朝日新聞が衝撃の総選挙・情勢調査を報じた。自民党が公示後にさらに失速し、自公与党が過半数を割る可能性が高まってきたという内容だ。
石破茂首相は自公過半数を勝敗ラインに掲げており、自公過半数割れなら退陣に追い込まれる可能性が高い。その場合は総選挙後、自民党総裁選が再び行われることになる。
反主流派は、総裁選決選投票で石破氏に逆転負けした高市早苗氏を担ぐだろう。石破政権で無役に転じた茂木敏充前幹事長の動向も注目だ。一方、主流派は林芳正官房長官を担ぐのではないか。
いずれにせよ、自民党内は大政局だ。
自公は衆院で過半数割れしても、参院ではなお過半数を維持している。しかも野党はバラバラで、立憲民主党の野田佳彦代表を担いで野党連立政権が誕生する可能性は低い。現実的には自公与党が日本維新の会か国民民主党を連立政権に引き入れ、連立の枠組み拡大で政権を維持する可能性が高い。総裁選では連立の枠組みをどうするかも大きな争点となるだろう。
野党は立憲民主党が小選挙区を中心に議席を伸ばすものの、比例票は伸び悩んでおり、強烈な勢いは感じない。むしろ注目すべきは、立憲と距離を置く国民民主党とれいわ新選組の大躍進だ。自民党も立憲民主党もイヤという有権者が増えており、その受け皿となっている。
二大政党の双方に対する反発が強まるなかで、自民党は立憲民主党よりさらに嫌われており、小選挙区では消去法で立憲が選ばれているというのが実態だろう。
朝日新聞の情勢調査による各党の予測議席をみていこう。
自民党は公示前議席247を200まで減らすと予測されている。裏金問題で非公認とされた候補を入れてもを205にとどまり、単独過半数233に遠く及ばない。50議席程度の大幅減少で、大惨敗といっていい。
選挙区は182→144の惨敗。全国の選挙区で野党一本化が進んでいないのに競り負けている。よほど嫌われているといっていい。
公明党も公示前議席32を25まで減らす惨敗だ。公明現職がいた大阪・兵庫の6選挙区で維新との談合が決裂した影響が大きく、選挙区は9→5の大幅減だ。 創価学会の高齢化で組織票も低下しており、比例区も23→20と苦戦している。
自公与党は過半数233を割り込む225。裏金問題で非公認とされた候補を入れても230だ。無所属系議員を引き入れて過半数を超えたとしても、自公過半数を勝敗ラインに掲げた石破首相の進退問題に発展するのは避けられない。
石破首相が掲げた「自公過半数」の勝敗ラインは、総選挙後の石破おろしを阻むため、あえて低めに設定したものだった。党内でも「甘すぎる」との批判がくすぶり、自民党が単独過半数割れしたら石破おろしに動くという声が反主流派では広がっていた。
それをはるかに下回り、自公過半数割れまで落ち込めば、石破退陣論が噴出するのは間違いない。石破首相は無所属候補をかき集めて追加公認し、自公過半数維持を後付けで目論むかもしれないが、それでも党内は石破退陣論で収拾がつかなくなるだろう。最終的には退陣は避けられないのではないか。
総選挙が終われば30日以内に国会を召集し、首相指名選挙が行われる。石破首相が退陣すれば、その間に国会議員による緊急の自民党総裁選が行われ、新総裁が選出される。新執行部の最初の課題が、連立の枠組み拡大による過半数の獲得だ。維新や国民との連立協議が進むことになる。
続いては、立憲民主党だ。
朝日新聞の情勢調査では、公示前議席98を138まで伸ばす。40議席増だ。
これを支えるのは小選挙区での健闘である。公示前の60から97へ。各地で野党一本化できていないのに大幅増となっているのは、野党第一党効果というほかない。自民党候補を落とすことを優先して、立憲民主党を支持していない多くの有権者が抵抗感を抱きつつも小選挙区では立憲候補へ投票するのだ。
立憲への期待感が高まっていないことを示すのが、比例の動向である。朝日の情勢調査では38から41の微増にとどまっている。立憲は前回総選挙で惨敗しており、議席増は当たり前だ。それでもこの程度しか増えていないのは、小選挙区で泣く泣く立憲に投票する有権者が比例では他の野党に流れている結果とみていい。
今回の情勢調査で立憲への期待感が高まっていると解釈するのは大間違いだ。
自民もイヤ、立憲もイヤという無党派層を引き寄せているのは、国民民主党とれいわ新選組である。ともに立憲とは一線を画し、消費税減税・廃止を掲げている。石破自民党も野田立憲民主党も増税派とみられているなかで二大政党への反発の受け皿となっている格好だ。
国民民主党は公示前議席の7を3倍の21へ増やす勢いだ。とりわけ比例の3議席を14議席に急増させているのが目をひく。ただ、ここまで躍進すると、自公過半数割れの場合も連立入りには慎重になるかもしれない。アンチ自民・アンチ立憲の支持で躍進した以上、連立入りしたり、立憲との連携を強化したりすれば、来年夏の参院選で大きな反動を受ける可能性があるからだ。
れいわ新選組は公示前3議席を11まで伸ばす大躍進である。すべて比例だ。与党も野党も敵に回す単独路線が奏功したといっていい。山本太郎代表を中心にさらに独自路線を強めていくだろう。
維新は公示前議席の44を38へ減らす予測だ。大阪万博や兵庫県知事問題で失速し、野党第一党の奪取を目指した一時の勢いは完全になくなった。ただ、自公与党が過半数我した場合の連立入りへのハードルは、躍進する国民民主党よりは低いかもしれない。
もっとも自民党としては落ち目の維新よりは勢いづく国民民主党を連立に引き込みたいだろう。公明党も関西で激突した維新よりは国民民主党のほうが抵抗感が少ないのではないか。
共産党は公示前議席10を12へ伸ばす予測。組織力の低下や党員除名問題で無党派層への広がりを欠くとみられていたが、自民党も立憲民主党もイヤという無党派層の一定の受け皿になっているといえるだろう。
投開票日まで一週間を切った。まだ投票先を決めていない有権者は多い。いつもに増して選挙情勢は激動しており、これから大きく変わる可能性もある。
自公与党が過半数を維持したとしても、石破政権が安定するとは思えず、政局は引き続き揺れ動くだろう。