政治を斬る!

オーストラリアから日本を思って(44)世界は戦前回帰し帝国主義へ向かっているのか?〜今滝美紀

この夏の参議院選は歴史の分かれ道になるかもしれない~激しくせめぎ合う世界の動きから~

自分が置かれてる世界と違う世界の人々の話に触れると、新鮮な驚きや発見があります。そんな点を含めて書いてみたいと思います。

分断政治ではないのか?~先住国民VS外国人

日本の様子が気になり、SNSを覗くと、選挙の街宣が乱闘場のようになっている動画が飛び込んできました。「国民を大切に!」「外国人優遇反対!」と訴える候補者に対し、シバキ隊と呼ばれる人々や外国人とみられる人々が「差別反対」「レイシスト」などのポスター、外国の国旗を上げて、激しく抗議しているようでした。

筆者同盟の憲法9条変えさせないよさんの第92回投稿で、日本でも外国人に対する意見が分かれていることが分かりました。関連しますが、環境が違うので少し違った視点からお伝えしたいと思います。

日本でも、少子化を止めることなく移民を増やす政策がとられています。特に中国からの移民が推進されていると聞きます。日本人への不平等な扱いとして、①不動産が特に中国の裕福層に買われる(固定資産税等で日本人が土地を維持管理できないので手放す。中国で日本人は土地を買えない)、⓶外国人への経済援助、生活保護・医療費・大学の無料化と奨学金・無利子の高額貸付等、③ヘイトスピーチ禁止法(ヘイトスピーチの定義があやふやで「日本人を大切に」と訴えることもヘイトスピーチとされるのではないか?という疑念)、④犯罪行為の不起訴と治安の悪化ーーなどがあるようです。

また日本の経済界(+利権関係の政治家)は、廉価な労働力を求めて移民を増やしたい→日本人労働者の賃金も低いまま押さえられる→より少子化は進む→また外国人労働者を増やす、という悪循環がつくられているようです。日本人と外国人両方の労働者ともに先進国では珍しい低賃金の不安定職で働らかされる状況の中にいる。これに多くの日本国民が不満をもち、日本人ファーストの政党が伸びるのは理解できます。

皆が豊かで安心して暮らせる社会が築かれないまま、大量の移民を受け入れ、日本人と外国人の人々が分断され、争いを起し、社会を乱す政治を意図的に行っているように見えます。

欧州で長い歴史のある国々では何年も前から、同様の問題が起こり、「国や国民を大切にする」政党が支持を伸ばしていることを以前書きました。

これは、方法が軍事的か非軍事的かは別にして、その国に先祖代々住む先住民の国民から、外国から移住してきた人々に土地が奪われるという点で、この連載で書いてきたパレスチナの人々の土地が1948年のイギリスの主導で始まったユダヤ人入植からイスラエルに奪われていく様子に重なって見えてしまいます。

イスラエルはイランからの激しい攻撃に耐えきれず停戦し、再び7月8日朝ガザ全域の住居や避難所を攻撃しました。同日イスラエル首相とトランプ大統領はパレスチナについての対談をホワイトハウスで行いました。

先週は、パレスチナのヨルダン川西側で、イスラエル入植者がパレスチナ人の村やモスクを放火する事件が起こり、侵略終了を目指し激しい攻撃を仕掛けているようです。

これに応報するように、豪州のメルボルンではシナゴーグ(ユダヤ教寺院)が放火されました。抗議活動には、スワスティカと呼ばれるかぎ十字のナチスのマークも目に入ります。これは、特定の民族に対する差別反対という訴えのように見えます。

オーストラリアでは、まだ国民ファーストだと感じます。多くがこれを「排外主義だ」というより「まず国民を守ることが優先」が当たり前だと捉えられています。

例えば、①外国人の不動産買収の規制、②外国人はより高い自己負担、③犯罪行為や高額医療費が必要な外国人へのビザ取り消しと強制送還等、まず国や国民を守るという姿勢が伺えます。やはり国民が声をあげ、選挙での争点ともなり、現在の労働党政権も聴かざるを得ない状況がつくられた結果だと思います。

虐殺に反対すると逮捕される?

