※この連載はSAMEJIMA TIMESの筆者同盟に参加するハンドルネーム「憲法9条変えさせないよ」さんが執筆しています。
<目次>
0.伊藤昌亮教授による「山上徹也容疑者の全ツイートの内容分析」
1.中野晃一教授による「2022年参議院選挙反省会」
2.「2022年参院選の計量政治学」的なことができないか
3.各政党は「統一教会問題」に全力でぶつかっていくべき
4.「消費税増税問題」で財務省から大きな飴玉を手に入れる
5.「消費税増税反対運動」が成功するシナリオはあるのか?
0.伊藤昌亮教授による「山上徹也容疑者の全ツイートの内容分析」
今日はまず、成蹊大学教授の伊藤昌亮さんが書かれた「山上徹也容疑者の全ツイートの内容分析から見えた、その孤独な政治的世界」という記事の紹介から。
伊藤昌亮教授は山上徹也容疑者のことを「ネトウヨにならざるをえなかったネトウヨ」であり、かつ「ネトウヨになりきれなかったネトウヨ」であると分析しているのですが、山上徹也容疑者の「ロスジェネ」としての側面について、次のように記述しています。
ここに見られるのは、世代間対立を踏まえた強い不公平感から、「大きな政府」を否定し、より自由主義的な福祉レジームを望ましいとする考え方だろう。さらに彼は、「新自由主義の権化」などとされる竹中平蔵が主張する「小さな政府」志向のベーシックインカム論を取り上げ、賛意を表明している。
いわゆるロスジェネとして、新自由主義的な政策の煽りを食ってきた世代の一員であり、実際に非正規職を転々としてきた彼のような者であれば、通常はそうした政策を批判し、「大きな政府」を望むのではないかと思われるが、彼はむしろ逆の方向を向いている。
そこに見られるのは、新自由主義的な風潮を批判するどころか、むしろ強く内面化し、自らの生き方そのものにしてしまっているその姿だろう。そこには公的なものへの信頼がまったくなく、そのため「共同体に加入する」ことがバカバカしく思えてしまう。すべてを自分一人で引き受け、自己責任で処理していくことが唯一の規範だと考え、それを自らに課している。
そうした価値観のゆえに、彼は自らの状況を誰かと共有することもなく、あらゆる連帯を拒みながら、自分一人ですべてを引き受けてさまよい続けるなかで、ますます孤立を深めていったのではないだろうか。
彼は自らに言い聞かせるようにして言う。「だから言っただろう、最後はいつも一人だと。頼りになるのは自分しかいないと。プライドしかないのだと。人間など屁の役にも立たんと。
1.中野晃一教授による「2022年参議院選挙反省会」
それでは、上智大学教授の中野晃一さんがyoutubeに公開された3回シリーズの動画「2022年参議院選挙反省会」を見てみましょう。
7月の参議院選挙の結果について、中野晃一教授によるまとめの言を借りると、立憲民主党は比例区では議席を減らさなかったが選挙区で大きく議席を減らし、共産党は選挙区では議席を維持したが比例区で議席を減らしてしまった、というのが立憲野党の選挙結果であったと総括することができます。
そのことによって改憲の危機が深まったのかどうかということについてですが、中野晃一教授の見方としては、参議院選挙によって「改憲派と護憲派の議席数に大きな変動があった」とか「憲法改正に向けた世論が盛り上がった」といったような現象は見られず、「改憲の危機は去ったわけではないが、改憲の危機が深まったとは思われない」という方向で結論づけられています。
参議院選挙における立憲野党の議席減は、立憲民主党の選挙区での議席減と、共産党の比例区での議席減によるものですが、立憲民主党の選挙区での議席減は1人区において「野党共闘」の態勢を整えるのに失敗したのが原因で、このことは非常にはっきりしています。
問題は、比例区における共産党の議席減です。立憲民主党も、比例区での議席数は減っていないものの、比例区での得票数は減少しています。
比例区に関して言えば、一人の強烈なカリスマの力で党全体を引っ張る小規模政党やシングルイシューで勝負する政党(れいわ、参政党、社民党、NHK党)が注目を集めて比例で票を伸ばしたのに対し、中規模以上の既存政党(自民党、立憲民主党、公明党、共産党)は埋没して軒並み票を減らしてしまっています。
自民党も公明党も決して盤石とは言えない中で、立憲野党が政権与党への批判票の受け皿になることができず、政権与党への批判票が維新に流れて維新の議席増に結び付いてしまったことは、非常に残念なことであったと言わざるを得ません。
2.「2022年参院選の計量政治学」的なことができないか
さて、以前、「立憲民主党への期待と不安」について論じた際に皆様にご紹介したアメリカ・ダートマス大学政治学部教授の堀内勇作さんが書かれた記事を再掲したいと思います。
