立憲民主党の枝野幸男代表と共産党の志位和夫委員長が23日夜、東京・新宿駅前で市民団体が主催した選挙イベントに参加した。記念撮影が予定されていたため、枝野氏が衆院選中に志位氏と並んで街頭で「野党共闘」をアピールする唯一の機会になるとみて、マスコミが駆けつけた。私も現場を見に行った。
イベントは午後6時すぎに始まり、選択的夫婦別姓や貧困問題、原発問題、地球環境問題などに取り組む市民が次々に登壇して「野党共闘」候補への投票を訴えた。続いて、れいわ新選組を代表し比例東京ブロックから出馬している渡辺てる子氏がマイクを握り、社民党の福島瑞穂氏のコメントが代読され、そして志位氏が登壇した。
志位氏は立憲民主党と「限定的な閣外協力」で合意したことを報告し、全国289の小選挙区の7割以上で野党候補を一本化したと強調。「ここまできたからには全てで野党が勝利するために全力をあげて頑張る決意だ。ここまで本気の共闘体制をつくって総選挙を戦うのは戦後の日本の歴史で初めてだ」と野党共闘を強くアピールした。
志位氏の演説が終了したのは午後7時半。枝野氏はこの時点でまだ会場に到着していなかった。司会者は市民らでマイクをつなぎ、枝野氏の到着を待った。志位氏もイベント最後に予定されていた記念撮影に備えて会場で待機していた。会場には秋の夜風が吹き込み、かなり冷え込んでいた。
枝野氏が到着したのは午後7時45分ごろ。イベント終了時刻まで残り15分を切っていた。枝野氏はただちに登壇してマイクを渡され、「私たちには覚悟と準備ができている。党派を超え、今の政治をまっとうにしなくてはならない。いざという時に支えになる政府を取り戻さなければならない。あなたの力が政治を動かす。私たちと一緒に変えよう!」と声を張り上げた。しかし、「野党共闘」に触れることはなかった。
異変が起きたのはこの後だ。枝野氏はマイクを渡すとすぐさま壇上を降り、党職員やSPに囲まれてそそくさと会場を立ち去ったのである。記念撮影を予定していた主催者側は「枝野さん…」と呼びかけたが、その声を黙殺してあっという間に姿を消してしまったのだった。
会場にいた私も呆気にとられる展開だった。枝野氏が共産党を敵視する連合に配慮し、志位氏とのツーショットを撮られることを避けたのは明白だった。この様子は共同通信が「枝野氏、志位氏らとの撮影応じず」とのタイトルで配信した。私もその記事を紹介するかたちでツイートで発信した。
野党共闘をアピールした志位氏の演説終了後に姿を現し、マイクを握って野党共闘に触れないどころか、志位氏と一緒に写真撮影することも拒んで立ち去るーーこの光景を「野党共闘」と言えるのだろうか。
投開票日まであと1週間。これでは「野党共闘」が盛り上がるはずがない。全国各地で野党4党の候補者や支援者が懸命に手を取り合っているのに、「野党共闘の首相候補」であるはずの枝野氏がこのような態度をとるとはーー。これでは仮に政権交代が実現しても「連立政権」の合意形成を円滑に進められるとは思えない。
れいわ新選組の山本太郎代表への冷淡な態度に続いて、共産党の志位委員長へのあまりに非礼な枝野氏の態度に、私は呆然としてしまった。
立憲民主党の幹部たちは、枝野氏のこのような態度を黙認しつづけるのか?
ここまでくると、枝野氏個人の資質の問題を超えて、野党第一党としての姿勢が問われるのではないか?