そして、イギリスやドイツ等西側では、パレスチナ支持の人々の逮捕、ビザのキャンセル、解雇という事が起きています。なぜか、イスラエル政府を批判しパレスチナを擁護すると責められるのです

なぜイスラエルだけが特別なのでしょうか。

豪州では、イスラエル政府やシオニスト(イスラエル国家支持)への非難が、「差別か反ユダヤか」ということが長く論争となっていましたが、先日裁判で、これらはユダヤ人への差別ではないことが、はっきりと説明されました。(こちら参照

しかしイギリスでは、8月7日には、86歳のパーフィット牧師が「私はジェノサイドに反対します。パレスチナ行動を支持します」と書かれたプラカードを掲げていただけで警察に拘束され、他にも同様にポスターを持つ女性や高齢者20人以上が逮捕されたことが拡散されました。これらの人々も、テロリスト関係だと見なされているようです。

パーフィットさんの逮捕は、広範な怒りを引き起こしました。「権威主義の前進であり、言論・表現の自由の弾圧だ」「彼女は大量虐殺に反対しているし、それは犯罪ではない」「現代の英国では、ジェノサイドに反対したためにこのようなことが起こっている。これはかなりひどいことではないか」と釈放を要求する声が相次ぎます。(こちら参照

そして将来、日本でも「外国人優遇反対。国民を大切に」という声もヘイトスピーチ禁止法で、逮捕されるかもしれない…と思わせる出来事でした。

これらの出来事は何を意味するのでしょうか?

政治経済分析者のNortonさんの分析を基に考えてみたいと思います。私は彼の説明が腑に落ちました。

戦前の「帝国主義」への逆行≫

政治経済ジャーナリストのNortonさんは、西側諸国の権力者たちは、戦前回帰した帝国主義の世界を取り戻し、一握りの人々が世界の覇権を握り、世界をコントロールしようとしていると指摘します。

辞書で「帝国主義」とは、「ある国が他国を支配するシステム。影響力と権力を拡大する政策。時には武力を用いて支配権を握ること」とあります。1880年代からヨーロッパの国々がアジア・アフリカ・南米へ植民地と支配力を広げました。

日本も満州・朝鮮・台湾・東南アジアに「大東亜共栄圏構想」をもち支配力を広げようとしていました。憲法名も「大日本帝国憲法」でした。これについては、「日本の侵略だ」「日本がアジアを守った」等別れる意見があり、真相が定かでないので是非は別にしますが、世界覇権を目指す国々の支配者層にとっては、極東アジアの日本は脅威に感じたはずです。

現在を見ると、米国トランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は共通点があるでしょう。トランプ大統領は計画を明白に示し、グリーンランド、パナマ運河、そして可能性としてはカナダとメキシコまでも植民地化することで、アメリカの領土を物理的に拡大すると繰り返し言っています。

ネタニヤフ首相は、旧約聖書の「偉大なイスラエル構想」をもとに、隣国パレスチナ・レバノン・シリア・イランを繰り返し攻撃し、国際法など無視して国境を広げています。

以下、Nortonさんの分析を紹介します。

西側諸国における親パレスチナ連帯運動の段階的な違法化と弾圧は、ジェノサイドを繰り返すイスラエル政権の保護だけに止まらない。

西側諸国の寡頭制の政権(権力を握る少数の人々によって行われる政権)が行っているのは、帝国主義への反対を犯罪とすることだ。

彼らは帝国主義への抵抗を「テロリスト行為」と称して法律を改正し、同時に、テロリストであったアルカイダの指導者でありISISの同盟者でもあったシリア傀儡独裁者を持ち上げ支援してる。

なぜこのようなことが起きているのか?≫

帝国主義派は、中国の台頭に加え、西側諸国の脱工業化が進んだ新自由主義・資本主義経済の衰退と停滞、BRICS(ロシア・中国・イランと南半球主導のグループ)の台頭、脱米ドル化の広がり、そして過激化する反帝国主義(反虐殺)運動などによって、急速な衰退に直面していることを認識している。

そのため、西側諸国の支配階級は、以前までの表面的はリベラルな「民主主義」という装いと、「人権」に関する偽善的なレトリックを脱ぎ去り、19世紀を彷彿とさせる、より露骨な暴力的な植民地主義へと回帰する必要があると判断した。

トランプは症状であり、原因ではない。西側諸国にはそれぞれ独自のファシズム的なトランプ主義があり、大量殺戮を繰り返すヨーロッパ植民地主義の「古き良き時代」を取り戻すことを公約している。彼らはそれが、自分たちの退廃的な経済システムを復活させる唯一の方法だと考えているのだ。

その戦略は?

