※この連載はSAMEJIMA TIMESの筆者同盟に参加するハンドルネーム「憲法9条変えさせないよ」さんが執筆しています。
<目次>
1.「選択的夫婦別姓」を導入した3310年の日本は「人口22人で全員名字は佐藤さん」
2.そもそも「異次元の少子化対策」って何?
3.「少子化対策」による恩恵を受けられる人・受けられない人
4.「少子化対策」で国民の分断を生まないためには?
5.トピックス:衆議院補欠選挙
1.「選択的夫婦別姓」を導入した3310年の日本は「人口22人で全員名字は佐藤さん」
毎日新聞の2024年4月1日の記事で、現行の夫婦同姓制度が続くと2531年には「全員が佐藤さん」になるという東北大学の試算が話題になっていました。
東北大学高齢経済社会研究センターの吉田浩教授によるシミュレーションで、次のような結果が出ています。
夫婦同姓制度を維持 | 選択的夫婦別姓を導入 | |
2446年 | 日本の人口の半分以上が「佐藤」姓 | |
2531年 | 日本人全員が「佐藤」姓 | 「佐藤」姓は日本の人口の7.96% |
3310年 | 日本人全員が「佐藤」姓(人口22人) |
2023年時点で「佐藤」姓は日本人の人口の1.529%を占めて全国第1位で、「佐藤」姓が日本の人口に占める割合は2022年~2023年の1年間に1.0083倍の伸び率を示したとのことで、このデータを基に吉田教授がシミュレーションを行った結果、「選択(的夫婦別姓)制が導入された場合、少子化による日本人滅亡まで名字の多様性はほぼ保たれる」との結論に達したとのことです。
しかし、「佐藤姓が日本の人口に占める割合の伸び率が、1年間に1.0083倍」として、この数字が毎年変わらないという仮定自体が妥当かという問題があり、「ランダムにいろいろな名字が増えたり減ったりする」という仮定の下にシミュレーションを行った方が別におられて、その投稿がこちらです。
としゅきーさんのシミュレーションは、「合計特殊出生率が2.0」という仮定の下、あくまでも夫婦同姓制度の結婚によって名字の割合がどう変わっていくのかだけを追っていったもので、そのシミュレーションによれば、「約61億年後、日本人は全員佐藤さんになる」のだそうです。
仮定の置き方次第でシミュレーションの結論は変わるわけですが、私が東北大学の吉田教授のシミュレーションに興味を持ったのは、「選択的夫婦別姓制度を導入しなければ、西暦2531年に日本人全員が佐藤さんになる」という点ではなく、「今の日本の人口減少の傾向が変わらなければ、西暦3310年には日本人の数は22人まで減り、日本人は(ほぼ)滅亡する」という点です。
2022年5月7日には、イーロン・マスクさんが次のようなツイートをしています。
At risk of stating the obvious, unless something changes to cause the birth rate to exceed the death rate, Japan will eventually cease to exist. This would be a great loss for the world.
要は、「出生率が死亡率を超えるようになる何らかの変化がもたらされない限り、最終的に日本は消滅してしまう」ということを言っているわけです。
2022年の日本の合計特殊出生率は1.26、2022年の中国の合計特殊出生率は1.09、2023年の韓国の合計特殊出生率は0.72であり、2022年時点で韓国の人口が5,162万人、日本の人口が1億2,494万人、中国の人口が14億2,589万人であることから、この低い出生率が今後も続けば、まず韓国人が滅び、次に日本人が滅び、最後に中国人が滅ぶという計算上の帰結になります。
2.そもそも「異次元の少子化対策」って何?
「2030年代に入るまでのこれから6~7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス。」であるとして、政府は「異次元の少子化対策」を打ち出しています。
その方向性は、次のように謳われています。
3つの基本理念
基本理念1.若い世代の所得を増やす
◎「賃上げ」
◎「106万円の壁」「130万円の壁」の見直し
◎子育て世代に対する経済的支援の強化
基本理念2.社会全体の構造・意識を変える
◎こどもファースト社会の実現
◎職場を変える
◎育児休業をあらゆる働き方に対応した自由度の高い制度へ
基本理念3.全ての子育て世代を切れ目なく支援する
◎親が働いていても、家にいても全ての子育て家庭を支援
○幼児教育・保育サービスの強化
○妊娠・出産・0~2歳支援を強化した伴走型支援
○貧困、障害・医療ケアが必要な家庭、ひとり親家庭などに一層の支援
実際の施策の目玉としては、児童手当の所得制限の撤廃、高校生までの支給、多子世帯への給付額アップといった内容が挙げられています。
3.「少子化対策」による恩恵を受けられる人・受けられない人
れいわ新選組代表の山本太郎さんは、2024年2月23日に千葉県千葉市で行われた「おしゃべり会」で、政府の少子化対策を次のように批判しています。
今は「(お子さんが)お一人いらっしゃいますよね?もう一人いかがですか?」みたいな形でのアシスト方法を国がやってるんだけど、それで根本的解決できんのかな?
