自民党で唯一、派閥存続を宣言した麻生太郎副総裁が窮地に立っている。ライバルの菅義偉前首相が擁立する小泉進次郎氏が自民党総裁選の本命に浮上。麻生氏には有力な対抗馬がなく、ここでやぶれれば菅氏にキングメーカーの座を奪われるばかりか、10月解散総選挙で「脱派閥」のシンボルとして、政界引退を迫られる恐れがあるからだ。
政界最高齢の二階俊博元幹事長(85)はすでに裏金問題を受けて次期総選挙への不出馬を表明した。麻生氏は9月に84歳になる。ともに派閥を率いてきた二階氏とともに政界引退に追い込まれれば、「脱派閥」を進めて自民党は変わったと10月解散総選挙でアピールすることが可能だ。
進次郎氏の父・小泉純一郎氏は首相時代、中曽根康弘・宮沢喜一の元首相二人を政界引退に追いやった。進次郎氏が父の政治手法を踏襲する可能性は高い。
麻生氏が政界引退を回避するには、総裁選で進次郎氏を倒すしかない。とはいえ、進次郎氏に対抗できる有力な候補者はいない。
そこで麻生氏が考えたのは、候補者の大量擁立で乱戦に持ち込み、第一回投票で進次郎氏が過半数を獲得することを阻止し、決選投票で逆転する作戦だ。
麻生氏は8月27日の麻生派研修会で、派閥の一員である河野太郎氏を原則支持するものの、他の候補の応援も容認するという総裁選方針を決定した。河野氏を全力で支援するというよりは、「進次郎つぶし」の手駒の一つとして扱うというわけだ。
麻生氏はこの研修会で、河野氏が3年前の総裁選に麻生氏の反対を振り切って菅氏に担がれて出馬したことを念頭に、「河野太郎は出馬表明している。3年前に比べたら出来が良かったなあ」と語った。そのうえで「同じ釜の飯を食ってきた河野太郎を同志として、しっかり応援していきたいものだと思っています」と河野支持の姿勢を見せつつ、「今から色んな方が手を挙げられるだろうし、そういう方々と仲が良かったという方々もいっぱいいらっしゃる。一致結束弁当みたいに縛り上げるつもりは全くありません」とも述べ、派閥のメンバーが他候補を支援することを容認した。
茂木派からは茂木敏充幹事長、岸田派からは林芳正官房長官や上川陽子外相が出馬することも容認。さらには若手代表として小林鷹之氏が出馬することも麻生派重鎮の甘利明氏を通じて側面支援し、大量出馬による乱戦を後押し。第一回投票ではそれぞれがしのぎを削ることを認める一方、決選投票では「進次郎包囲網」をつくって結束するシナリオである。
このシナリオが実現するには、①進次郎氏が第一回目で過半数を獲得せず、決選投票にもつれ込む②河野、茂木、林、上川、小林のうち誰かが2位に食い込むーーこの2点が不可欠だ。
だが実際には石破茂元幹事長や高市早苗経済安保担当相が2位に食い込む可能性もある。
石破氏はかつて麻生内閣の農水相を務めながら真っ先に麻生おろしに動いたことで麻生氏の恨みを買った。高市氏は安倍晋三元首相に前回総裁選に担がれ、安倍支持層に絶大な人気があるものの、麻生氏とは距離がある。
この二人を「進次郎包囲網」に加えることができるのか、この二人のどちらかが2位に食い込んだ時に麻生氏が決選投票でこの二人に乗れるのか、さらにはそのときに「2位以下連合」の結束を維持できるのか。
麻生シナリオが成功するには数々の障壁を乗り越える必要がある。