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参政党、再び旋風 宮城県知事選が突きつけた「高市政権への警鐘」

夏の参院選で全国を席巻した参政党が、秋の地方選でも存在感を見せつけた。
10月26日に投開票された宮城県知事選挙―。
6期目を目指す現職・村井嘉浩知事(65)は、自民・公明の支援を受け「圧勝確実」とみられていた。ところが、終わってみればわずか1万5千票差の薄氷の勝利。
激しく追い上げた相手は、参政党が全面支援した元自民党参院議員の和田政宗氏。
この結果は、中央政界に強烈なインパクトを与えた。

三つ巴の構図が示した「保守分裂」

村井氏は自民党出身で、松下政経塾から宮城県議を経て知事に転身。全国知事会長も務めた大物だ。自民党、公明党、町村会を味方につけた“盤石の体制”のはずだった。
村井知事への対抗馬として当初有力視されたのは、立憲民主党のベテラン県議だった遊佐氏だ。

宮城県は北海道や新潟県に並ぶ「立憲王国」である。安住淳幹事長の地元。昨年の衆院選では県内5選挙区で4勝1敗だった。今回の知事選では立憲と共産の県議が遊佐氏を応援した。
そこに割って入ったのが、和田氏である。

NHK仙台局の元アナウンサーで、みんなの党から2013年の参院宮城選挙区で初当選。その後自民党入りし、比例に転じたが、今年夏の参院選では落選した。安倍晋三元総理に近い保守派として知られる。
今回は安倍昭恵氏の応援を受けて参戦。参政党がこの和田陣営に合流し、得意の草の根活動を展開して、選挙戦は一気に熱を帯びた。

結果は、

  • 村井氏:34万190票
  • 和田氏:32万4375票
  • 遊佐氏:17万6287票

――という大接戦。仙台市内では、和田氏が村井氏を3万票以上上回った。
保守分裂の構図の中で、参政党の草の根動員が票を食い破った格好だ。

参政党が挑んだ「草の根の逆襲」

参政党は当初、独自候補を立てる方針だった。
神谷宗幣代表は、宮城県が水道事業の運営権を民間に売却したことについて「なぜ民営化して外資に売り渡すのか」と厳しく批判。村井知事は「誤情報だ」と反発し、対立が激化していた。
さらにインドネシア人を労働力として受け入れる村井県政に対し、参政党は「日本人ファースト」の立場から異を唱えた。

神谷代表は9月に和田氏と政策覚書を交わして候補者を一本化。以降、神谷代表自ら4度も応援に入り、草の根活動の先頭に立った。
参政党はこの夏の参院選で無党派層や保守層の支持を受けて14議席を獲得し、比例では自民・国民に次ぐ3位に浮上。立憲を上回る勢いを見せた。「高市政権誕生で保守層は自民に戻る」とみられていたが、宮城の結果はその楽観論を吹き飛ばした。

若者の投票行動が変えた

仙台放送の出口調査によれば、和田陣営の支持構造は極めて特徴的だ。
20代で54%、30代で60%、40代でも48%が和田氏に投票。
一方、村井氏は高齢層に強く、60代以上では5割近くを固めた。
つまり「若者・現役世代=参政党支持」「高齢層=既成政党支持」という新しい世代構図が浮き彫りになったのだ。

また、無党派層でも和田氏が41%と、村井氏(37%)や遊佐氏(17%)を上回った。
既成政党に頼らない草の根の広がりが、宮城でも再現された形だ。
神谷代表は投開票後、「出遅れが悔やまれるが、草の根の力で現職をここまで追い詰めた」と満足げに語った。

一方、立憲民主党は“安住王国”でありながら惨敗。無党派層を参政党に奪われ、影の薄い存在に終わった。

高市政権の解散戦略に暗雲

永田町でこの結果に最も衝撃を受けたのは、早期解散を目論む自民党だ。
キングメーカーの麻生太郎副総裁は、秋の臨時国会で補正予算を通したのち、来年1月の通常国会冒頭で解散・総選挙を断行し、自民単独過半数の奪還を狙うシナリオを描いている。
高市政権の支持率は6~7割と高く、自民党支持率も回復傾向――。
しかし、その“足元”がぐらついている。

宮城の結果は、都市部で参政党が無党派層と保守層をなお引き寄せている現実を突きつけた。
とりわけ都市部の1人区が多い衆院選では、参政党の動向が与党にとって致命傷になりかねない。
「高市内閣は支持するが、自民党には入れない」という有権者心理が広がれば、支持率高止まりでも議席は減る恐れがある。

さらに、もうひとつの不安要素が公明党だ。
村井氏は公明の組織票で辛勝したが、自民党の候補は次の総選挙で連立離脱した公明党から推薦を得られる保証はない。
公明・西田幹事長は「今後の選挙対応は人物本位。立憲を推薦することもあり得る」と明言した。
自民が保守票や無党派層を参政党に奪われ、公明票を立憲に奪われれば、敗北は必至である。

麻生 vs 参政党、保守票の奪い合いへ

では、麻生氏はどう出るか。

村井知事が追い上げられたのは、公明党の支援を受けたからだ。公明党をはっきり切り捨てたら、無党派層や保守層は自民党へ戻ってくるーーそう主張するだろう。

さて、高市総理は早期解散に踏み切れるのか。参政党旋風の行方が大きな鍵を握っている。