今の立憲民主党は誰も枝野氏を諌めることができない「独裁体制」なのか。それとも「裸の王様」なのか。
枝野氏は立憲民主党内の異論は抑え込む一方、連合には頭が上がらないのか。
かなり心配になる。
この「新宿騒動」の2日前、連合の芳野友子会長は記者会見で「立憲と共産の距離感が縮まっていることについて様々な地域から報告が来ており非常に残念だ」と牽制し、立憲民主党に対して共産党との連携に慎重な姿勢を改めて伝える考えを表明していた。枝野氏が連合の意向に強く配慮したのは間違いないだろう。
連合は近年、大企業系労組の影響力が強まり、政府に接近する姿勢が目立つ。今回の衆院選では、トヨタ労組出身の野党候補として愛知11区で当選6回を重ねた古本伸一郎氏が公示直前に不出馬を表明。トヨタ労組が与党へ接近していることを印象づけた。連合は一方で、共産党を含む野党共闘に強く反発し、立憲民主党を揺さぶっている。
枝野氏の党運営は連合への配慮と共産党との選挙協力の間で揺れ動いてきた。衆院選投開票まであと1週間という勝負どころで腰の定まらない選挙戦略が露呈してしまった格好だ。
連合の「反共産」姿勢が露骨に現れているのは東京12区だ。この選挙区は自民党と立憲民主党が候補者擁立を見送り、公明党の岡本三成氏(前職)と共産党の池内沙織氏(元職)が激突する注目選挙区である。ここで連合東京は与党の岡本氏支援を表明しているのだ(このほか維新新顔の阿部司氏が出馬)。
公明党にとって東京12区は首都圏の小選挙区で唯一、公認候補を擁立している最重要選挙区だ。政界引退した太田昭宏前代表の後継候補として比例北関東ブロックから転身してきたのが岡本氏。河野太郎氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏ら自民党の大物が続々と応援に駆けつけ、「自公連立の象徴」の選挙区となっている。
これに対して、共産党は太田氏に過去4回挑み続け、前々回衆院選で比例復活当選し、前回は太田氏に3万票差まで迫った元職の池内氏を擁立。21日には2009年衆院選東京12区で太田氏を破った立憲民主党の青木愛参院議員(比例)が応援に入り「野党共闘の象徴区」と訴えた。
池内氏はSNSを駆使した選挙戦を展開し、接戦にもつれこんでいる。野党が「自公連立の象徴」である東京12区を奪取すれば、「野党共闘」を象徴するとともに、自公の連携にくさびを打ち込むことができる重要選挙区といっていい。
ところが、枝野氏ら立憲民主党の幹部が東京12区に応援に入る気配はない。共産党を敵視し、公明党の岡本氏を支援している連合への配慮が色濃く出ているといえよう。自公与党の「共闘」に比べて野党の「共闘」が脆弱であること、さらには連合による「野党共闘」の分断を象徴する選挙区になってしまっている。
話を戻そう。枝野氏と写真撮影に臨むため枝野氏の演説終了まで30分間も待機した志位氏を置き去りにした枝野氏の立ち振る舞いは、多くの共産党支持者を落胆させただろう。強く憤った支持者もいるに違いない。投開票日を1週間後に控え、それは「野党共闘」に大きな爪痕を残す出来事だった。
枝野氏が挽回するには、東京12区へ池内氏の応援に駆けつけるしかないのではないか。野党共闘に対する共産党支持層の不信感を取り除いて信頼関係を修復するには、連合の反発を覚悟し、東京12区で街頭に立ち、池内氏への投票を訴えるという具体的行動を通じて「野党共闘による政権交代」への本気度を示すしかない。
もうひとつ提案がある。れいわの山本太郎代表も東京12区に応援に入ったらどうだろう。選挙最終盤に東京12区で、枝野氏、志位氏、山本氏が一緒に立ち並べば、「野党共闘」の再結束を土壇場でアピールできるのではないか。
野党は投票率を引き上げるため自らニュースを作り出さなければならない。雨降って地固まる。ピンチこそチャンス。東京8区をめぐる枝野氏と山本氏の確執、選挙イベントの写真撮影をめぐる枝野氏と志位氏の行き違いという「マイナス」を「プラス」に転じる格好の舞台が東京12区ではないだろうか。枝野氏が求心力を回復する最後のチャンスかもしれない。