この記事では、「コンジョイント分析」という手法を用いて、「自由民主党・日本維新の会・立憲民主党・国民民主党・日本共産党・公明党の6党の政策に関して、党名を明らかにせずに政策の中身だけで有権者に人気投票をしてもらったら、どのような結果になるのか?」ということと「各党の政策について、政党名を表示せずに掲げた場合と自民党の政策として表示して掲げた場合で人気度がどのくらい変動するのか?」ということが調査されています。
各党の政策の人気度そのものも、「自民党の政策」として表示するか否かで変わる各党の政策の人気度の変動(それはつまり、「自民党」という政党名のブランド力ということになりますが)も、データとして非常に興味深いものでした。
ちなみに、どの政党の政策も「自民党の政策」として表示すると政党名を表示しない場合よりも人気度が上昇しており、「自民党」という政党名のブランド力がデータとして明らかになっています。
これは、企業が行うマーケティングの世界などでも、メーカー名を明示するか否かで食品や飲料の消費者テストの際に「おいしい」と答える人の割合が変わるという現象が見られますので、政治の世界でもこのような現象が起きることは、決して不思議なことではありません。
そこで私が思うことは、2022年の参院選の状況をふまえて、「2022年参院選の計量政治学」的な社会調査を行うことができないだろうか、ということです。
自由民主党・立憲民主党・公明党・日本維新の会・国民民主党・日本共産党・れいわ新選組・社会民主党・NHK党・参政党の10党の参院選での政策を抽出したうえで、まずは党名を明らかにせずに政策の中身だけで人気投票を行います。
それとは別に、各党の政策について、政党名を表示せずに掲げた場合、「自民党の政策」と表示して掲げた場合、「立憲民主の政策」と表示して掲げた場合、「公明党の政策」と表示して掲げた場合、「維新の政策」と表示して掲げた場合、「国民民主の政策」と表示して掲げた場合、「共産党の政策」と表示して掲げた場合、「れいわの政策」と表示して掲げた場合、「社民党の政策」と表示して掲げた場合、「NHK党の政策」と表示して掲げた場合、「参政党の政策」と表示して掲げた場合の11通りで人気投票にかけ、各党の政党名のブランド力を順番に計測していきます。
もしこのような調査が行えるならば、各党の政策そのものの人気度と各党の政党名のブランド力を客観的に計量化できると思うのですが、いかがでしょうか?
このような規模の社会調査を行うのに、どのくらいの人員とどのくらいの資金が必要なのか、私には全く想像がつきませんが、もし単独の機関でそれを行うことが難しそうなら、いくつかの大学の研究室が研究のための人員と研究のための資金を持ち寄るなどして共同で研究を行うといったことはできないだろうか、と想像してみたりします。
参院選が終わって、政治学者の方々に私が望みたいことは、これです。
3.各政党は「統一教会問題」に全力でぶつかっていくべき
8月18日(木曜日)に、立憲民主党・国民民主党・日本共産党・れいわ新選組・社会民主党・衆議院院内会派「有志の会」が憲法53条に基づく臨時国会召集の要求書を提出しました。
岸田改造内閣の新閣僚ら自民党議員に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が相次いで判明している問題や、安倍晋三元首相の国葬の問題、新型コロナウイルス対応や物価高の問題などを巡り、質疑が必要だとして、臨時国会の召集を要求しています。
今の日本の政治における一番の問題は、やはり「統一教会問題」でしょう。
自民党と統一教会との関係がどこまで抜き差しならないものになっているのか、まずは実態を明らかにしていく必要があります。
とはいえ、すぐには臨時国会が開かれることにならないでしょうから、現時点ではジャーナリズムとアカデミズムの力で全体像の解明に向けた情報の蓄積を地道に進めていくしかないものと思います。
ここで、三春充希さんが書かれている「旧統一教会の組織票分布の推定」という論文を紹介しておきましょう。
自民党の井上義行参議院議員の選挙での得票を、三春充希さんは次のように分析しています。
票が減少した地域を除外して集計を行うと、井上氏の票の増加分は81,973票となります。
旧統一協会の信者数は、鈴木エイト氏が「日本で10万人」としています。10万人というのが子供を含んだ数字であるならば、日本の有権者数が人口の0.83倍であることから比例的に考えて、旧統一協会の有権者は83,000人程度。これは81,973票とおおむね整合するといえるでしょう。
自民党がいくら臨時国会の召集を先延ばししようとしたとしても、あるいは、憲法違反を承知で臨時国会の召集を行わないことがあったとしても、来年度予算の審議のため、通常国会は必ず開催されます。
国会が開かれた時に、どこまで「統一教会問題」に斬り込めるかが極めて重要です。
国会で「統一教会問題」を追及する際に重要になるであろう論点を列挙してみます。
○「統一教会」が「世界平和統一家庭連合」に名称変更した際の経緯は?
