安倍晋三元首相の政治団体を妻の安倍昭恵氏が継承し、合計約2億4400万円の政治資金を非課税で受け継ぐーーしんぶん赤旗が6月28日に放ったスクープはインパクトがあった。まさに政治資金の私物化である。
記事によると、元首相の関連政治団体6つのうち、昭恵氏は「自民党山口県第4選挙区支部」と「晋和会」を継承した。いずれも元首相が政治資金を集めるのに使っていた政治団体である。
昭恵氏は元首相が亡くなった22年7月8日付で両団体の代表に就任し、晋和会の所在地は衆院第1議員会館にあった元首相の事務所から昭恵氏の自宅住所に移っている。
親族が遺産を受け継ぐ際は相続税が課せられるが、政治資金は非課税で受け継ぐことができる。政治資金収支報告書によると、両団体の残金は21年12月末の時点で、同支部が約1億9200万円、晋和会が約5200万円。同支部の残額には政党助成金約2400万円も含まれているという。これらの使途を決めるのは、政治団体を受け継いだ昭恵氏だ。
大物政治家が集めた巨額の政治資金を親族が非課税で受け継ぐのは、政治倫理的にも道義的にも受け入れがたい。そのような実態を放置しているのは法整備の不備としかいいようがない。世襲政治家がはじめから豊かな資金力に恵まれているのは、歪んだ法制度に守られているからだ。
与野党から見直しの声があがらないのは、国会議員たちの多くが同様の手法で政治資金を親族へ受け継ぐつもりだからだろう。既得権益そのものである。
昭恵氏は元首相死去に伴う4月の衆院山口4区補選への出馬を固辞し、代わりに下関市議だった吉田真次氏を自民党公認に押し立てて圧勝した。
衆院選の区割り見直しで新山口3区の自民公認をめぐって岸田派の林芳正外相と安倍派の吉田氏が激しく争うと、昭恵氏は吉田氏の後援会長に就任して全面支援。公認争いでは敗れたものの引き続き吉田氏をバックアップすることを強烈にアピールしたのである。
この振る舞いは、昭恵氏が首相夫人時代に物議をかもした「公人か私人か」の論争を彷彿させる。元首相が集めた巨額の政治資金を受け継ぎ、それを政界にばらまくことで政治的影響力を維持している「影の実力者」は果たして「私人」といえるのだろうか。
ここで指摘しておきたいのは、赤旗が報じたこのスクープを大手メディアが黙殺していることだ。
これほど世襲政治の実像や政治資金規正法の抜け穴を映し出すニュースはない。にもかかわらずマスコミ各社がこれを報じないのは、いまなお元首相と昭恵氏に遠慮しているからなのか、それとも記者としての問題意識が欠如しているのか。
私にはまったく理解できない。政治報道の凋落ぶりを映し出す出来事である。