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麻生太郎が描く「高市内閣」青写真──茂木・林・進次郎を並べた人事に潜む深謀遠慮

「次の総理は高市か、玉木か」――首班指名を前に、永田町の緊張は最高潮に達している。
だが、自民党内ではすでに“次の内閣”の話が飛び交っているという。

外務大臣に茂木敏充、総務大臣に林芳正、防衛大臣に小泉進次郎――。
読売新聞が10月14日に報じたこの人事構想を、政治関係者の誰もが麻生構想を受け止めた。首相が誰になるかも決まっていない時点で、人事構想を練り上げることができるのは、“キングメーカー”麻生太郎くらいであろう。
人事権を握るのは、首相でも官房長官でもない。麻生なのだ。
たとえ高市政権が誕生しようと、玉木政権になろうと、「人事は俺が決める」。
読売報道は、その麻生構想が“リーク”されたと見るべきだろう。


■ 人事報道、二重の狙い

麻生がこのタイミングで人事情報を流した理由は二つある。

ひとつは、野党共闘が崩壊すると確信したからだ。
立憲・維新・国民の三党に加え、公明党まで「玉木雄一郎への投票もあり得る」と方針転換したことで、一時は「野党4党連合による政権交代」シナリオが現実味を帯びた。
しかし麻生は、水面下で維新と国民の動きをつかみ、両党が最後までそろって立憲と組むことはないと踏んだ。「これで高市政権で行ける」―そう判断した麻生は、いち早く新内閣の青写真を描き始めたのである。

もうひとつの狙いは、自民党内の造反封じだ。
「人事は始まっている」というメッセージを流せば、議員たちは誰が入閣するかに関心を移し、首班指名での裏切りは減る。
読売報道は、麻生による“心理戦”でもあった


■ 茂木外相、再起の布石

麻生は、高市の両脇を茂木と二人で固めるつもりでいる。幹事長は麻生派が取り、官房長官は旧茂木派に割り振るつもりだ。
茂木敏充は、決選投票で高市を支持し、見返りに外務大臣のポストを希望している。
かつてトランプ政権との貿易交渉で辣腕を振るった茂木にとって、外交は最も得意な舞台。外務大臣として成果を挙げ、再び総裁選に挑む足場を築く狙いがある。茂木は官房長官に、高市と近い旧茂木派の木原稔を推した。

立憲・維新・国民・公明党が結束して高市では勝てそうにない場合、麻生は高市に代わって玉木を擁立し、野党を分断することを想定していた。その場合、高市は副総理兼外務大臣で処遇するしかない。
ただ、茂木の外務大臣人事が固まったということは、麻生が「野党4党連合は不発」と読み切り、高市で逃げ切れると判断していることの証左であろう。
国民が立憲に寄れば維新が離れて自民に寄り、維新が立憲に寄れば国民が離れて自民に寄る。
両方が立憲と組むことはない――麻生はそう見ている。


■ 林総務相は「維新封じ」の象徴

最大の見どころは、総裁選の敗者組の林芳正と小泉進次郎の扱いだ。
総裁選で林を推した石破、岸田、菅、森山といった面々は完全に失脚。党三役(副総裁・幹事長・総務会長)は麻生派が独占し、主流派の座は旧茂木派旧安倍派、小林陣営で固められた。

それでも林を総務大臣として閣内に入れるのは、非主流派の総裁候補を閣内に取り込み、動きを封じ込めるためだ。
「野に下らせるより、閣内で封じ込める」――政敵を最前列に置いて動きを止める。

しかも総務大臣というポストが曲者である。
本来、維新との連立が成立していれば、吉村洋文・大阪副知事を総務大臣に抜擢し、副首都構想を進めるシナリオがあった。林の起用は「維新連立はないぞ」という牽制球だろう。首班指名で維新の歩み寄りを誘う一手ともいえる。

さらに麻生は、副首都構想の処理を林に押しつけ、維新からの猛烈な要求の矢面に立たせる役割を担わせようとしている節もある。
財務大臣の席を空けているのも意味深だ。国民民主党との連立が実現した場合に備え、玉木雄一郎を迎え入れる余地を残している。


■ 小泉防衛相で「取り込み完了」

小泉進次郎には防衛大臣の椅子が用意された。
本人は農水大臣として「コメ増産政策」を続けたかったはずだが、麻生はあえて外した。石破政権時代の政策を次々に覆す構えだ。

農家に不評だったコメ増産を軌道修正し、農村票を奪い返す狙いもある。
高市政権は少数与党。麻生は年内の解散総選挙で自民単独過半数を狙う。そのためには、農村の反発を放置できない。

小泉を防衛相に抜擢することで、若手有望株としてのキャリアを積ませ、同時に“菅・森山ライン”から切り離す――これが麻生の計算だ。
小泉にとっても悪くない話だ。将来の総理候補としての修行の場になる。


■ 麻生人事の本質:支配の継続

茂木を外務に、林を総務に、小泉を防衛に――この三つの人事を貫く共通点は、「全員、麻生の掌の上」にあるということだ。

高市が首班に選ばれたとしても、実権は麻生が握る。
玉木政権が誕生しても、麻生が裏で糸を引く。
いずれにしても、麻生太郎の時代はまだ終わらない。

読売の人事報道は、麻生が描く“次の支配体制”の予告編だ。