2025年夏の参院選に向けて、政界に不穏な空気が漂っている。火種となったのは、国民民主党が大阪選挙区に擁立を検討している足立康史氏――かつて日本維新の会に所属し、幹部候補とも目されていた人物だ。
維新の本拠地・大阪に、維新を離れた大物政治家を“刺客”として送り込むこの動きは、単なる野党間の小競り合いでは終わらない。政界の構図全体に影響を与える「地殻変動」の予兆である。
維新への“殴り込み”──足立康史擁立の衝撃
足立氏は経済産業省出身、維新で衆院議員を4期務めた実力者だった。代表選にも挑戦した経験があり、党内では知名度・発信力ともに高かったが、執行部批判を繰り返した末、党員資格停止処分を受けた。昨年の衆院選では維新から対抗馬を擁立されて出馬を断念し、政界を引退した。まさに維新との“決裂”の象徴である。
その足立氏を、あろうことか国民民主党が大阪選挙区で擁立するという。この大阪選挙区は、改選数4の激戦区で、これまでは維新2、自民1、公明1という構図が定着していた。そこに国民民主が割って入る格好だ。
とくに、維新は大阪万博のゴタゴタで支持率が急落。国政全体でも、昨年の総選挙で大阪以外の地域では惨敗を喫した。今回の参院選も、大阪が最後の砦になる可能性が高い。その最重要拠点に“裏切り者”足立氏をぶつけられたことで、維新側は激怒しているのは間違いない。
維新と国民民主は、もはや修復不可能な全面対決モードに突入した。
すれ違う戦略──維新と国民民主の決定的な亀裂
この対立には、単なる候補者擁立を超える背景がある。
維新は、代表交代で吉村洋文・大阪府知事が新たに舵取りを担い、「野党第一党は目指さない」「全国政党化もしない」という大転換を宣言。さらに立憲民主党と一部選挙区で候補者一本化に合意し、“敵対”から“協調”へと動いた。
一方、国民民主党は、立憲とも維新とも距離を取りながら、手取りを増やす減税路線で現役世代の無党派層から支持を集め、勢力を急拡大している。国民民主党代表選で玉木氏に敗れて離党した前原誠司氏を、維新が共同代表に起用したことは、「ケンカを売られた」と感じたはずだ。
こうした感情のもつれが、今回の足立氏擁立という“報復”に繋がったと見る向きもある。
さらに、与党・自公が過半数を割った少数与党の国会では、国民民主と維新がそれぞれ予算協議で異なる要求を掲げた。維新が主張した「高校授業料の無償化」は政府に受け入れられた一方、国民民主の「所得税減税」は却下された。
この一連の流れが、国民民主の強い対抗意識を刺激したことは間違いない。
国民民主のリスク──足立氏と連合の“相性”
しかし、足立氏の擁立は、国民民主党にとってもリスクを伴う。足立氏は維新時代、連合などの労働組合に厳しい言葉を向けてきた経歴がある。
連合は、国民民主の重要な支持母体だ。その連合が足立氏擁立に強く反発しているのだ。玉木雄一郎代表がこれをどう説得するかが、今後の鍵となる。
国民民主党は、従来の「連合頼み」から脱却し、減税政策で無党派層を取り込んで勢力を拡大してきた。ここで連合の意向に屈すれば、「やっぱり連合に逆らえない政党か」「立憲と同じではないか」との印象を与え、支持がしぼむ危険もある。
だからこそ、足立氏擁立は単なる“挑発”ではない。関西でも上昇する支持を背景に、本気で大阪の議席を狙いにいっているのだ。玉木代表と榛葉賀津也幹事長の執念がうかがえる。
野党3すくみが与党を利する皮肉
維新と国民民主の関係は、完全に決裂した。そしてこれは、政局全体に波及する。
現在の国会では、自公与党が単独で過半数を持っていない。政権を安定させるには、
- 衆参ダブル選で過半数を取り戻す
- 維新・国民・立憲のいずれかを連立政権に引き込む
このどちらかしかない。
ところが、ダブル選を行うには内閣支持率の回復が不可欠。いまの石破政権のままでは危険が大きすぎる。となれば、現実的には②の「野党取り込み」に動くしかない。
つまり、今の維新 vs 国民民主の対立は、「どちらが政権に近づくか」をかけた生き残り競争でもある。どちらかが与党に取り込まれれば、もう一方は“用済み”になるからだ。
そして、ここに立憲民主党の存在感のなさが際立つ。本来なら、野党全体をまとめるリーダー役を果たすべきだが、それどころか国民民主に支持率で抜かれ、逆に張り合う構図になっている。
こうした野党3すくみの構図こそが、皮肉にも自公政権を延命させている最大の要因といえる。
与党側は、維新と国民民主の対立を“歓迎”していることだろう。バラバラな野党をまとめ上げるリーダー不在の今、自公の戦略は明確だ──「もっとケンカしてくれ」。
維新と国民民主の対立は、新たな政界再編の入り口か、それとも、野党分裂という古くて新しい失敗の繰り返しか。
少なくともいえるのは、「野党がバラバラでは、政権交代は永遠に起きない」という現実だ。果たして、どこかに突破口はあるのだろうか。