西側諸国の寡頭政治(少数者が権力を握りコントロールする政治)は、イスラエルとパレスチナの問題を利用して反帝国主義(反虐殺)を犯罪化しようとしている。西側諸国の帝国主義派による大量虐殺犯罪に反対すれば、「反ユダヤ主義者」や「テロリスト」と罵倒され、解雇され、検閲され、逮捕さえされるだろう。

目的は明白だ。イスラエルによる歴史的パレスチナ全土の植民地化の試みは、はるかに大規模な計画の一部だ。西側諸国の資本主義帝国主義者たちは、1950年代、60年代、70年代の革命を通じて世界を席巻した反植民地主義の民族解放闘争を覆そうとしている。これは、世界でまた植民地化を進めるということだろう。

彼らの狙いは、アメリカ主導の西側諸国の植民地覇権を、銃口を突きつけて世界に再び押し付けることだ。彼らがガザに対して行っていることは、まさに彼らがグローバル・サウス(新興国)全体にも行おうとしていることであり、その労働者(グローバル・マジョリティ)を低賃金で国際分業の底辺に永久に従属させ、閉じ込めておくためなのだ。

彼らは、国際的な分業が西側の1000億万長者(間もなく1兆万長者になる)の寡頭政治家によって決定されることを切望している。彼らはAIやその他の先進技術を独占的に支配し、地球上の他のすべての人々から利益を搾取することで、永続的に法外な特権を保証することができるのだ。

以上がNortonさんの指摘です。

Nortonさんの指摘に基づけば、日本を含む西側諸国の支配者層にとって都合の良いロジックで進められるので、「不公平だ。不条理だ」と感じる言動が平然と当たり前のように、次々に発せられる、と考えれば腑に落ちます。

なぜ西側諸国は同じような政策なのか?

西側諸国は足並みをそろえて、イスラエル擁護をし、ダメージを与える制裁をする国はありません。

オーウエルの小説「1984」では、「国は存在せず、自治区が存在する」とされています。自治区は、国の憲法・法律や政府に従いますが、許される範囲で独自の政府や法律を持つことができるというものです。日本では、日本政府と地方自自体のようなものです。

これが、世界的に西側諸国にもアメリカを軸とし同様な仕組みがある、それに従うリーダや政治家が選ばれる仕組みがある、とすれば、腑に落ちます。

そして先週の、Carlson さんとHortonさん(ジャーナリスト)の対談では、米国は国益ではなく、イスラエルの国益のための政治をしていると語られました。米国も大量移民で社会が混乱し、庶民の生活は悪化しています。トランプ大統領は、何度もイスラエルのための政治を表明しています。

私たちの政治は、必要な情報や高い信用性は無いものの、民主主義と呼ばれ、限られた選択肢であるにも関わらず、選挙という国民が選んだという形になっています。公約を破っても咎められず、英語圏では「民主主義とは、数年ごとに独裁者を選ぶ制度だ」という意見に賛同が集まっていました。

西側諸国と日本でも移民が増やされ、庶民の生活が苦しなる政策も共通します。

低中所得者層からより支持を得て「アメリカ・ファースト」を訴えた当選したトランプ大統領も、低所得者への健康保険や食糧援助を減らし、裕福層の税金を減らす法律を推し進めて、「有権者への裏切りだ」などと非難されています。トランプ政権はこの法律は「Big Beautiful Bill 大きく美しい法案」と呼び、庶民側からは「壊滅的法案」と呼ばれています。(こちら参照 )

なぜか選挙で語られない憲法改正

日本に目を向けると、憲法審議会で積極的に話される憲法への緊急事態条項の追加が心配されます。SNSで現憲法で保障される人権・表現の自由・財産まで奪われるのではないかとの意見にふれます。

緊急事態条項に、はっきりと反対を示しているのは、れいわ新選組と共産党で、自公維国は強くすすめ、支持が伸びている参政党は、新憲法を提案し、「日本は天皇が治める」「国は、主権を有し」とし、国民は主権を失い、戦前戦中に戻るのではないかと心配します。戦争中は日本中が戦争モードの声に包まれ「戦争反対」と言えば逮捕されていた時代でした。

6月には憲法改正骨子案が自公維国と無所属の会から提出され、選挙での沈黙後、「秋の臨時国会で改憲発議があるのではないか」という心配が目につきまました。

まりなちゃんのツイートが目に留まりました。

これを踏まえて、投票を考えた方がよいかもしれません。

戦争と帝国主義を負かせるか?