○「統一教会」は公安調査庁による監視の対象とはならないのか?
○「統一教会」に解散命令を出すことはできないのか?
○ 今後の被害防止のために「反カルト法」を制定すべきではないか?
もし臨時国会が召集されるなら臨時国会で、臨時国会が召集されない場合には通常国会で、野党はこれらの論点を厳しく追及していく必要があります。
4.「消費税増税問題」で財務省から大きな飴玉を手に入れる
SAMEJIMA TIMESのyoutube動画で、鮫島さんが「消費税増税問題」について指摘されています。
自由民主党・公明党・立憲民主党・国民民主党・日本維新の会の5党が手を結び、財務省が主導する形で消費税増税のための「大政翼賛会」的な政策合意が行われる可能性があるとの鮫島さんの指摘です。
鮫島さんは「消費税増税反対の国民的な世論を盛り上げていくべきだ」ということを提唱して、山本太郎れいわ新選組代表が果たす役割に大いに期待を寄せられているようです。
確かにそうした世論を盛り上げていくことは重要ですが、とはいえ、国会内での勢力差を考慮すれば、財務省が主導する消費税増税の動きを食い止めるのは現実的には非常に難しいのではないかと私は考えています。
そこで、私が提案したいのは、生活に汲々とする庶民が糊口を凌ぐことができるような「飴玉」をもらうこと、できれば「大きな飴玉」を財務省からもらうことを狙う「条件闘争」を進めていくことです。
消費税増税に対する条件闘争として狙いたい「大きな飴玉」を列挙してみます。
○現金10万円一律給付の「特別定額給付金」再実施
○軽減税率を「税率4%」に引き下げ、対象品目を拡大
○ガソリン税を2年間限定で「税率0%」化
○2023年10月開始予定の「インボイス制度」を5年間延期
まず、「特別定額給付金再実施」ですが、これは「安倍総理時代のレガシー」として訴えることで、実現の可能性が大いに高まるのではないかと考えています。たとえ単発の施策であったとしても、1人10万円の現金を再びもらえることは、庶民にとってはとてもありがたいです。
次に、「軽減税率の税率引き下げと対象品目の拡大」ですが、これは公明党の顔を立てる形で提案を進めていくことが可能です。今の軽減税率は「税率が10%に上がる際に8%のまま据え置いた」というだけで、税率が引き下げられたわけではありません。本税の税率が上がる際の逆進性を少しでも緩和するために、本税の税率引き上げのバーターとして、軽減税率の引き下げを主張するべきではないかと考えます。また、対象品目も拡大できないか検討を行い、外食、酒類、紙おむつ、生理用品、電気代、ガス代、水道代など、庶民の暮らしに大きく影響すると思われる品目を新たに追加できないか、国会で議論を行うべきであると思います。外食や酒類に軽減税率を適用することは、コロナ禍で打撃を受けた外食産業や居酒屋チェーンなどの事業を下支えする意味でも検討する価値があると思います。
そして、「ガソリン税の2年間限定でのゼロ税率化」ですが、これは国民民主党の顔を立てる形で提案を進めていくことが可能です。車が主な移動手段になっている地方在住者にとってはガソリン価格の引き下げは切実ですし、物流コストの増大による物価の全般的な上昇への対策としても、ガソリン税のゼロ税率化は非常に有効なのではないかと思います。
最後に、「インボイス導入の5年延期」ですが、これは小規模事業者やフリーランスの方々にとっては切実な問題です。「コロナ禍による不況やウクライナ戦争による物価高で今は時期が悪いので、インボイス導入を5年延期しよう」という話であれば、財務官僚の面子を潰すようなことにはならないので、比較的受け入れられやすい要望になるのではないかと考えます。
財務官僚の方々が消費税の税率引き上げをどの程度の幅で考えているのか伺い知れませんが、何となく想像する限りでは、「2回か3回に分けて最終的に税率を18%~20%程度まで引き上げる」ことを今回の「消費税増税」の議論で一気に決めてしまおうと考えているのではないかと思います。
鮫島さんの指摘によれば、財務官僚は「恒久的な消費増税」と「一時的な大盤振る舞い」を同時に行うという考えのようです。
私の考えとしては、この「一時的な大盤振る舞い」が「大企業の懐」に入らずに「庶民の財布」に回ってくるように、何とか知恵を絞って論戦を進めていくべきではないかというふうに思っています。
5.「消費税増税反対運動」が成功するシナリオはあるのか?
