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岸田首相と麻生副総裁の久々のサシ会食に注目が集まるも関係修復は困難〜麻生・茂木・岸田の3頭政治は崩壊、完全決裂までの時間稼ぎ

岸田文雄首相と麻生太郎副総裁の関係は修復されるのか、さらに悪化するのか、永田町の注目を集めている。

岸田首相は2月20日夜、麻生氏と久しぶりに二人だけで高級ホテルの和食店で会食した。岸田首相が裏金事件を受けて麻生氏に無断で岸田派(宏池会)解散を表明して派閥解散ドミノを誘発し、派閥存続にこだわる麻生氏が激怒した直後の1月21日夜に「両者の和解」を演出して以来の「サシ会食」である。

前回会食以降も両者の関係は冷え切ったままだ。存続を決めた麻生派と茂木派は孤立し、とりわけ茂木派は派閥離脱者が相次いで壊滅状態にある。麻生氏がポスト岸田の一番手に用意してきた茂木氏は次期総裁レースから転落した。

麻生氏は9月の自民党総裁選で岸田首相の再選を支持するかどうかはわからないと周辺に漏らすようになり、岸田派に所属していた上川陽子外相を露骨にポスト岸田に持ち上げ、岸田首相を牽制した。これに対抗し、岸田首相は麻生氏と長年敵対している古賀誠元幹事長(宏池会の前会長)や菅義偉前首相(無派閥)らとの連携を強めている。

岸田政権を支えてきた主流3派体制(麻生派、茂木派、岸田派)は崩壊し、麻生氏はキングメーカーの座から滑り落ち、岸田首相は派閥解散ドミノでによって自民党全体の7割に達した無派閥議員を束ねて総裁再選を狙う戦略に転換したといえるだろう。

麻生氏は岸田政権の生みの親として君臨し、岸田首相を官邸から自民党本部にたびたび呼び付け、茂木氏を同席させて大方針を言い渡す「3頭政治」を主導してきた。岸田首相との夜会食にも茂木氏を同席させ、「岸田の次は茂木」とアピールしてきた。岸田内閣の支持率が下落し、9月の総裁選に勝てないとみて、岸田退陣→茂木政権への移行を画策したきたのだ。

派閥解散ドミノを受けて、麻生氏が茂木氏を同席させず、岸田首相と二人きりで会食するようになったのは、明らかに「3頭政治」が終焉し、麻生氏と岸田首相の関係が大きく転換したことを物語っている。麻生氏とすれば、茂木氏をポスト岸田に担ぐことをあきらめ、岸田首相を支持していく姿勢をみせることで、関係修復を目指しているということだろう。

とはいえ、政治家同士の信頼関係はいったん崩れると元に戻すのは容易ではない。再び掌を返されるのではないかという疑心暗鬼を払拭できないからだ。

今回のサシ会食は、麻生氏にとって、いまなお岸田首相との接点を維持していることを永田町にアピールすることで、キングメーカーから滑り落ちたことによる遠心力が強まることを避ける意味がある。裏を返せば、その程度の意味しかなく、二人が縒りを戻すことは困難だろう。完全決裂まで時間を稼ぎ、その間にポスト岸田候補を絞り込む戦略とみていい。

一方、岸田首相にとっては、麻生氏と関係修復するメリットはほとんどない。「派閥存続にこだわる長老」であり「上川外相を『このおばさん』と呼んだ古い政治家」である麻生氏と関係修復しても、世論受けは悪く、自民党内の支持拡大も期待できないからだ。

サシ会食に政治的意味があるとすれば、これから菅前首相らと連携を強めるにあたり、「まだ麻生氏とは完全には切れていない」とアピールすることで足元をみられないようにする程度であろう。

岸田首相が麻生氏と距離を置いたまま、総裁選前の解散総選挙を断行して勝利すれば、麻生氏は完全に孤立することになる。麻生氏としては岸田首相による早期解散・総選挙だけは回避したいところだ。だが、サシ会食をしたところで岸田首相を制止することはできず、両者の関係は岸田優位で当面は進むだろう。

岸田首相が総裁選前の解散総選挙を思いとどまるとしたら、内閣支持率が低迷し続ける場合である。麻生氏はスキャンダルのリークを含め水面下でさまざまなかたちで政権を足を引っ張ることで、衆院解散を阻むという対抗手段に出る可能性もある。

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