ポスト岸田に急浮上した上川陽子外相から失言が飛び出した。地元・静岡県知事選の応援演説で「私たち女性がうまずして、何が女性でしょうか」と発言したのだ。世論の批判を浴びてただちに撤回したが、初の女性首相への期待を自ら打ち消すような発言で、早くも総裁レースから脱落の様相だ。
失言は5月18日、静岡県知事選に自民推薦で出馬している元総務官僚の応援演説で飛び出した。新しい知事を誕生させることと出産を引っ掛けたつもりのようだが、女性に出産を強要する発言と批判され、撤回した。
かつて上川氏と同じ静岡県選出で宏池会(岸田派)の先輩でもある柳沢伯夫厚労相が「女性は子をうむ機械」と発言して批判を浴びたことを思い出した。だが今度は「初の女性首相」への期待を集めている上川氏の発言である。ダメージはよほど大きい。
この静岡県知事選は、前任の川勝平太知事が職業差別発言で突然辞任し、急遽選挙戦に突入したものだ。5月9日告示、26日投開票。自民党は静岡市出身の元総務官僚を擁立し、立憲民主党は元浜松市長を担いだ。与野党激突の総選挙の前哨戦と位置付けられている。
マスコミの選挙情勢調査では、裏金事件に対する自民党への逆風は強く、立憲候補が一歩リードしてきたが、告示後は自民候補が激しく追い上げている。
自民党が全敗に終わった4月補選に続いて静岡県知事選でも敗北すると、岸田首相による6月解散はいよいよ困難となり、9月退陣の流れが強まってくる。岸田首相としては負けられない戦いだ。
同様に、ポスト岸田に急浮上した上川氏にとっても「本当に選挙の顔になるのか」が問われる正念場と選挙戦といわれている。
告示後最初の週末には外相就任以来初めてとなる地元入りをし、農協の駐車場2箇所で応援演説に立った。しかし「なぜ人通りの多い繁華街に立たなかったのか」「本当に集票力があるのか」との不満が自民陣営からも広がり、二度目の週末の地元入りとなったのだ。
そこで飛び出した失言。力が入ったゆえの出来事だったのか。そうだとすればなおさら「首相候補」として疑問符がつく。
実は上川氏の勢いは、実は失言前から陰りが見えていた。
マスコミ各社の世論調査では 次の首相のトップは石破茂元幹事長、2位は小泉進次郎元環境相が維持しているが、3位に河野太郎デジタル担当相を抜いて上川外相が躍り出る結果が相次いでいた。ところが、上川氏の失言が飛び出した週末に読売新聞などが実施した世論調査では、上川氏は河野氏に再逆転され、高市早苗経済安保担当相と並ぶ4位に下がったのだ。この調査は失言への批判が広がる前の数字とみていいだろう。
そもそも上川氏は、麻生太郎氏が独り立ちを始めた岸田首相を牽制するためにポスト岸田に担ぎ出したという経緯がある。しかし内閣支持率の低迷で6月解散が困難となるなか、麻生氏と岸田首相の関係は一時的にせよ回復しつつあり、麻生首相が上川氏を持ち上げた目的は一応達した。
しかも麻生氏は世界的な「もしトラ」の動きに合わせて米国のトランプ前大統領と会談。11月の米大統領選でトランプ政権が復活することを見越して動き始めている。バイデン政権追従の外交を進めてきた上川氏はむしろ重荷になる恐れも出てきたのだ。
麻生氏の「このおばさん」失言で知名度を上げ、ポスト岸田に躍り出た上川氏は、今度は自らの失言を口実に麻生氏に切られるという展開が現実味を増しているといっていい。
そもそも静岡県知事選で自民候補が敗北すれば、上川氏はそれを理由に「選挙の顔にはならない」として総裁レースから脱落する恐れがあった。今回の失言で仮に自民候補が逆転しても上川氏が押し上げたという評価はされにくくなった。そしてこのまま敗北した場合は、その敗因に上川氏の失言が加えられることになろう。どちらにせよ、致命的な失言となる可能性がある。