政治を斬る!

WBC放映権が示す時代の転換 テレビからネットへ、政治も同じ流れに

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が大きな盛り上がりを見せている。大谷翔平らメジャーリーガーの活躍に、日本中が沸いている。

ところが、その試合を地上波テレビでは見ることができない。放映権を動画配信サービスのネットフリックスが独占しているからだ。

テレビがスポーツの巨大イベントの放映権を失う――。これは単なる番組編成の問題ではない。テレビという巨大メディアが、ネットに主導権を奪われた象徴的な出来事かもしれない。

実は同じ現象が、政治の世界でも起きている。いまや選挙の勝敗を決めるのはテレビではなく、ネットだ。

ところが総選挙で惨敗した新党「中道」の関係者の多くは、敗因を「ネットのデマにやられた」と総括している。しかし、それは本当に敗因なのだろうか。むしろ有権者が拒絶したのは、彼らのエリート目線ではなかったのか。

そして今、彼らはSNS規制を言い始めている。


テレビが失った放映権

TBSの安住紳一郎アナウンサーは番組で、WBCの映像使用についてこう説明した。「試合終了から30分後に映像をもらえる」「編集して1番組3分以内なら使える」。つまり、地上波は試合を放送できないのだ。

なぜテレビはネットフリックスに放映権を奪われたのか。理由は単純だ。資金力である。

日本ではインターネット広告費がすでにテレビ広告費を上回り、その差は拡大する一方だ。テレビ局はWBCのような巨大イベントの放映権を獲得する資金力を失ってしまった。

そもそも地上波テレビは、放送免許を持つ企業しか参入できない。規制に守られた産業であり、政権との関係を保つことで既得権益を維持してきた。スポンサー企業から巨額の広告料を集め、社員の給与は国内でもトップクラスだった。

しかしインターネットの登場が、その構造を根底から崩した。

アメリカでは今年、YouTubeやNETFLIXなど動画配信サービスの視聴者数がテレビを初めて上回った。巨大な資本を背景にしたネット企業が、日本市場にも本格的に参入している。

動画配信サービスには放送免許が不要だ。視聴者を獲得し、資金力でテレビ局を圧倒すれば、放映権は簡単に奪える。

現在、メジャーリーグの日本での放映権は2028年まで電通が保有している。そのため、いまは大谷翔平の試合を地上波で見ることができる。しかし2028年以降、電通が放映権を失う可能性は高い。大谷翔平が地上波から消える日が、現実味を帯びてきている。


政治の主役もネットへ

テレビの影響力低下は、政治の世界でも同じだ。

私が政治記者になった1990年代、政治の舞台はテレビだった。NHKや民放の日曜朝の討論番組で、政局が動く。各党幹部は週末のテレビで何を発言するかを練り上げ、出演オファーが来れば大喜びした。

テレビ局の記者の名刺は、永田町で圧倒的な威力を持っていた。

しかし時代は変わった。

その変化がはっきり見えたのは、2024年の東京都知事選だ。テレビや新聞は当初、小池百合子知事と蓮舫氏の一騎打ちと報じていた。二人とも元テレビキャスター、いわばテレビの申し子だ。

ところがネットでは、元安芸高田市長の石丸伸二氏が急速に支持を拡大した。テレビでは泡沫候補扱いだったが、ネットで支持を広げ、蓮舫氏を抜いて2位に躍り出た。この「石丸旋風」は、メディア業界に衝撃を与えた。

続く兵庫県知事選でも、マスコミに追い込まれた斎藤元彦知事が出直し選挙で逆転勝利した。

政治の世界でも、ネットがテレビを超え、選挙結果を左右する現実がはっきりしたのである。

この流れは国政にも及んだ。2024年衆院選では国民民主党の玉木雄一郎代表がネット発信で注目を集めて躍進。2025年参院選では参政党がSNS戦略を駆使して「日本人ファースト」を掲げ、大きく議席を伸ばした。

一方、ネットで人気のなかった石破茂首相は衆参選挙で敗北を重ね、与党は過半数を割り込んだ。そしてそれ以上に打撃を受けたのが立憲民主党だった。

自民党では石破政権で「党内野党」だった高市早苗氏がネットで支持を広げていた。だが立憲は、テレビと新聞への対応にばかり力を入れ、ネット世論の変化を見誤った。


「ネットに負けた」という総括

立憲民主党にはもともと「自分たちの掲げる正しい政治を有権者に啓蒙する」という意識が強い。選挙で敗北しても「有権者に浸透する時間が足りなかった」と総括する傾向がある。

民主党政権の野田佳彦首相と安住淳財務大臣が進めた消費税増税は、その象徴だった。有権者の期待を裏切ったという批判を直視せず、「正しい政策が伝わらなかった」と説明してきた。

テレビや新聞は財務省寄りの論調で消費税増税を支持してきた。これに対する反発が、高市政権の積極財政への支持につながった面もある。

結果として立憲民主党は「増税派」と見られ、ネットでは財務省やオールドメディアと並ぶ「敵」として攻撃されるようになった。

NHK出身の安住淳幹事長は「ネットで流行ればいいという風潮は間違っている」と語り、SNSに否定的な姿勢を示してきた。立憲民主党の公式YouTubeチャンネルは一時、批判を恐れてコメント欄を閉鎖していたほどだ。

その結果、支持率は高齢層では10%を超える一方、若年層では1%未満という極端な状況になった。

総選挙の壊滅的敗北は、ネット世論との衝突の結果でもあった。

投開票日の夜、岡田克也元外相は「ネットを見ている人の支持が低かった。デマや批判が渦巻いていた」と語った。安住前幹事長も「切り抜き動画によるデマが続くなら刑事告訴を含め法的措置を取る」と表明した。

多くの落選者は「ネットの誹謗中傷やデマに敗れた」と受け止めている。


SNS規制という発想

新党「中道」の小川淳也代表は就任会見で、SNSの影響について「冷静な議論が有権者に届かなくなっている」と語り、ネット言論の「正常化」の必要性を訴えた。

検討されているのは、選挙期間中の選挙関連投稿の収益化禁止などだ。

しかし疑問もある。テレビは選挙期間中もCMを流しながら選挙を報道している。それと何が違うのか。テレビや新聞だけが正しく、ネットはデマばかりだと言えるのだろうか。

私は朝日新聞で27年間記者を務め、政治部デスクを経験した後、ネットの世界に移った。その経験から断言できる。マスコミだけが正しく、ネットが間違っているとは決して言えない。

WBC放映権をめぐり、ネットとテレビが競争する時代だ。ネットの収益化を禁止するなら、規制や税制で守られてきたテレビや新聞の広告も同じように規制しなければ公平とは言えない。

さらに「公的ファクトチェック」という構想もある。しかし、現在進行形の政治問題を完全に中立な立場で判定することはほとんど不可能だ。

ネットを押さえ込もうとすれば、「オールドメディアの既得権益を守るための規制だ」という反発を招くだけだろう。

デマや誹謗中傷を減らす唯一の方法は、ネットの世界で多数派を形成することだ。政治勢力が再生する道は、ネットを規制することではなく、ネットで支持を広げる努力にこそある。