「消費税増税問題」に関して、今後の成り行きによって生じる結末は、およそ次の3つの方向性となり、それぞれの結末に至る確率は、それぞれこの程度なのではないかと想像しています。
結末1:「恒久的な消費増税」による消費税率19%と「一時的な大盤振る舞い」による大企業向けの景気対策と公共事業の実施が決まり、庶民には負担だけが押し付けられる・・・確率70%
結末2:「恒久的な消費増税」による消費税率19%と「一時的な大判振る舞い」による庶民の負担軽減策(現金10万円一律給付、軽減税率の4%への引き下げと対象品目の拡大(これのみ恒久措置)、ガソリン税の期間限定ゼロ税率化、インボイスの導入延期)が決まる・・・確率25%
結末3:「消費税増税反対運動」の盛り上がりにより、岸田政権が消費税増税を断念する・・・確率5%
なお、ここで数値として挙げている「確率」は、特に根拠はなく、私の主観的な判断による腰だめの数字です。
また、「結末1」と「結末2」は、全く相反するというよりは、実際には「大企業向けの景気対策」と「庶民の負担軽減策」が一部ずつ採り入れられ、あるいは、例によって「ポイント還元」や「商品券」といった愚にもつかない策が登場するなどして、訳の分からない状況になって、とにかく「消費税率19%」と某かの「バラマキ」が決まる、というような形で何らかの「折衷案」的な結論に辿り着くことになるのではないかと想像しています。
しかし、そのように言うだけではSAMEJIMA TIMESの主筆も読者の皆様も納得されないでしょうから、「消費税増税反対運動の盛り上がりにより、岸田政権が消費税増税を断念する」(結末3)という結末を迎える可能性があるシナリオを検討してみたいと思います。
シナリオA:「消費税増税は統一教会の陰謀だった」という話になる
シナリオB:「維新」と「れいわ」が「消費税増税反対」で手を結ぶ
まず、シナリオAの「消費税増税は統一教会の陰謀だったという話になる」ですが、これは、岸田政権が消費税増税の方針を明確に打ち出した後に、過去の映像または著作の文言の内容として、統一教会開祖の文鮮明氏か世界平和統一家庭連合総裁の韓鶴子氏が「エバ国家日本は消費税率を19%にまで引き上げ、負担を甘受すべし」と語っていた、というようなことが明らかになって、「消費税増税は統一教会の陰謀だったのか!?」という話がテレビのワイドショーで広がり、日本国民が一斉に怒りだす、というシナリオです。
このようなシナリオは、現時点では私の妄想に過ぎず、実際に現実のものとして起きる可能性は限りなくゼロに近いと言うほかはないでしょう。
次に、シナリオBの「維新とれいわが消費税増税反対で手を結ぶ」ですが、これは、維新の代表選で例えば梅村みずほさんが新代表に選ばれて、維新が「消費税増税反対」を主張し、これにれいわ新選組の大石晃子政調会長が同調し、社民党の福島瑞穂党首も賛同し、共産党の田村智子政策委員長も「いいね」と投稿して、「消費税増税反対」の輪が国民の間で広がっていく、というシナリオです。
鮫島さんの動画では、「自由民主党・公明党・立憲民主党・国民民主党・日本維新の会の5党」が手を結んで消費税増税を進めていくという話になっていますが、2012年の「社会保障と税の一体改革に関する合意」(三党合意)の枠組みには、維新は入っていません。
もし、自民党と立憲民主党が早い段階で消費税増税に合意した場合、維新は「立憲民主党から野党第一党の座を奪うために、立憲民主党と逆張りの立場を取る」という可能性が十分考えられます。「小さな政府」を志向する維新の考え方と「消費税増税反対」の主張には親和性があるため、維新が全国政党へ脱皮するための起爆剤として「消費税増税反対」のキャンペーンに打って出たとしても、全くおかしくありません。
これに、例えば自民党の菅義偉前首相が「麻生と岸田の好きにはさせない」とばかりに裏で維新を応援し、さらに立憲民主党で今後、西村智奈美さんが幹事長の職を解かれた場合に、立憲民主党を離党して「消費税増税反対」の運動を展開するといった感じで話が大きくなってくれば、立憲民主党の中の「隠れ維新派」や「隠れれいわ派」の議員もそわそわしだすでしょうし、先の参院選で議席を減らした公明党の議員も、正面切って「消費税増税賛成」を言い辛くなってくるのではないでしょうか。
決して可能性が高いとは言えませんが、これはひょっとすると、「野党再編」含みで面白い政局が見られることがあるかもしれません。
憲法9条変えさせないよ
プロ野球好きのただのオジサンが、冗談で「巨人ファーストの会」の話を「SAMEJIMA TIMES」にコメント投稿したことがきっかけで、ひょんなことから「筆者同盟」に加わることに。「憲法9条を次世代に」という一民間人の視点で、立憲野党とそれを支持するなかまたちに、叱咤激励と斬新な提案を届けます。