横浜市政は行政のビジネス化が極端に進んでしまった。国際園芸博覧会(花博)の意思決定プロセスを見るとよくわかる。一緒にそのプロセスを検証しよう!
林文子前横浜市長は東京日産自動車販売の代表取締役社長まで上り詰めた実業家である。
山下埠頭へのカジノ誘致など林前市長時代の横浜市政12年間は、まさに実業家の視点で行政のビジネス化が極端に進んだ時期だった。旧上瀬谷通信施設跡地利用の意思決定プロセスを見るとつくづくそう感じる。
行政のビジネス化とは、市民の税金を使って市民の生活を豊かにするよりも、大企業のビジネスをサポートすることを優先するものと定義する。もちろん地元企業のために税金を投入し、その結果地元企業が発展し、雇用も税収も増える政策を否定しない。むしろ市民生活が豊かになるのであれば、地元外の企業を積極的に誘致する政策は歓迎する。
始まりは、旧上瀬谷通信施設の土地利用に関する取り組みである。平成29年11月に横浜市がまとめた基本計画は、農業振興と公共・公益がメインである(下図参照)。
この時期は、まだ行政が市民目線で地元住民と意見交換しながら計画を進めていたことがよくわかる。行政ビジネスの観点は少ない。また花博については平成28年4月作成の「旧上瀬谷通信施設の跡地利用について」に「跡地利用の推進方策として、国有地を中心に「国際園芸博覧会」の検討を進めます」とたった一行あるだけである。
これらの計画からは何故花博が必要なのか、誰がどのようなプロセスで花博を跡地利用の推進策として決めたのか定かではない。
それが一気に大きな行政ビジネスへと舵を切るのが、平成28年10月の「国の制度及び予算に関する提案・要望書」で、林前市長が当時の菅義偉官房長官に花博開催検討への国からの支援・協力を行った後である。
林前市長は民主党推薦で初当選した後、自民党に接近して当選を重ねた。横浜を地盤とする菅氏を後ろ盾に市政を担ってきたことは広く知られている。
横浜市の国際園芸博覧会開催のホームページによると、平成29年6月5日(月)に第1回国際園芸博覧会招致検討委員会が開催され、ここから花博が旧上瀬谷通信施設跡地利用のメインとなる。最終的に建設費240億円、運営費360億円もの巨額の資金(財源は、国、市のほか、民間が負担)が必要となる大イベントとなる。それは花博の跡地に年間1500万人の来場者を見込む東京ディズニーランド並みの超大型テーマパークを誘致するというビジネスを考慮し、税金でその基盤を作るからである。
ただ残念なことに、この検討委員会の資料、議事録、市民の意見を募集する際に使った国際園芸博覧会基本構想(素案)はホームページから削除されてしまって、今現在(2022年5月)閲覧できない。どのように跡地利用が巨大ビジネス化したのか、その過程は不明である。
また、この素案に対する市民の意見を募集する期間は「平成 29 年 12月 20 日(水)から平成 30 年1月 19 日(金)まで」と、たったの1ヶ月である。それも年末年始の市民が一番忙しい期間である。これでは市民の意見を聞く姿勢は感じられない。まるで企業幹部が経営戦略を決めて、ビジネスを実行するスタイルそのものである。
私は東京ドーム52個分の広大な現地(下の写真)を見て、何故花博なのか理解できた。
平成29年の最初の計画書「旧上瀬谷通信施設の跡地利用について」に「跡地利用の推進方策として、国有地を中心に「国際園芸博覧会」の検討を進めます」とたった一行書いてある。巨大なテーマパーク予定地を整備する為には、花博が最適なのである。逆にいうと花博しかないのである。まさに「跡地利用の推進方策として、国有地を中心に花博の検討を進めます」である。基本計画を作成した当事者も、この広大な草原を見て、ここでどんな行政ビジネスを展開するにしても、花博が必要であると実感したに違いない。
現在は、そのテーマパーク事業から地元の相鉄ホールディングスが撤退する旨を発表している。それに合わせ地元の横浜シーサイドラインも瀬谷駅とテーマパークを結ぶ新交通システムには参加しない意向を示している。それでも横浜市は大規模テーマパークを前提に花博を進めている。
そこで多くの市民が反対したカジノを中止させる公約掲げ、野党共闘の候補として昨年の市長選で当選した山中市長に、跡地利用の再検討を提案する。
(1)まずは過去の議事録や資料をホームページに復活させ、市民が検証できるようにする。特に何故巨額の費用がかかる花博が必要なのか?その意思決定過程を明らかにすべきである。
(2)行政が市民目線で作成した平成29年11月のたたき台を元に、花博などの推進策が不必要の跡地全体の利用を再考してもらいたい。
(3)花博の入場者を運ぶ手段は現行バスしかなく、当初見積りの入場者数に届かず赤字が予想されている。多額の税金投入に見合った効果があるのか、甚だ疑問である。花博自体の中止も検討すべきある。もし中止できないのであれば、赤字にならない規模の縮小を考えるべきである。
(4)跡地の再考は、地元住民だけでなく多くの市民が参加する山下埠頭の再開発の検討で採用するワークショップ(市民との意見交換会をワークショップ形式で開催)と同様なワークショップを開催して欲しい。
池野青空(いけの・せいあ)
横浜市在住。日本の大手企業に20年勤務した後、25年間グローバル外資系企業で東アジアのITとセキュリティ担当のマネージャーとして勤務後、去年65歳となり引退。ITの経験者誰もが、普通に疑問に持つ、国や自治体のシステムをいろいろ、みなさんと考察したい。写真はハンブルグ出張時にビートルズのジョン·レノンが滞在したアパートの前です。