参院選が始まり、SNSには各党の訴えが飛び交っている。その中で面白いのは、選挙活動に参加する一般の人々の姿だ。
例えば、以下のツイッター。私はこれを見て、思わず顔がほころんでしまった。皆さんも、ぜひ、見てみて。
ポスターを貼り終えた後の笑顔。なんて素敵なこと。「また、初めての経験ができた!」というコメントのチャーミングなこと。選挙に参加するのは楽しいのである。
スポーツで考えてみたらわかりやすい。
例えば、プロ野球の巨人vs阪神。客観中立の立場で一球一球を凝視し「次はインコースのシュートだろう」「ここでカーブを投げるべきではなかった」と分析して面白いのはよほどの野球オタクである。そうでもなければすぐに飽きてしまうに違いない。
巨人vs阪神はどちらか一方に肩入れするから興奮するのだ。ひいきのチームが勝てば喜び、負ければ悲しむ。だから面白い。さらには一人で家で観戦するより、みんなで応援する方が楽しい。できれば甲子園球場の右翼席で黄色いメガホンを振り回して声援を送る方がもっと楽しい。そして憎きジャイアンツに敗れたら、みんなで泣いて悲しむのだ。
帰りにオレンジのメガホンを振って大喜びしている集団をみたら、ムカつくだろう。だが、逆の夜もある。肩を落として帰るオレンジのメガホンたちの背中を見ると、「昨日は俺たちが悲しかったんや!」と思いつつも、ちょっと共感もわいてくる。そういうものだ。
サッカーのW杯が世界各地で盛り上がるのは、自分の国を熱狂的に応援する人が世界中に多いからだろう。
選挙も同じである。
客観中立の立場で「誰が強いか」「どの政党が躍進するか」と分析して楽しいのは選挙オタクくらいだ。そうでもなければすぐに飽きてしまうだろう。そのような分析記事を食い入るように読むのは、特定の候補者や特定の政党を応援している人々だ。つまり、選挙に参加している当事者たちである。彼らは夢中で贔屓の政治家や政党を応援する。夢中になればなるほど、選挙は面白い。
つまり、選挙もスポーツと同様、客観中立の立場より、特定の政治家や特定の政党を応援する方が俄然面白い。そして、観戦しているだけより、ポスターを貼ったりビラを配ったりして参加した方が、遥かに面白い。
選挙を楽しむ最も手っ取り早い方法、それは、ひいきの政治家や政党をつくり、熱心に応援して、参加することだ。
そして大衆が選挙を楽しみ、さらには熱狂し、大挙して参加することを最も恐れているのは、政権与党である。だから「政治はエンターテインメントではない」「選挙はお祭りではない」などと真面目な顔で言って、盛り下げるのである。
マスコミの選挙報道はまさに真面目なフリをして選挙を盛り下げている。
選挙が始まると、客観中立の建前をより強固にし、各政党の主張を無批判・無解説に並列的に並べ、候補者たちの主張をただ垂れ流す。これほど面白くないものはない。そんな選挙報道に釘付けになるのは、よほどの選挙マニアや選挙陣営の当事者だけだ。これでは投票率が上がるはずがない。
マスコミはわざとつまらない選挙報道をしているとさえ思う。選挙報道を盛り上げると、投票率が上がって、政権与党への不満が高まる。つまらない選挙報道を垂れ流すことこそ、最大の与党支援策なのだ。
マスコミは「偏った報道をしている」と抗議されたり批判されたりすることを極度に恐れている。政治的な対立やトラブルに巻き込まれたらロクなことはない。選挙報道はミスなく、トラブルなく、つつがなく終えることが、出世への近道なのだ。
かくしてマスコミは「客観中立」の建前に逃げ込み、選挙報道はただただ各党の主張を垂れ流すばかりの無味乾燥とした内容になる。選挙への関心は盛り上がらず、投票率は伸び悩み、組織票に勝る政権与党が勝ち続けるのだ。
私は朝日新聞在職中からこのような選挙報道にずっと疑問を抱いてきた。
ジャーナリズムは本来、自らの支持政党を明確に掲げ、その上でデータと論理を大切にしながら、なぜその政党を支持するのかを読者に明快に訴え、論争を繰り広げ、最終判断は読者に委ねるという態度が必要だと思う。読者はさまざまな主観的な報道を比較しながら、最も共感した政党に一票を投じる。その方が、マスコミが「これが客観中立報道だ」とドヤ顔で押し付けてくる情報を鵜呑みにして投票先を決めるより、よほど民主的であり、面白い。
みんなでワイワイガヤガヤ騒ぎ立て、意見を戦わせ、泣いたり笑ったりしながら参加すれば楽しいのだ。
私はそのように考え、今回の参院選ではれいわ新選組を応援することにし、応援動画を送った。いわば観戦しているだけではなく、参加してみたのである。これに対して賛否両論を戴いたが、それらの反応も含めて、やはり観戦しているだけよりも参加した方が面白いと改めて思った。
私の応援動画を通じて選挙への関心が広がり、自分も参加してみようと思う人が増えるとしたら、それこそ民主主義のあるべき姿ではないか。そのような民主主義を育てていくことこそ、政治ジャーナリズムの一番の責務ではないのか。
皆さんもぜひ、ひいきの政治家、ひいきの政党を作って、応援してみてほしい。澄ました顔で選挙を傍観しているよりもきっと面白いはずだ。
冒頭のツイッターの動画に話を戻そう。「また、初めての経験ができた!」というのは、チャーミングな文章である。初めてのポスター貼り。本当に楽しそう。
お恥ずかしながら、私は選挙ポスターを貼ったことがない。動画に登場する彼女に先を越されてしまった。