BRICS

前述したNortonさんが取り上げたBRICS (露・中・インド・イランなど大国と新興国の成長する経済グループ、世界人口の約50%、経済の約40%を占める)は6月6日からブラジルで首脳会談が開かれました。 

軍事では、米国とイスラエルによるイランへの爆撃を「国際法の明白な違反」、ガザへの大量虐殺と食料封鎖を厳しく非難し、パレスチナ国家への樹立を強い支持を示しました。そして、西側とは反対に、ウクライナによるロシア領土への攻撃を批判しました。

NATOがGDPの5%を軍事費に充てる決定も非難し、ブラジルのルラ大統領は「平和よりも戦争に投資する方が常に容易だ」「核の大惨事への恐怖が日常生活に戻ってきたのだ」と訴えました。

経済では、トランプ大統領は強硬姿勢で、BRICSが「米ドルを壊そうとしている」とし、BRICS諸国のいくつかに高額な関税を課し、米国政策に反対するならさらに10%高い関税を課すと警告しました。原爆投下後も忠実に、最も親しい国を米国としてきた日本や韓国に25%を宣言し(豪州は10%)、親善国と見なしていないと見えます。

一方で、ブラジルの外交官たちは、BRICS同盟を新たな公平で多極的な世界秩序をつくるチャンスだととらえているようです。

諜報対策では、ルラ大統領はBRICS海底インターネットケーブルの敷設案を提示しました。その目的は、加盟国間で米国の諜報機関による傍受なしにデータ交換を行うことだそうです。

アーティスト≫

6月末、BBCが生放送するイギリス最大の野外コンサート(グランストンベリー)では、パレスチナ旗をバックに、ミュージシャンのヴィランさんBob Vylanがステージで「私たちは一般的に憎しみに満ちた人間ではない。しかし、戦争を憎むし、不正も憎む。…パレスチナを解放するために、必ず一つずつ行動する」「パレスチナを解放せよ、解放せよFree Free Palestine」「イスラエル国防軍に死を、死を」(これはイスラエルの人々が「アラブに死を」と言う事に対抗しているのかもしれません)というイスラエル軍へのスローガンを叫んだことが豪州で報道されました。この様子はSNSを通して世界の何千万人の人々に広がりました。(こちら参照

彼はこの後、コンサートの予定や海外ビザのキャンセル、契約事務所からの契約破棄がされましたが、イギリスのチャート1位に入り、人々の賛同で活動を続けることができています。

他にもステージでパレスチナ援助を訴えるアーティストも現れています。

ふつうの人々の力≫

西側主要メディアは放送しませんが、世界で抗議活動が続いているように、豪州各地でもパレスチナ支援の抗議活動が続いています。先週末にはメルボルンで数千人が抗議に集まり、街にパレスチナの旗を掲げる運動も見られました。(こちら参照

豪州のたくさんのユダヤ人が新聞に名前を掲載し「オーストラリアのユダヤ人は、民族浄化に反対だ」「オーストラリアはトランプのパレスチナ人のガザからの強制移住に反対すべきだ」という広告を掲載しました。

イスラエル政府の行動で、社会で偏見をもたれるユダヤ人の人々も気の毒に思います。ユダヤ人も分断されていると感じます。

国民の力≫

西側の世界にどっぷり浸っていた私は、イランの人々に対して、新しい一面を見たことを前回、書きました。1953年に民主的に選ばれ支持されていたモサデク首相が、外国援助のクーデターで倒され、親西側で操り人形と言われるパーレビ国王が政権を握りました。この1953年からイランの闘いが始まりました。1979年国民が蜂起したイラン革命で、再び自主独立したイランらしい政府づくりが始まり、西側からの制裁・工作・嫌がらせに屈せず今に至ります。

イスラエルからの奇襲攻撃後の反撃は、鉄壁のドームIron dormと呼ばれるイスラエルの対空防空システムを最新鋭のミサイルで破り、甚大な軍事被害をイスラエルに与え、停戦を余儀なくさせました。紳士的な戦いでイランは超大国の威厳を世界に示したようにも見えました。

このような最近の世界の動きを見ると、この夏の日本の参議選は、日本の試金石となるかもしれません。

私は、まず日本人を大切にする①戦争阻止(憲法への緊急事態条項反対等)②人権保護(SNSなど表現の自由等)③生活援助(消費税廃止等)の3つの約束を必ず守る議員が増えれば、日本らしい国づくりの方向に変わるのではないか、と思い巡らせています。

しかし、当選が予想される候補者の中で、このような候補者は多くいるのでしょうか…。

最後にトランプ大統領が日本と韓国に25%の関税をかけることに対し、英語圏での見方を載せたいと思います。

jeediさんの「日本の政治家がなぜアメリカを崇拝し、常にアメリカの命令に従う用意があるのか不思議でならない。…(親善国なら)最強の同盟国である日本に制裁を課したと自慢するようなことはしないはずだ」というツイートです。

私も同感です。

今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。

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