アイスランド生活10年目にしての心境の変化を雑記としてつづってみたい。今回の日本滞在で自分の心理に大きく変化を感じることがしばしばある。老境?!

机のない実家よりも、机のある以前の家なんだなーーーということを今回はありありと感じている。
1年半前まで両親は90代で揃っていた。あれは奇跡だった。まず父が2024年12月に亡くなり、今年は実家で母といっしょに過ごせる最後になりそうだ。母はまだ独りで暮らしてはいるけれど、足腰が弱り、長時間立っていられないため、料理をすることが困難になってしまった。風呂場で倒れても危ないのでホームへの入居を考えている。
今回、私が一時帰国で元ってから2ヶ月ほどが経つ。なるべく実家で過ごしていることもあり、母はすっかり私に頼るようになった。2ヶ月前よりも忘れっぽくなっている。「全部あなたに頼ってしまうからだめね」と母もその自覚がある。
私がいると母がボケそうな気がしないでもない。安心感の裏返しというところか。
父は自宅の二階を占拠していた。父が亡くなった時、「二階は好きに使って」と母から言われた。私はその言葉を鵜呑みにした。
私が使いやすいように二階の家具を入れ替える計画を母に話したところ、「私が居る間はガタガタしないで。私はそう長くないから私がいなくなったらあなたの好きなように全部して」とストップをかけられた。
私の居場所は机だ。いつ、どこに行っても机を拠点に私の生活は回る。小学生の頃から自分の机は物置でしかなかった。あの頃は居間に寝っ転がりまんがばかり読んでいた。自室をもらえた中学生からは、帰宅後はずっと机のところにいた。机の上にあったラジカセ(カセットとラジオが合体していた電化製品)を聴くのが目的だった。
以来、私の人生で机を欠かしたことはない。
結婚してまず夫に驚かれたのが「居間に机を置くの?」だった。うん、絶対に譲れない。
居間、机、台所の動線は私の生活の基盤だ。机を置かずにどこで仕事をすると?現在はラップトップが優秀だし、私もパワーブック愛用者だ。それでもパソコンは膝におかず、机の上で文章を打ちたい。
私はいの一番に、実家に自分の机を設置したかった。そこが居場所になるからだ。
「二階は好きに使って」という言葉に躍らされ、早速机を購入しようと動き始めたところ、「ガタガタしないで」の母の鶴の一声となった。
着替えがないと実家を生活拠点にできないので、外出着は横浜の自宅から移動したり買い増したりした。クロゼットには、母が入れていた客人用のあれこれが場所の半分を占拠している。そこも「私の部屋」感が欠けたままだ。
そんなこんなで拠点となるべき机がなくて落ち着かない。本来は机を一階に置きたいし、現時点でそれは場所的に無理なので、せめて二階にと思ったところが・・・。
横浜の自宅は元夫が使っているので、そこも私の居場所ではない。けれど、30年近く前に運び入れた私の机は残っている。周囲のキャビネットには私の書類や書籍がぎっしり詰まっている。そこに座ると落ち着く。今、たまたまそこでこれを書いている。
なるべく母と時間を過ごしたく、横浜に来るのは1ヶ月に一度にとどまる。横浜の駅もここ数年で激変したとはいえ、コンコースにたどりつくと、慣れ親しんだ我が家を感じる。
ましてや、この机に座るとほっとする。
1-2年前に居場所がない、居場所がわからないと書いたことがある。その状態はまだ同じではあるけれど、心境の変化なのか、実家にいる時間が長過ぎるので横浜の家が恋しいのか、今は横浜にいる時が一番落ち着く。
実家では母の要求を最優先とするため、自分ファーストでいられない状況も影響しているのかもしれない。誤解がないよう書いておくけれど、母は決して無理を言わないし、私にとても気を使ってくれる。今は母ファーストで構わないし、それが望むところでもある。
結局「私の居場所」は「机」の有無なのかと今回は痛感している。

