政治を斬る!

大女優の島田陽子さん、皇室ジャーナリストの渡辺みどりさんの最期から作家の雨宮処凛さんが考えたこと〜東京・池袋で2/17に雨宮さんらと対談します!

作家の雨宮処さんがimidasに寄稿した『ある大女優の最期から考えた、独り身の我が老後』は強烈なインパクトがあった。「2022年7月、女優の島田陽子さんが亡くなった」からはじまる記事をまずは紹介したい。

島田さんは「日本人初のゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞し、その後、国内だけでなくハリウッドでも活躍」した大女優だった。その彼女が亡くなった直後から「遺体の引き取り手がいない」「遺体はそのまま渋谷区の施設に安置されている」「自治体によって火葬された」という報道が相次いだ。

雨宮さんは「このことを知った時の衝撃は今もはっきりと覚えている。あれほど活躍していた人が、そんな最期を迎えるなんて、と。彼女は癌と診断されても抗癌剤治療などもしていなかったと記事にあったが、それも治療費などの問題があったのだろうか」と想像を張り巡らせている。

雨宮さんの衝撃は続く。皇室ジャーナリストとしてマスコミで活躍した渡辺みどりさんが9月末に亡くなり、遺体の引き取りや相続を親族に「放棄する」と言われたこと、終活のために10年以上前にマンションを売却したものの、そのお金はほぼ使い切っていたこと、遺体は長年付き合いのあった弁護士らによって荼毘に付されたことーーを朝日新聞の連載記事で知ったのだ。

衝撃は止まらない。今度は雨宮さんがかつて憧れていた人形作家が知人男性に「個展を開くためのお金がないんです。貸してくれませんか」と頼んで数千万円を受け取り、詐欺容疑で逮捕・実刑判決を受けたこと、被害者はお金を取り戻すために裁判を起こしたが、人形作家には財産がなくて1円も戻らず、刑務作業の報奨金の差し押さえを申し立てたことを報道で知った。

雨宮さんは相次ぐ衝撃の報道への思いを以下のようにつづっている。

あんなに活躍していた人が、今や刑務所で、月に数千円の作業報奨金の差し押さえを申し立てられているなんて——。しばし言葉を失った。いや、動揺はそれからしばらく経った今も続いている。島田さん、渡辺さんに対してだってそうだ。いずれもテレビで見ている有名人で、お金の不安なんかとは無縁の日々で、彼女らを愛する人々に囲まれ、華やかな生活をしているものとばかり思っていた。

雨宮さんは「私の心をずっとざわつかせていることがある」と考察を続ける。島田さんも渡辺さんも一人暮らしだった。「私も40代・独り身。経済的に頼れる人など誰もいない単身フリーランスとして生きてきた。もちろん子どももいない。両親は幸い存命だが、高齢で北海道在住。2人の弟も北海道で、ともに家庭を持つ身」ーー。

「単身女性である自らの今後」に急激な不安が押し寄せた時、今度は「中高年シングル女性の生活状況実態調査」が雨宮さんの目に飛び込んできた。

就労率は84.6%。正規職員は44.8%、非正規職員は38.7%、自営業が14.1%(非正規の51.4%は「正社員の仕事につけなかった」としている)。非正規の52.7%、自営業の48.6%も年収200万円未満。非正規の84.1%、自営業者の67.3%が年収300万円未満。回答者の86.1%が「主たる生計維持者」だという。3人に1人は「50万円未満」の資産しかない。

貧富の格差が広がり、国民の多くの暮らしは「危機」と隣り合わせだ。テレビでおなじみの大女優や皇室ジャーナリストでさえも明日はどうなるかわからない。隣国から飛んでくるミサイルよりも自国の経済失政のほうがはるかにリアルな「危機」なのだ。

雨宮さんが年明けに上梓した『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)は、これからのニッポンをたくましく生き抜く道筋を示した一冊である。同社の「14歳の世渡り術」シリーズとして出版されていることからみて、これからの世代にとって「生活保護」の仕組みを知り、苦しい時は抵抗感なく活用することは、自らの身を守るために不可欠であるということだろう。

雨宮さんが同書の「はじめに」につづった呼びかけは、衰退国家・ニッポンに暮らす多くの若者の心に響くのではないか。

例えばあなたはこれから先、学校を出て、あなたが定年を迎えるまで絶対に潰れない会社に就職し、決して大きな病気をせず、なんのトラブルにも巻き込まれず怪我もせず、会社をクビになるような失態も犯さず、また心を病むほどのパワハラを受けても決して会社を辞めず、いついかなる時も自らの稼ぎのみで生活し、定年後は年金と貯金のみでやりくりし、死ぬその瞬間まで「誰にも1円も世話にならずに」生を全うする自信があるだろうか。

この問いかけにたじろがない人は、恵まれた家庭に生まれた「上級国民」か、よほどの「自信家」あるいは「楽天家」であろう。

雨宮さんは同書の「おわりに」で、自分では親を選べないことが「親ガチャ」と呼ばれていることになぞらえて、自らが暮らす自治体によって生活保護が受けられたり受けられなかったりする理不尽な現状が「役所ガチャ」と呼ばれていることを紹介し、「『役所ガチャ』に外れたら死ぬしかない。そんな社会でいいのか?」と問いかける。

そのうえで、貧困は「親ガチャ」と深い関係があり、貧しい家庭に生まれたことで高度な教育を受けられず低賃金で不安定な仕事にしか就けない「貧困の連鎖」を指摘。「『親ガチャ』でハズレを引いたと思っても、そんなことに関係なく学べて、自分の力を存分に伸ばせる社会」にしていくことこそ、大人たちの最低限の責任だと訴えている。まさにこれこそ政治の使命であろう。

ところが、この国では世襲政治家3世が首相を務め、息子を首相秘書官に起用し、その息子が父親の外遊に同伴して公用車で観光・ショッピングをするという「縁故」「公私混同」がまかり通っている。首相はエリート官僚だった父の海外赴任に同伴してニューヨークで過ごした小学生時代に「マイノリティーの経験をした」と胸を張る頓珍漢ぶり。こんな首相に「親ガチャ」に外れて貧困に転落した人々の痛みがわかるはずがない。だからこそ今の経済状況下で「増税」をたやすく言い出すことができるのだ。

政治が「上級国民」の既得権を守るばかりで、貧富の格差が世代を超えて受け継がれる「階級の固定化」をただすどころか助長している。ここにニッポンから活力を奪って衰弱させた最大の原因がある。「生活保護」の権利を堂々と主張して行使するのは、一市民が理不尽な政治に自力で対抗できるひとつの手段である。


2月17日(金)19時から東京・池袋で開かれる塚田ひさこ豊島区議の「おしゃべり会」に、雨宮さんと一緒にゲストとして招待されました。

塚田さんは香川県立高松高校の先輩。日頃からツイッターを通して素敵な区議さんがいるなあと注目していましたが、お会いするのは初めて。楽しみです。よだかれんさんも参加します。参加無料です。

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