高市政権の“生みの親”は誰か。
この問いに、永田町で異論を挟む人はほとんどいない。答えは、麻生太郎その人である。義理の弟の鈴木俊一を幹事長に据え、自らも副総裁に返り咲き、自民党の実権を掌握した。まさに“麻生独裁”と呼んでも差し支えない布陣を敷いた。
ところが最近、この麻生太郎が高市政権に不満を募らせているのではないか、という観測が永田町に広がりはじめた。高市外交は評価する一方で、積極財政を掲げる大型経済対策には眉をひそめている―そんな空気が漂っているのだ。
高市・麻生関係は盤石なのか。
それとも、目には見えない亀裂が走り始めているのか。
この一点こそが、今後の政局を決定づける最重要ポイントである。
大型経済対策への“冷や水”
現在85歳、国会議員で最高齢の麻生太郎は、高市政権で副総裁に復帰したとはいえ、表舞台に頻繁に立つわけではない。高市総理と直接会う機会も限られ、麻生派の会合での言葉や、義理の弟・鈴木幹事長の動きから真意を推し量るしかない。
その“少ない言葉”が、永田町では過剰に解釈される。
アンチ高市派はそこに「麻生離反」の兆しを読み、高市支持派は否定に回る。どちらも自分に都合よく麻生発言を使っているにすぎない。裏を返せば、曖昧さを武器にした“キングメーカーの戦略”が健在である証拠だ。
転機となったのは11月13日の麻生派会合での発言だった。
高市総理が打ち出した総額21兆円の大型経済対策について、麻生氏はこう言い放った。
「お金を使わなくても大きな効果を生む政策、例えば規制改革などもしっかり議論してほしい」
積極財政色の強い経済対策に、真っ向から冷や水を浴びせた形だ。
財務省はもともと高市総理を警戒してきた。片山さつき財務相、城内実経済財政相という積極財政派の布陣は、財務省から見れば“包囲網”である。消費税減税を封印させた裏には麻生氏の存在があり、財務省にとって麻生太郎は唯一の“抑えのカード”でもあった。
麻生発言は、財務省の意向と自身の不満が重なったものとみられる。
片山・城内ラインが幅を利かせる高市経済運営は、麻生氏の目には看過しがたいものなのだ。
維新連立という“誤算”
次に麻生氏が動いたのは11月19日の講演。
ここでは維新との連立に対し、いきなり厳しい姿勢を示した。
麻生氏はこれまで国民民主党との連携を軸にしてきた。一方、宿敵である菅義偉前総理は、公明党や維新との関係が深い。麻生氏が高市総裁誕生後に真っ先に手掛けたのは、公明党切りだった。公明を連立から外し、国民民主を新たな相手に迎え入れる――これが麻生構想だった。
だが、国民民主は連合の反対で連立入りを断念。
高市総理は維新との連立に舵を切らざるを得なかった。
麻生氏にとってこれは“計算外”だった。菅氏の影響力が残り、麻生独裁に穴が開いた形だ。
それだけではない。維新が求める比例50削減に対して、鈴木幹事長が強硬姿勢を示し、「小選挙区と比例合わせて45削減」案で押し返したのも、麻生氏の意向が色濃く反映されている。
つまり麻生氏は、
「維新の思う通りにはさせない」
という強いメッセージを発しているのである。
講演では同時に、こうも述べた。
「こういった内閣を生んだ以上、育てていかねばいかん」
高市政権を産み落としたのは自分だ、と強調しつつ、
①維新排除と解散総選挙
②選挙後の国民民主との再接近
――という政局構想を温めている可能性が高い。
官邸突撃と“引きこもり総理”批判
11月27日、黒いワンボックスカーで官邸に乗り付けた麻生氏の姿は、永田町に衝撃を与えた。睨みつけるような表情で総理執務室へ向かう姿は、まさに“直談判”の雰囲気だった。
高市総理は就任後、政治家や財界人との会食が一度もない。
「飲み会が苦手」というスタイルを総理になっても貫いている。
だが永田町の常識では、会食は政治運営の潤滑油だ。
麻生氏自身がその象徴であり、かつては高市氏に「もっと人脈を広げろ」と助言してきた人物でもある。
会談はわずか15分。内容が深く踏み込んだものだったとは考えにくい。
しかし退出時の麻生氏はどこか満足げで、直後の派閥例会では高市総理の討論を評価してみせた。
政策面での不満はあれど、政権運営の根幹では高市総理が“麻生を立てる姿勢”を示した――そう受け止められる。
対中外交と“あえて蒸し返す”真意
12月3日、麻生氏は高市総理の台湾有事に関する発言を全面擁護した。
「言われるぐらいでちょうどいい。何が悪いのか。大変喜ばしい」
中国の反発が高まり、高市総理自身が一歩引いたタイミングで、あえて火に油を注ぐような発言をした。この狙いは何か。
①高市政権を自ら支えるという強い意思表示
②高市総理が対中外交で軟着陸することへの牽制
いずれも排除できない。
はっきりしているのは、経済・外交・連立運営――どれをとっても麻生太郎は現状に満足していないという事実だ。
そして年末の国会は定数削減法案をめぐり緊迫し、解散総選挙が視野に入る局面を迎える。麻生氏が「そろそろ本格参戦するぞ」と宣言したも同然である。
麻生太郎85歳、政局の中心に立ち続ける
麻生太郎は、まだ枯れていない。
むしろここからが“麻生政局”の本番だ。
高市政権の行方を左右するのは、総理本人ではなく、生みの親・麻生太郎の胸中かもしれない。