いま政府がやろうとしている少子化対策の恩恵を受けられるのは、いま子育てをしている人と、これから子どもを産む人に限られます。
ざっくり言えば、20代や30代の若い人たちにとっては一定のメリットがある内容と言えますが、すでに40代や50代になってしまった人たちにとっては「何を今さら」という話になってしまいます。
いや、仮に未婚のまま50代になっていたとしても、男性陣のほうは、まだしばらく「俺もいつか結婚して子どもを作るぞ!」と夢を見続けることができます。
昨年のNHK大河ドラマ「どうする家康」で明智光秀役を演じた俳優の酒向芳さんは現在65歳ですが、50代の時に23歳年下の女性と結婚し、現在小学生のお子さんがいらっしゃるそうです。
男性陣には「いつか俺も酒向芳みたいになるぞ!」という希望がまだあるわけですね。
しかし、未婚のまま50代になってしまった女性陣のほうは、そうはいきません。
もちろん、「これから良い出会いに恵まれて幸せな家庭を築く」という夢は持ち続けることができます。
芸能人で言えば、阿川佐和子さんが2017年5月に63歳で結婚されました。
ですが、「結婚して自分の子どもを産む」ということに関して言えば、50代以上の女性に関しては、年齢的な問題で、これはもう事実上あきらめざるを得ない状況にあります。
つまり、年齢や性別によって、少子化対策の恩恵を受けることができる人、あるいは少なくとも恩恵を受ける可能性がある人と、どう考えても恩恵を受けられるとは思えない人との間に、分断が生じてしまうのではないか、というのが私の意見です。
30代後半から50代前半の「ロスジェネ・就職氷河期世代」は、新卒の時からずっと非正規雇用で働き、辛酸をなめ続けてきた人たちがたくさんいて、「子どものいる家庭」に憧れをもちながら、経済的な不安により結婚や出産をあきらめたという人も少なくありません。
「日本の子どもの7人に1人が貧困状態」と言われていて、このことは確かに大きな問題なのですが、これは逆から見れば「日本の子どもの7人に6人は貧困状態ではない豊かな家庭で暮らしている」ということであり、確率論的に言えば、そこらへんにいる子どもたちの85%以上は「貧困状態ではない豊かな家庭の子ども」ということになります。
現実的に、いま子どもがいる家庭というのは、「パワーカップル」とは言わないまでも、「経済的にも精神的にも余裕のある男女が何らかのきっかけで出会い、結婚して家庭を作って、子宝に恵まれて子どもを産んでいる」という家庭が大半であり、都会であれば「お受験」などに励んでいる家庭も少なくないわけで、「少子化対策」というのは基本的にこの「勝ち組」の家庭に国からお金が投入されるというものになるわけです。
そのうえ、今回の「異次元の少子化対策」で児童手当の所得制限が撤廃されることになるわけで、結果として、多額の所得がある家庭にも「子どもがいる」という理由で「児童手当」のお金が振り込まれることになります。
従って、「異次元の少子化対策」を進めることによって、「低所得であるがゆえに結婚や出産をあきらめた人も含めて、国民全体に税金や社会保険料の形で負担を強いて、約85%の『勝ち組』家庭と約15%の『貧困』家庭にお金やサービスを届ける」という状況を生み出すことになるわけで、そのことにやりきれなさを感じる人も少なくないのではないでしょうか。
4.「少子化対策」で国民の分断を生まないためには?
