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福祉・介護のある風景(18)リハビリテーション体験記~橘 世理

交通事故での怪我で入院し、退院後もリハビリテーションを受けてきた。3年経った今は、スポーツ整形外科でリハビリを行っている。

今回は、私自身のリハビリテーション体験を自己取材という形で記事にした。フレイル予防にも役立てて欲しいと願っている。

(註:フレイルとは、健康な状態と要介護の中間の状態をいう。加齢により心身の活力低下が起こり、虚弱な状態になる。)

1️⃣ わたし、よろけます

左膝の中にある左脛骨を骨折した。骨折は、要するに骨が折れたのだから、くっつけばある程度元に戻る、歩けると思っていた。それが叶わないとわかったのは、退院後、脚全体の固定装具が取れてひと月が過ぎようとする頃だった。

私の思っていた元に戻るというのは、骨折前に限りなく近い状態に戻ることだ。でもひと月経っても左膝は腫れたままだ。当初より腫れは引いたものの右膝と比べると果物の桃のようにぷっくら膨らんでいた。

さらに膝が真っ直ぐに伸びないというおまけ付きだった。真っ直ぐに伸びないというのは、わずかに平仮名の「く」の字のような膝になった。

医師や理学療法士の言う「生活ができる状態までの回復は望める」とは、こういう事なのかとようやく解った。ここに「しゃがめない」「歩行中によろける」「振り向きざまによろける」といった状態は含まれていなかった。

筋トレを行い改善はしたものの、よろける、躓く、といった状態は続いたので、歩いているときも憂鬱になった。

スクワット機器で太ももとヒップの筋トレ(自宅)


2️⃣ 真っ直ぐ歩きたい

2年経っても膝の腫れは引かず、退院から3年7カ月経った今は、腫れたまま一生を過ごすのだろうと思えてきた。大学病院の医師も個人病院の医師も、少し水が溜まっていると言ったが、痛くなければこのままでよい。

それよりもよろける、躓く、左脚を庇うために体の右側の背筋と腰の筋肉が張る。これらを改善したかった。真っ直ぐに歩けるようになれば、全部とはいかないまでもかなり改善するのではないかと考えた。

そこで早速、リハビリテーションに力を入れている整形外科探しを開始した。人伝てという探し方もあるが、今回は「真っ直ぐに歩きたい」を目標にしているので、それが叶うにはどうすればよいのかを考えた。

探しているうちに辿り着いたのはスポーツ整形外科だった。これは主にスポーツで怪我をした人、不調を抱える人を専門に治療するのだが、探し当てたのは、一般の整形外科+スポーツ整形外科として機能している病院だった。

病院のサイトを見ると広いリハビリテーションルームに理学療法士がマッサージやトレーニングを指示する寝台がいくつかあり、エアロバイク、サンドバックなど筋力トレーニングに使用する機器もある。

ジムのようなリハビリルームの画像を見て場違いかもしれないと思ったが、「ここは良い病院だと思う」と言う夫の助言もあり、早速、受診することにした。

ボールを膝裏に当て壁を押す筋トレ(自宅)


3️⃣ 膝の内側、太ももの筋肉を意識する

リハビリは、入院中から退院後も大学病院で受けていた。そのときは、生活できる事が目標のリハビリだったが、今は、さらに踏み込んで歩行に必要な筋力トレーニングとなっている。

病院のリハビリルームへ入ると理学療法士が私の歩行を見る。部屋の出入口までゆっくり歩き、戻ってくる。その後に脚のマッサージに入る。ぐいぐい押すことはなく、筋肉の仕組みに沿い摩る。まさに「手当」だ。

いつも行うのは臀部のトレーニングだ。台に仰向けに寝て、膝を立て、背中、尻を持ち上げる。10回を3セットやるが、3回目には背中に軽い疲労を感じる。この軽い疲労感で止めておくのが良いらしい。これは、フレイル予防にも向いている。

怪我をした膝周囲のトレーニングでは、寝たまま行うものがある。理学療法士が膝の裏に手を入れる。それをぐいっと潰すように膝に力を入れる。右ができるのに怪我をした左膝に力が入りにくいのは、膝周囲の筋肉が落ちている証拠だ。

退院して3年と7カ月、これまで自分でも筋力トレーニングはやってきたつもりだったが、どこの筋肉をどう鍛えればよいのか、わかっていなかった事に気がついた。教えられた方法をやっていただけに過ぎない。

通院し始めの頃は、真っ直ぐにしっかり歩けるようになりたいと考えていた。ところがリハビリテーションは、自分の歩行がどれほどできないかを知るためのものでもあると理解するようになった。そうなるとどうすれば真っ直ぐにしっかり歩けるようになるのか、それを意識するようになる。

腹筋で体幹を鍛える(自宅)


4️⃣ 筋肉への刺激を脳へ刻む作業

私の左膝から下は筋肉が拘縮している。とくに足首から下の動きが悪い上に常に浮腫んでいる。2カ月も装具で脚全体を固定し、歩かなかった影響だ。動きの悪い筋肉へ刺激を与え、活動させるのでなかなか言うことを聞いてくれないのは、致し方ない。

そうは言っても真っ直ぐに歩きたい願望を叶えよう思い、トレーニング中に「意識してください」という理学療法士の言葉には奮起する。

「この筋肉に力を入れてください」理学療法士が指先で力を入れなければならない筋肉に触れると、意識はさらにそこへ集まる。そして「そこに力を入れて歩くのだ」と自分で脳へ刻み込む。

言われた事をやるだけではなく、その指示がどこにどのように効くのかを考えると、より一層、筋トレをやる意味が見えてくる。

日頃、筋肉を使っているつもりでも上手く使えていない。そのことが解ると、電子レンジで冷えた飯を温めている待ち時間に片足立ちを40秒やる。この積み重ねが衰えを防止する。

私が病院で受けている筋力トレーニングは緩やかで、10回を3セットほど。これ以上はやらない。毎日、ひとつでもふたつでもよいので、教えてもらった筋トレを行っている。

最近は、靴のつま先が地面のわずかなくぼみや出っ張りに引っかかる回数が減った。これだけでも脚の筋トレをやってきた成果だ。爪先を上げるように意識もしている。

歩くときは、ただ歩くだけではない。どこの筋肉に力を入れて歩くのかを意識する。歩くということを意識する。

そのような事をしていると疲れると思われるかもしれないが、躓きが減る、歩いていて脚が痛くならない、といった心地良さを得られるとそれが脳に刻まれ、歩くときに意識をすることが自然にできるようになる。

リハビリテーションは筋肉へのアプローチだが、同時に脳へのアプローチでもある。

写真:橘 世理

橘 世理(たちばなせり)

神奈川県生まれ。東京農業大学短期大学部醸造科卒。職業ライター。日本動物児童文学賞優秀賞受賞。児童書、児童向け学習書の執筆。女性誌、在日外国人向けの生活雑誌の取材記事、記事広告の執筆。福祉の分野では介護士として高齢者施設に勤務。高齢者向け公共施設にて施設管理、生活相談を行なう。父親の看護・介護は38年間に及んだ。