場所に飢えていたのだ。
ここ↓もフャットラバック内。
つまり私はフャットラバックが大好きなのだ。あの大きな景色を見ると、「あぁ夏だ〜〜!!やっと大好きな夏になったぁ〜〜!!」と自然を楽しみたい心のエンジンが全開になる。

今年の夏はあまり絶景を見なかったと私が言うと、
「え?東北部にいた間も随分と景色がいい場所へ行ったじゃん。あそこもあそこも覚えてないの?」
そう言われればそうなんだけど、ちょっと違うんだなぁ。東北部の景色もよかったけど、あれでは景色が小さい。
その上、大きな景色といっても数キロ範囲での目の届く「遠く」であって、スプレンギサンドゥル(F26号線)みたいに数十キロ離れた豆粒程度に見えてる遠くの山脈じゃダメなのよ。
山の尾根の形やら川のウネウネがドーンと見えて、これでもか!と絶景が続くのがいい。たぶん私しか理解できない言葉で書いてますよね。ごめんごめん。
2025年8月31日、気合を入れて美味しいサンドイッチを作り、家を出たのが午前9時。
今シーズン初めて来たのはぴったり3ヶ月前の5月31日だった。シーズン当初の道路は整備されたばかりで快適に走れた。けれど、3ヶ月間の間に多くの車が様々な天候の中を走るため、シーズン終盤の道は往々にして洗濯板や水たまりの穴などが出現する。つまりは走りにくい。
例えばこれだけの違いがある。全く同じ場所ではないけれど、同じ区域の場所がこんな風。


容易に想像がついたこととはいえ、やはりガタガタ道は疲れる。けれど、走ってる間は景色に気を取られてそんなことは気にならない(翌日ドンと疲れがきた)
あとはもう、写真だけご覧いただければいいかなという感じ。
温泉やハイキングで人気のランドマンナロイガルへの道が一番混んでいるため、道路も結構荒れていた。そこを抜け、F208号線に入ればよくなるかと思ったら、そうでもなかった・・・。
けれど、やっとこの景色を見ることができて、私はとてもうれしかった。あぁ、やっぱりフャットラバックはいい。高山植物は枯れ、目に鮮やかな色は褪せ、紅葉がかってきたのを見るのも、またオツなものだ。
季節の変わり目をこの場所で感じられるのも、何度も来られる醍醐味だ。





「ここさぁ、1ヶ月前に来ていれば、コットングラスがものすごく可愛かったよね〜。来年は大量のコットングラスまた見たいな〜」と、さりげなく、いやストレートに、夏の真っ盛りにここに来たいという希望を表明。
最近つくづく思うのは、外人に遠慮はいらない。私は日本にいると、ストレートに物を言うと煙たがられたことが多かったが、アイスランドにいると「もっとはっきり物事を言うべき」と指摘される。特に夫に対してはストレートに言わないとダメみたい。でも指図するみたいな感じには言いたくないので、匙加減がとても難しい。
ちなみに、この日の目的は「道を走る」ことで、どこかへ行きたいという目的地はない。
それでも、せっかくここまで来たのだからと少し寄り道をした。そこは、私たちがハイランド・カラー(高地の色)と呼んでいる、蛍光色の水草がこれでもか!と繁茂している場所だ。
アングルは異なるけれど、同じ場所で写真を撮っている。アイスランドの盛夏の7月初旬、紅葉が8月下旬となる。少し物悲しいけれど、それでも来られてよかった。大好きだ〜!



先を急ごう。「ここまで来たからには・・・」というセリフが今回は何度か彼から聞こえた。前述の水草の場所もそうだし、F233を走りたいという。
このままF208を走行した方が安全なのはわかっている。安全というか、大きな渡河がないという意味で。





