政治を斬る!

これは自民・立憲の大連立への布石だ!国会の花形・衆院予算委員長に立憲民主党の安住淳が就任した背景を読む〜当面の主役は国民民主党、年明け通常国会は国民と維新の競り合いに、けれども政局の本命は自民・森山幹事長・立憲・安住氏・財務省の強力な三角同盟

自公与党(221議席)が総選挙で過半数(233議席)を割ったものの、野党はバラバラで、立憲民主党(148議席)中心の野党連立政権は誕生せず、政権交代は実現しない。

11月11日召集の特別国会で行われる首相指名選挙で、日本維新の会(38議席)と国民民主党(28議席)は第一回投票でも決選投票でも立憲民主党の野田佳彦代表には投票しないことから、石破茂政権が自公少数与党政権として存続する。

少数与党政権は脆弱だ。いつ内閣不信任案が可決されてもおかしくはない。当面は国民民主党との政策協議で譲歩を繰り返しながら、予算案や法案を成立させていく方針だ。

国会は国民民主党ペースで進む。国民の玉木雄一郎代表は、①政策活動費の廃止や旧文通費の全面公開を盛り込んだ政治資金規正法の再改正を年内に実現、②所得税の非課税枠を拡大して「103万円の壁」を年末の予算編成・税制改正で撤廃、③同じく年末の予算編成・税制改正でガソリン税を減税ーーの3点を優先する構えで、自公与党はこれらを大幅に受け入れざるを得ないだろう。

日本維新の会は総選挙の敗北を受けて、12月1日に代表選を実施することになった。馬場伸幸代表や藤田文武士幹事長は出馬しない意向を表明しており、吉村洋文・大阪府知事が有力視されている。これから自公与党とどう向き合っていくのか、野党第一党の立憲とは連携するのかといった路線は、新体制が固まるまで定まらず、当面は政界の主役を国民民主党に譲ることになろう。

維新の新体制が固まれば、自公与党は国民民主党頼みの国会運営を転換し、国民と維新を天秤にかけて競わせる方針に転じる可能性が高い。国民が強硬姿勢に出てくれば、維新との政策協議を優先し、維新を引き込むかたちでの過半数獲得を目指す道もあるからだ。維新の陣容が固まるまでは国民に低姿勢で向き合いつつ、できるだけ議論を先送りして政策面の譲歩を極力減らしたい考えだ。

年明け以降は、自公与党が維新と国民のどちらかを引き込んで連立政権の枠組み拡大を狙う政局が続く。もっとも、維新も国民も来夏の参院選前に連立入りすれば、参院選で大逆風を浴びて惨敗する可能性が高い。当面は連立入りに慎重にならざるを得ず、個別協議を通じて政策を実現することで「実績」をアピールしていくとみられる。

連立の枠組み拡大は、来夏の参院選以降に持ち越される公算が高い。

来夏の参院選さえ終われば、当面は国政選挙がない。もちろん、衆院で自公の過半数割れが続く限り、政権は安定しない。与党が過半数を回復するには、解散総選挙を断行するか、連立政権の枠組み拡大するしかない。

連立政権の枠組みを拡大する場合に誕生するのは、自公国連立か、自公維連立か。現時点ではなかなか読みにくいが、実はもうひとつ忘れてはならない可能性がある。自公与党と立憲民主党の大連立だ。

11日召集の特別国会では、首相指名選挙に先立って、衆院の人事が決まった。自公与党が過半数を割ったことを受けて、17の常任委員長ポストのうち、8つの委員長ポストが野党に割り当てられた(立憲6、維新1、国民1)。総選挙前の野党は2(いずれも立憲)だったから、国会の勢力図は大きく塗り変わったことになる。

なかでも注目を集めているのは、国会論戦の主戦場である予算委員会の委員長が立憲に割り振られ、安住淳・元財務相を就任することだ。

予算委員長を立憲に明け渡した結果、秋の臨時国会でも、年明けの通常国会でも、予算案を自公与党が強行採決することができなくなる。予算委員会は予算の内容を審議するだけにとどまらず、スキャンダル追及の主戦場でもある。野党が閣僚辞任を要求し、応じない限りは予算案の採決を認めないという対抗手段をとれる。この結果、閣僚辞任ドミノが発生して、石破内閣がますます弱体化していくという展開をたどる可能性が十分に予想される。

それを承知で、自民が立憲に気前よく予算委員長のポストを譲ったのは、自民党内で「総選挙に惨敗した石破政権では来夏の参院選は戦えない」という相場観が出来上がり、「石破政権は来春の予算成立まで」で「予算成立後に首相を差し替えて参院選に臨む」という共通認識が広がっているからだろう。つまり、予算成立までは石破政権がボロボロになって内閣支持率が落ち込んでもやむを得ないと開き直っているわけだ。

この衆院人事を主導したのは、森山裕幹事長と坂本哲志国対委員長だ。坂本氏は少数派閥・森山派所属。幹事長と国対委員長が同じ派閥で占めることへの批判を覚悟で起用したのは、国会対策を牛耳りたいという森山氏の強い意向のあらわれだろう。

ここで注目すべきは、森山氏と安住氏はかつて与野党の国対委員長として水面下協議を重ね、ツーカーの関係にあることだ。どちらも財務省と親密な関係を築いている。自民党の森山幹事長、立憲の安住予算委員長、そして国会日程を裏で描く財務省の強力な三角同盟が出来上がったのだ。

そして安住氏は立憲の野田代表とも密接な関係を築いている。民主党政権で野田氏が財務相から首相へ駆け上った後、財務相を受け継いだのが安住氏だった。ふたりは大物財務族として、立憲の緊縮財政路線を主導してきたのだ。

森山幹事長が立憲に予算委員長ポストを開け渡すにあたり、安住氏の起用を条件としたことは想像に難くない。表向きは国民や維新との政策協議を進めつつ、裏では立憲とのパイプを維持し、野党三党を競わせながら少数与党国会を乗り切る老獪な戦略である。

森山幹事長も、石破政権を来春の予算成立後も存続させることを早々とあきらめ、少数与党として予算案を成立させるための野党引き込み策を最優先にしているわけだ。

だが、事はそれで終わらない。森山幹事長としては、国民や維新よりも、立憲の安住氏を信用している。来夏の参院選後の連立枠組みの拡大をにらんで、最も重視するのは、安住氏との地下水脈であろう。

だとすれば、参院選後の連立枠組み拡大の本命は、自公国連立でも、自公維連立でもなく、立憲との大連立ということになる。森山・安住・財務省の強力な三角同盟が地ならしをするとすれば、その先のあるのは消費税増税を旗印とした自公立の大連立だ。

安住氏の予算委員長起用は、大連立への布石であろう。そこまで政局を先読みした人事を描けるのは、今の自民党では森山幹事長しかいない。石破首相はすでに政局の主導権を失っている。森山・安住・財務省の暗躍に注視していく必要がある。

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