れいわ新選組代表の山本太郎さんは、2024年2月23日に千葉県千葉市で行われた「おしゃべり会」で、少子化対策に関して質問を受け、山本太郎さんが個人として考える少子化対策の3つの柱について話をしています。
少子化対策に必要な3つの柱
①教育無償化(大学院まで全て)
②「住まいは権利」の実現
③低所得者に対する所得補填
山本太郎さんの基本的な考え方としては、「ひとりひとりが(丸腰でも)安心して暮らせる社会を作って、そのうえで、結婚するかしないか、子どもを産むか産まないかは、それぞれの個人の考え方に委ねる」という立場に立っているようです。
前回みなさまにご紹介した大村大次郎(著)『世界で第何位?日本の絶望ランキング集』(中央公論新社、2023年)には、次のような記述があります。
いまの日本で問題なのは金がないことではなく、金があるのにそれがきちんと循環していない、ということである。
週に40時間まともに働いて、家族を養うどころか自分がまともに食うことさえできない国というのは、世界中そうそうあるものではない。
政治家や財界人は、それを恥じてほしいものである。
これだけ金を持っているくせに、国民をまともに食わせることさえできないのか、ということである。
いまの日本に必要なのは、大企業、天下り特殊法人がため込んでいる金を引き出して、金が足りない人のところに分配することである。それは、決して特別なことではない。先進国として最低限度の雇用政策、経済政策をとるということである。
世界の10%という莫大な金を持っているのに、たった1億2000万人の国民を満足に生活させることができない、という「経済循環の悪さ」。その点に、為政者、経済界のリーダーたちが気づいていただきたいものである。
(中略)
そして「金がないから進学できない」「金がないから結婚、出産できない」というような若者を絶対に出さないことである。
この考え方に通底するものがあると思いますが、「少子化対策」で国民の分断を生まないようにするためには、「国民ひとりひとりの生活を全体的に底上げする」という考え方に立った施政を行うことが政治に求められているのではないでしょうか。
5.トピックス:衆議院補欠選挙
三連休の中日4月28日に行われた衆議院補欠選挙は、東京15区、島根1区、長崎3区、いずれも立憲民主党の圧勝で終わりました。
今回の補選では、立憲民主党の候補者は、島根と長崎では消費税減税を訴え、東京では消費税に関する議論を避けるという方針で選挙戦を戦ったようです。
今回の補選で一番盛り上がったのは、9人の候補者が立候補した東京15区でした。
当選ラインに及ばなかった候補者の中で、無所属にもかかわらず2位に入った須藤元気さんは大健闘だと思いますし、4位に入った日本保守党の飯山陽さんも国政初挑戦で善戦したと言えると思います。
逆に、無所属の須藤元気さんの後塵を拝して3位になった日本維新の会の金澤結衣さんと、日本保守党の飯山陽さんの後塵を拝して5位に沈んだ無所属(国民民主党推薦、小池百合子東京都知事全面支援)の乙武洋匡さんにとっては、「惨敗」と言える結果だったのではないかと思います。
れいわ新選組は今回の補選に関して「自主投票」で臨みましたが、櫛渕万里共同代表が立憲民主党の酒井菜摘さんを応援し、山本太郎代表が無所属の須藤元気さんを応援する、事実上の「分裂選挙」となりました。
須藤元気さんが行った選挙戦は、お金をかけずに選挙戦を展開し、消費税減税を訴え、貧困に苦しむ人々を救いたいという熱意にあふれるものでした。
一方の酒井菜摘さんが行った選挙戦は、いわゆる「野党共闘」の支持層の固定票をしっかり守ることで「金持ちケンカせず」で逃げ切るという、徹底した「逃げ」の選挙戦でした。
9人の候補者のうち8人が参加した「公開討論会」に酒井菜摘さんはただ一人「スケジュールの都合」を理由に参加せず、また、「消費税率の一時的な引き下げは必要か」を問うマスコミの質問にも酒井菜摘さんただ一人が「回答しない」と答えました。
SAMEJIMA TIMES主筆の鮫島浩さんのルポによれば、選挙戦最終日の最終演説でも、酒井菜摘さんは「各陣営が集結する門前仲町を避ける」方針を取り、最終演説を早々に打ち切って午後8時前に無言の街宣車を走らせて事務所に帰還するという選択をしたのだそうです。
ひょっとすると、立憲は最終演説の動員力で維新や日本保守党にかなわないとみて、あえて各陣営が集結する門前仲町を避け、豊洲を選んだのかもしれない。土壇場での勢いの差が可視化されることを嫌ったのではないか?
(中略)
最終演説は選挙活動を支えてくれた支援者やボランティアをねぎらい、最後にいまいちど結束を確認し、23時59分ギリギリまで支援を訴える「最後の引き締め」の舞台でもある。それを早々に打ち切り、午後8時まで時間が残っているのに、無言の街宣車を走らせて帰還するとは…。
最初から最後まで「逃げっぱなし」だった立憲民主党の酒井菜摘さんですが、今回の補選で当選した3人の立憲民主党の候補者の中で、世襲議員ではない叩き上げの候補者は、酒井菜摘さんただ一人です。
ご本人はガンの闘病などで若いのに苦労をされており、そうした意味では、今後の国会議員としての活動に期待をしたいです。
憲法9条変えさせないよ
プロ野球好きのただのオジサンが、冗談で「巨人ファーストの会」の話を「SAMEJIMA TIMES」にコメント投稿したことがきっかけで、ひょんなことから「筆者同盟」に加わることに。「憲法9条を次世代に」という一民間人の視点で、立憲野党とそれを支持するなかまたちに、叱咤激励と斬新な提案を届けます。