以前来た時は川で引き返した。渡ってくれる車が来なかったからだ。
この川は本物だ。水たまりとか、小さな流れを少しばかり川っぽく大きくしましたという類ではない。水位が高かったり、流れが早ければ、大型車も流せる威力がある。川幅も広い。渡河にはけっこうな注意が必要だ。
この道は車の往来が少ない。今回もこの川で引き返すパターンかと思っていた。けれど川に到着すると対岸にランドクルーザーがいた。これはしめた!彼らが渡ってくれればどのものかがわかる。
けれど、ランクルの二人は川縁を感慨深く歩くだけで渡る気配はない。むしろジムニーの我々がトライするのを待ってる風だ。
でもさぁ、タイヤも車高もランクルの方が大きいんだよ。なんでジムニーが先に行くと思う?!
と心の中で呟いていると、バギーの一行がやってきた。 10台はいたと思う。でも、バギーは無茶苦茶に走って通るだけだから、参考にならないことはわかっていた。で、その通りに川を直進し、大きな石やら深みにハマりながらも、楽しそうな顔をして全員走り去っていった。ま、そういうことだよね。
そこで対岸のランドクルーザーは諦めたのか去っていった。
我々は、ちょうど小腹が空いていたため、コーヒーとクッキーでおやつタイムにした。すると、ミニバスがキタ〜〜!!ありがたい!我々は固唾を飲んで見守った。
彼は事前に渡河ルートを調べていて、まっすぐ進まず大回りするというその通りにバスは走っていた。けれど、途中で大きな石にはまり、車体が一旦ガクンと上に持ち上げられた。なるほど〜、あそこに大きな石があるんだ!
エンジンの馬力はあるし、車高もありタイヤも大きなベンツなので問題なし。そして我々は、いいものを見せてもらった。
ミニバスの運転手は観光客をそこで待つ必要があり、外に出てきたので、彼がすかさず運転手を捕まえてルートの確認。
「やっぱりもっと大回りで走行すべきだったと言ってた。よんどスタックしたら救助はできるからとも言われたよ」と。あっ、そう。
「ユーカ、どうする?渡る?」え?私に尋ねる?!
「運転手が決めるべきことっしょ?」
「でも君の意見は?」
「そう尋ねてくるところをみると、私に後押しして欲しいって意味でしょ」
ということで川まで出た。川幅が広い!川底は見えるけど、深め安定のような感じで浅くはない。
陸では運転手と観光客が見守ってる。見せ物になるのは好きではないけれど、何かあった時には助っ人がすぐそこにいるのでありがたい。
着水から対岸に前車輪が着岸するまで58秒。長かった。焦らずにぐるーっと遠回りをした彼は偉かった。時々左右に揺すられた程度で、川底の難問の石はそこそこ避けられたし、上手に渡れた。ジムニー、よくやった!鈴木自動車に本当に感謝!運転手にも!





交通量がごく限られるためか洗濯板道もアナボコ道とも無縁で、この後の道はすこぶる快適だった。この道も実に風光明媚で、次々と美しい緑のグラデーションが視界に飛び込んできた。ジムニーありがとう。
そしてよく知る分岐点まで出てきた。ここからはF210へ出られる。
F210(Fjallabaksleið syðri)は大きな川がいくつかあることで知られている。ジムニーでも走行は可能ではあるけれど、それでもホルムサ川(Hólmsá)だけは手をつけていない。上の最後から2番目に見える青い川がそのホルムサ川だ。
この川だけはジムニーでは渡らないし(状況により可能ではあるというけれど)、今年はF210の川の水位が高く、相当大きな車両でもスタックした例が多すぎて、道路公団では渡らないよう呼びかけている。
アイスランドの山岳道路(F道)は楽しく走れる道ではあるけれど、知れば知るほど毎年コンディションが異なるし、その日の天候の変化はもとより、その前の天候の推移まで頭に入れておいた方がいい。私自身も経験を積めば積むほど、考慮することが多くなってきた。
川を無事に渡り、未知の景色を楽しんだ。あとは帰るだけ。でもその帰りがーー長い!(笑)
最初に出した地図を見ればわかるが、走行距離は500キロ。帰りの1号線は退屈だけど、同じ道を戻るにはキャンプが必要になってしまう。仕方なく&ありがたく1号線を使って帰宅しよう。
そしてダメ押しのように、「ここまで来たから」というので、フルズフォスへ寄り道。往復2キロ程度なので、確かに寄り道しても大した時間の差はない。


フャットラバックは素晴らしいけど、帰路の1号線が憂鬱だと話していると、そんな私たちの心を励ますように突然雨が降り出して大きな虹が出現した。
さんざん1号線に苦言したけれど、悪路をずっと走ってくると舗装道路は本当に快適だし、ぐんぐんと進んでいく。日の入り時の夕焼けはとびきりコンガリと目に焼きつく色を呈していたし、その後の空に浮かぶ雲も、ブルーとピンクのパステルでとびきりドリーミーだった。


途中、そこそこの時間に夕食を食べ、23時に帰宅。行きたかった場所、見たかった景色をたっぷり目に焼き付け、心の宝箱に押し込んで帰ってきた。長かったけど、疲れたけど、楽しく充実した1日だった。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
