高市早苗氏の“奇跡の大逆転”は、政界の歯車を一気に逆回転させた。進次郎政権誕生を前提に動いていた各勢力の思惑は総崩れ。新政権の連立相手探しが、再び振り出しに戻った。
維新との蜜月を演出してきた菅義偉副総裁と森山裕幹事長が失脚し、キングメーカーに返り咲いたのは麻生太郎副総裁だ。そして麻生氏が長年築いてきたパイプの先にいるのが、国民民主党である。
維新シフトは白紙に
進次郎敗北の衝撃は、真っ先に維新を直撃した。維新代表の吉村洋文知事は8月、進次郎氏の大阪万博視察に同行し「改革派」と持ち上げるなど、総裁選期間中に蜜月ぶりをアピールしていた。菅氏は自公維3党連立を構想し、森山幹事長や財務省出身の木原誠二選対委員長を要に水面下で準備を進めていた。財務省にとっても、減税を掲げる国民民主党より、歳出削減を掲げる維新との連立の方が「計算できる」選択肢だった。
橋下徹氏、吉村知事の掲げる「身を切る改革」は財務省の緊縮路線と親和性が高い。維新側も副首都構想で合意できれば連立入りに前向きで、吉村氏を総務大臣として入閣させる案まで浮上していた。だが、進次郎敗北で状況は一変。麻生氏の復活により、菅ラインは完全に途絶えた。
高市氏は奈良で維新と選挙戦を繰り広げてきた宿敵。橋下氏もたびたび高市批判を繰り返してきた。維新関係者からは「高市陣営とは接点がない」「不安しかない」との声が相次ぎ、政調会長の音喜多駿氏も「連立話はいったん白紙」とXに投稿。維新の連立入りは霧散した。
浮上する国民民主党
代わって注目を集めているのが国民民主党だ。
石破政権下では減税政策をめぐり決裂したが、麻生・茂木両氏とは関係を保ってきた。玉木雄一郎代表は茂木氏とYouTubeで共演、榛葉賀津也幹事長は麻生氏と気心の知れた仲。麻生氏は菅氏に対抗する形で国民民主や連合と連携を深めてきた経緯がある。
一時は玉木代表の減税論を公然と批判し、維新重視に傾いた麻生氏だったが、総裁選終盤で高市支持を打ち出して大逆転。直前には麻生・榛葉密会説が永田町を駆け巡り、榛葉氏が「漫画を借りに行った」と煙に巻いたのも話題となった。麻生氏が進次郎を見限り、高市と組む可能性がある――その観測は的中した。
国民民主党にとっても、高市勝利は「救い」だった。進次郎政権が誕生していれば、維新が連立入りして国民は蚊帳の外。与党寄りに動けば参政党に批判票を奪われ、野党色を強めれば立憲と差別化できないという板挟み状態だった。麻生・茂木ラインの復権で、国民民主党は再び連立レースの先頭に立った。
連立交渉の行方
ただし、国民民主党の掲げる減税政策をそのまま受け入れるのは容易ではない。財務省は猛反対、麻生氏自身も一度は減税論を否定している。玉木代表としては、所得税減税の実現が連立入りの最低条件。これを譲れば党の存在意義が揺らぐ。
臨時国会は10月15日召集予定だが、日程変更の可能性も浮上している。高市政権はまず自公連立でスタートし、補正予算協議を通じて国民民主党の協力を取り付け、年末に正式合意――そんなシナリオも囁かれる。玉木代表の財務相就任案も取り沙汰されるが、財務省は猛反発。麻生氏が官僚機構を押さえ込めるかどうかが焦点だ。
高市政権の支持率が上がれば、減税を一部譲歩しても連立入りは容易になる。逆に低迷すれば、国民民主党は政策保証なしに連立入りできない。連立に踏み切れば後戻りはできず、政権批判票を失うリスクも高まる。玉木代表は当面、高市政権の出方を見極める構えだ。
立憲と公明の思惑
一方、立憲民主党の野田佳彦代表は、石破政権と大連立を模索していた。幹事長に財務省寄りの安住淳氏を起用し、石破・森山ラインとの接点を保っていたが、進次郎敗北でその目算は崩壊。連立レースの先頭は国民民主、次いで維新。立憲は高市路線と水が合わず、連立入りの余地はほとんどない。
ただし、公明党が高市政権に不安を示している点は注目に値する。斉藤代表は高市氏との会談で「政治とカネ」「靖国参拝」「外国人政策」への懸念を伝え、連立継続を明言しなかった。麻生氏は「公明嫌い」で知られ、自公関係の見直しを模索しているとの観測もある。公明が国民民主と接近し、麻生氏に対抗する可能性も否定できない。
高市政権の誕生で、永田町の連立構図は完全にリセットされた。維新か国民か――麻生・玉木ラインが握る連立交渉の行方が、年末の政局を大きく左右することになる。