日本の都会、案外好きかもーーーというのも心境の変化だ。
アイスランド生活も今年で10年目。アイスランドへ通い始めてから約25年。夏のアイスランドほど素晴らしい場所はないと思うけれど、食事の単調さには辟易している。日本から食材を持ち込み、創意工夫もしているけれど、その努力の時間を他のことに割きたくも思う。
日本の当たり前は海外の当たり前ではない。それはわかり切ったことだし、どうにか今までやり過ごしてきた。けれど、正直なところ食生活にうんざりなのだ。
これでもしもアイスランドの物価が割安なら納得のしようもあったかもしれない。けれど、激高なのだ。美味しいパン屋で買うサンドイッチひとつが3千円。スーパーでも千円する。素材を買って自分で作ったとしてもそこそこの材料費がかかる。
水と空気はいいし、治安にお金がかからないのはありがたいことだ。そこに大きな利益は感じる。でもそれは、ほぼほぼ日本でも同じことではないか。
私の収入源はすべて日本円なので、円安は本当に痛い。だからもう、そろそろアイスランドを引き上げてもいいかと思っている。
都会を、人混みを避けたいはずなのに、今回は物品がたくさんあり、どこもかしこも小綺麗な都会の雰囲気を楽しんでる。
都会の小洒落たレストランなどに入ると、あぁ私にもこの都会で仕事をして生活をしていることを何となく楽しかった時代が少しはあったかもと思い出す。
ごく当たり前の、嫌気が差していた日常が、部外者として客観視できるようになったのかもしれない。上っ面だけ小綺麗だと思っていた都会が、なんだか煌めいて目に映る。自然の中がいいとか言ってたくせに、ないものねだりーーー。
日本の物価もものすごく上がった。1万円は大金だったし、1万円は使い切るのが怖いほどの価値があった。それがどうだろうか、今や数万円を一度に出さざるを得ないことが多い。
それでも、それでも、何度も書くけどそれでも、やはり日本の物価はまだ許せる。日本に置いてあるものの方が物品のクオリティも高い。百均は本当にありがたいしね!
あれだけ人混みが嫌だったし、今でも人混みは好きではないけれど、人が移動しているのを見るのは嫌いではないと今回は思った。
自分が否応なく人混みに放り込まれ、逃げ出せなくて四六時中ストレスを感じるのは御免だ。けれど、時々そんな人混みの中のひとりとして存在すると、不思議な連帯感を感じる。嫌な気持ちではない。この心境の変化は何なのだろう?
移動を必要とする人がひとり、ひとり、またひとりと数を重ねて出来上がったのが、この交通システムなのだ。私も乗客という構成員のひとりだし、電車を動かしている人も、運行を計画をしている人も、誰もがみんな、どこかで等しく「参加」しているということを改めて感じる。
いやはや、本当にもう当たり前のことを書いてるよね。
日常の景色として一絡げに捉えていることが、すべて個人単位から発生していることをしみじみと感じる。これって私の解像度が上がったということ?
日本は製品に多くの選択種がある。アイスランドは選択種がない生活で、ド高い価格のものしかない。
例えば軽量カップは百均でもいくつか選択種があるし、容量も大小いろいろあって見ているだけで楽しい。専門メーカーの品物はお値段はするけど質は高いし使い勝手もいい。専門メーカーほどではないお値段で、百均よりも質がいいものも見つかる。よりどりみどりだ。
物品が溢れすぎるのは資源の浪費だと思うこともある。けれど、それで経済がまわるならいいことなのかもしれないし、製品として世に出てきたものなので、それは正しく消費して感謝して使いたい。
どうやらアイスランドは給与が高くて幸福度が高いらしい。母からよく質問される。けれど、実際の生活は日本よりも過酷だと私は思う。アイスランドの老後も日本と同じで、自宅を所有していないと年金だけでは暮らせない。
え?アイスランドでも年金で暮らせないの?まぁね。レイキャビクなどアパート一室(日本で言うマンション)現在30万円以上が家賃の相場だ。野菜のニンジン一袋500gが900円、サンドイッチはスーパーの安いやつでも千円だ。20万円の年金では暮らしていけない。だから彼らはカナリア諸島など、少し暖かくて物価が安い地へ出ていくのだ。
・・・・・という現実を知らず、年収だけを見て日本人の尺度で考えるから、「うらやましい」ということになる。俯瞰すれば、アイスランドよりも日本の方が生活は恵まれていると私の目にはうつる。

そろそろ日本に戻りたい。
アイスランド生活10年目に入り、日本を再発見している。いや、単にアイスランドの食生活に辟易してきたのかもしれない。アイスランドの自然は充分に堪能したし、思い残すことはない。
こうして日本にいてアイスランドの風景写真を見ても、今はまだ「あぁ、そんなものね」としか思わない。
もしも本格的に日本に戻り、丸1年アイスランドへ行かなかったら、私はアイスランドが恋しいと言い出すのだろうか?きっとそうだ。
生活は半々がいい。日本半分、アイスランド半分。そして可能であれば、一年のうちの2-3週間程度はヨーロッパのどこかを旅したりもしたい。あぁ、贅沢ですよ、贅沢!
日本での家賃はないけれど、アイスランドの家賃(私の負担分)は私が使わなくても支払い続けなくてはいけない。それも高額だ。そして日本・アイスランド間の航空運賃は安くない。こんな生活をしているのが元凶とはいえ、貯蓄の余地がないどころか、貯金の切り崩しを強いられ続けている。
それでも身体が動く今のうちは、日本とアイスランドの半々生活が実現できるならそうしたいと思っている。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
