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麻生か、森山か──自民党「キングメーカー」決戦の行方

自民党総裁選の前倒しをめぐる攻防は、単なる石破政権の存続か否かを超えた、党内権力構造の大転換を告げている。84歳の麻生太郎元総理と、80歳の森山裕幹事長。ともに80代に差しかかる「元総理」と「影の総理」がキングメーカーの座を争い、最後の頂上決戦に挑んでいる。

石破退陣を迫る麻生か、石破続投を狙う森山か。勝敗の行方は、日本の政局の針路そのものを左右する。


麻生vs森山──浮沈を繰り返すキングメーカー争い

自民党において長年「キングメーカー」と呼ばれてきたのは、麻生太郎と菅義偉のふたりの元総理だった。

安倍政権期、麻生は副総理兼財務相、菅は官房長官として二人三脚で政権を支えつつ、主導権を争った。安倍晋三総理がその均衡をとることで、憲政史上最長の政権を築いたのは周知のとおりである。

だが、安倍退陣後の総裁選で勝利したのは菅だった。二階俊博幹事長を味方につけ、岸田文雄や石破茂を退けて総理に就任。麻生の影響力は一時的に後退した。

その後、菅退陣と岸田政権誕生で再び麻生が浮上。副総裁として権力中枢に座を占め、菅は非主流派へと転落した。

しかし両者はともに、岸田退陣後の総裁選で敗北を喫する。麻生が推した高市早苗は決選投票で石破に敗れ、菅が推した小泉進次郎も第一回投票で失速。両者が後退した隙をつき、石破政権で「影の総理」にのし上がったのが森山裕である。

国対委員長、選対委員長、総務会長と要職を歴任してきた森山は、野党とのパイプを武器に、少数与党下の国会を取り仕切った。その存在感は、幹事長就任を機に一気に拡大し、ついには「影の総理」と評されるまでに至った。

麻生が退陣を迫り、菅が続投支持を避けた背景には、この森山台頭への危機感がある。


前倒しをめぐる駆け引き──森山の勝負手と麻生の結束

森山が石破続投を画策するのは当然だ。参院選惨敗後、幹事長辞任をほのめかして時間を稼ぎつつ、総裁選前倒しの是非を党則に基づいて確認する手続きに持ち込み、石破おろしの勢いを一旦そいだ。

その間に世論の空気は変化する。旧安倍派や麻生派による「石破おろし」批判が逆に反発を招き、内閣支持率は回復。石破続投を支持する声が反対を上回った。

森山はここで一段踏み込む。前倒しの賛否確認は「賛成者のみ署名を持参」「賛成者の名前だけ公表」とするルールを宣言。要職にある議員には「辞めてでも賛成するのか」と突きつけ、締め付けを強化した。

対する麻生は派閥結束を固め、旧岸田派の取り込みを進める。岸田は石破支持に回った過去を持つが、森山に主導権を奪われた不満を募らせており、動き次第では麻生側に軸足を移す。実際、副大臣や政務官の一部が「辞任してでも賛成」と表明し、反主流派の勢いは増している。

読売新聞の調査によれば、342人中、前倒し「賛成」は128人、「反対」は33人。残る181人は態度未定。過半数172人に達するにはあと44人必要だが、未定組の動向は流動的であり、森山の圧力が奏功する可能性もある。


第一ラウンドの帰趨──石破続投か、退陣か

もし過半数に届かず前倒しが否決されれば、石破は党内手続きで正式に信任される。残る任期2年間は「石破おろし」が事実上封じられ、森山の圧勝となるだろう。森山は幹事長職を後進に譲る形で影響力を維持し、政権運営を裏から操るシナリオが現実味を帯びる。

一方、過半数に達して総裁選が実施されれば、石破は出馬断念を迫られる可能性が高い。森山は小泉進次郎を擁立し、菅と連携。麻生は高市や茂木らから候補を一本化し、反主流派をまとめあげられるかどうかに勝負がかかる。分裂すれば森山優位、結束すれば麻生勝利──まさに「政局の頂上決戦」だ。


少数与党国会と「ポスト石破」シナリオ

ただし、勝敗が決しても課題は山積する。衆参とも与党は過半数を割り、政権運営には野党との連携が不可欠だからだ。

森山は立憲民主党との大連立を構想。菅・進次郎ラインは日本維新の会との接近を志向する。麻生は国民民主党をターゲットにしてきた。

さらに周辺勢力への働きかけも活発化している。麻生は参政党代表と会談し、「極右」と批判される同党を自らの陣営に引き込む構えを見せた。森山は「チームみらい」と会談し対抗。党内にとどまらず、国会全体を巻き込んだ多数派工作が展開されている。

石破続投か、退陣か。その先に控えるのは「ポスト石破」をめぐる争いであり、キングメーカー決戦の勝敗が次代のリーダーを決定づけることになる。


結び──最後の政局ゲーム

自民党総裁選前倒しをめぐる攻防は、単なる手続き論ではない。麻生太郎と森山裕、二人の老練なキングメーカーが党の未来を賭けて激突する、最後の政局ゲームである。

勝つのは、麻生か、森山か。それとも、思わぬ第三の潮流が台頭するのか。
9月8日、その天秤は大きく傾くことになる。