戒厳令発令のクーデターに失敗した韓国の尹大統領の弾劾訴追案は与党の大半が欠席し、可決されなかった。
しかし、尹大統領は与党が弾劾訴追案に賛成することを防ぐため、今後の進退を与党に一任。与党の韓代表は今後の政権運営に尹大統領を関与させないと宣言した。
尹大統領は事実上権力を失ったといっていい。戒厳令を進言した金前国防相は検察に逮捕され、逮捕状には「尹大統領と共謀して…」と指摘されていることから、尹大統領も強制捜査は免れないとみられている。
検察は時の権力者の味方である。しかも尹大統領は検事総長出身だ。その検察が強制捜査に乗り出すというのだから、尹大統領は完全に失脚したとみて間違いない。
妻のスキャンダルで追い込まれていた尹大統領がこの年末に戒厳令発令に踏み入ったのは、年明けに米国の大統領がバイデン氏からトランプ氏に変わることと無関係ではないだろう。革新勢力から政権を奪取した尹大統領の後ろ盾は、バイデン大統領だった。日米韓の連携こそ、バイデン外交の基軸で、韓国の革新政権の復活阻止に全力をあげてきた。
他方、トランプ氏はロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記と相性がいい。尹大統領はバイデン政権のうちに戒厳令を仕掛けたほうが米国の支持を得られると判断したのだろう。
しかし民主化された韓国での戒厳令は、あまりに時代錯誤だった。国民が総反発し、与野党も反発し、軍部の動きも鈍く、あっけなく失敗に終わったのは当然と帰結だった。
私が一連の政局で注目したのは、韓国与党の韓代表だ。
まだ51歳。検事出身で、検事総長だったユン大統領の側近だった。しかし最近は、尹大統領の妻のスキャンダル追及に前向きで、尹大統領との距離が開いていたようだ。
当初は弾劾訴追案を否決する姿勢を示していたが、尹大統領が自らを含む与野党政治家の逮捕を画策していたことを知り、弾劾訴追案に賛成する姿勢に転じた。この結果、尹大統領は大統領任期の短縮を含めて今後の身の振り方を与党に一任すると表明し、失脚が固まった。韓代表はこれを見届け、ふたたび弾劾訴追案の可決を防ぐ立場に戻った。
韓代表はかつての親分に切り捨てられそうになって、見事に切り返した格好だ。尹大統領にトドメを刺したのは韓代表といえるだろう。
尹大統領は年明けに正式退陣し、来年春に大統領選が行われるというシナリオが報じられいる。いますぐに大統領選に突入すれば、保守政権への風当たりが強く、革新勢力の野党へ政権が移るのは避けられない。尹大統領の正式な退陣を遅らせて時間を稼ぎ、世論が沈静化するのを待って大統領選を実施したいという狙いだ。
与党の大統領候補で最有力なのが韓代表である。米国はトランプ政権が誕生しても、日米韓連携がアジア外交の基軸であることに変わりはなく、韓国で革新勢力への政権交代を望まないはずだ。おそらく与党の韓代表を水面下で支援するのではないか。今回の尹大統領の退陣シナリオでも、すでに韓代表と米国側のすり合わせが行われている可能性が高い。
マスコミ各社は野党への政権交代の可能性が高く、日米韓の連携が崩れることへの警戒感が広がっていると報じているが、私は案外、与党の韓代表が次期大統領の本命に浮上し、日米韓の連携はそれなりに維持されていくのではないかとみている。
さて、どうなるか。