SAMEJIMA TIMES の筆者同盟に新しい仲間が加わりました。山形市の老舗・山二醤油醸造で食文化の継承に取り組む新関さとみさんです。連載「ステキな山形の田舎ごはん」をお楽しみください。
山形から旬の話題をお伝えします。
私は創業まもなく100年を迎える味噌醤油の醸造元「山二醤油醸造㈱」の3代目に嫁ぎ、義母より昔ながらの食の素晴らしさを学びました。古き良き山形の食文化を継承したいとの想いで、2003年(平成15年)に「さとみの漬物講座企業組合」を義母、伯母、実母と設立し、漬け物作り講座、味噌づくり講座、田舎ごはん講座を開催しています。
私の住む山形市は「東北=雪深いイメージ」で夏は涼しいだろうと思われがちです。しかし、盆地に位置していますので、夏の蒸し暑さはかなりつらいものがあります。
1933年(昭和8年)の夏に40.8度を記録し、2007年(平成19年)に埼玉県熊谷市、岐阜県多治見市で40.9度が記録されるまで、なんと74年間も日本一の暑い県だったのです。記録が破られたときは、県民一同がっかりしたものでした。その後も最高気温の記録は更新中ですが…。
そんな山形に伝わるおもしろい夏の伝統料理をご紹介します。
一つ目は「水ごはん」。お茶漬けは熱いお茶をかけますが、そのままズバリ、水をかけるごはんです。
昔は、炊飯器や冷蔵庫がなかったため、炊いたご飯が夏の高温で悪くなってしまうことがありました。そのご飯を捨てるのはもったいないとのことで、やや劣化して出たぬめりをよく洗って食べたことからきていると思われます。
幼い頃、夏の昼の食卓に、水とさらさらに洗ったご飯が入った大きめの鍋や器がドンと食卓に置いてありました。お玉で自分の茶椀にすくいあげ、漬け物や塩引きサケなどしょっぱいものをおかずに水ごと口にかきこんで食べました。食欲のない日でも、さっぱりとして、暑さがふっとんだものでした。食事を作る母にとっても簡単な料理で、なお結構。
嫁いでから同じ様にして箸で食べようとしたら、私よりも6歳年上の夫から「邪道だ!水ごはんは手で食べるものだ」と言われ、びっくりしました。水場にご飯を入れたザルを持っていき、流れ水で洗いながら手ですくうようにして食べるのが常識だと言うのです。その一昔前には、家の近くの湧き水に行って食べていたと義母から聞き、さらにびっくり。
おかずは、夏の暑さですぐに傷んでしまわない様にと多めの塩で漬けたにも関わらず、それでも発酵して酸味がきて変色したきゅうりやなすのお漬物。1本のまま手に持ち、水ごはんをかきこんでは、しょっぱい漬物をかじり、そのしょっぱさにまた水ごはんをかきこむ繰り返し。水もかなり飲めるので、塩分水分補給も出来、あっという間にお腹がいっぱいになります。手も口も水に浸かり、お腹も水いっぱいで体全体も冷やせます。
先日、この話になり、各自がいろんな思い出話に花が咲かせていた時に、ある方が「そういえば最近食べていないな~」とつぶやいていました。おいしさは認知されながらも、ここ最近食べる人がめっぽう少なくなった夏の料理です。
そして、もう一つ。冷や汁。
各地に同名の別料理もあるようですが、こちらの冷や汁は、超スピード料理。昼休み、家に上がる前に畑のきゅうりを1本もぎ取ってきます。薄切りにし、塩もみします。お椀に味噌をひとさじ入れ、水で溶きます。もちろん、だし汁を使うとなお、おいしいのでしょうが、ダイレクトに水。味見をしながら、味噌の量を調整。ここに塩もみしたきゅうりをはなして出来上がり。氷でも浮かべれば、昔は最高の贅沢。
同じ山形でも日本海側出身の友人は、きゅうりの代わりに角切りにしたトマトを入れて食べたそうです。昔のトマトは酸味が強くて、香りも強かったので、なお清涼感が楽しめたことでしょう。
どちらも食事を作ってもらうのを待たずに、各自がそれぞれ済ます。まったく合理的です。しかしながら、水ごはんと冷や汁は同時に並ぶことはありませんのでご承知おきを。その日の気分でどちらかを食べるものです。
まだまだ暑さが続きそうです。最近食べなくなった人、初めて聞いた人も「水ごはん」と「冷や汁」で暑さを吹っ飛ばしましょう!
新関さとみ(ニイゼキ・サトミ)
横浜市生まれ。幼少時、父のUターンと共に山形県天童市に移転。大学・OL時代を東京で過ごし、20代後半にUターン。1995年(平成7年)に山二醤油醸造㈱の三代目に嫁ぐ。2003年(平成15年)に「さとみの漬物講座企業組合」を設立。山形の古き良き食文化を伝承するため、味噌作り講座、漬け物講座、田舎ごはん講座を開催中。趣味は旅行・映画鑑賞。