政治を斬る!

江藤農水相「コメ発言」が招いた石破政権最大の危機――更迭ドミノと参院選直前の大政局

「コメは買ったことがない。支援者の方々がくださるので、売るほどあります」――。

この一言が、石破政権を大きく揺るがす引き金となった。

江藤農水大臣が、米価高騰に苦しむ国民を前に放ったこの“暴言”は、18日に佐賀県での講演で飛び出した。SNS上では即座に批判が噴出。物価高で苦しむ庶民の暮らしをよそに、政権中枢にいる人間がこうした発言をすることへの怒りと不信が広がった。

江藤大臣は農水族議員の代表格。農水省や農協との癒着関係の中で生きてきた政治家だ。彼が推進してきた減反政策によって、米の生産量は減り、日本は慢性的なコメ不足に陥った。それが米価高騰の根本原因とされる中、自らの責任を棚に上げ、平然と「買ったことがない」と言い放つ姿に、国民の怒りが沸点に達するのも当然だ。

さらに翌日には「ウケを狙って強めに言った」と釈明し、火に油を注ぐ形となった。19日夜には石破総理から官邸に呼び出され、厳重注意を受ける。だがその後、「辞職すべきならそうする覚悟だったが、反省して職務に励めと言われた」と語り、再び“自爆”。さらには「我が家の食料庫は2畳の広さしかありません」などと釈明を重ねるたびに、国民との認識のズレが浮き彫りになった。

この時点で、更迭は避けられない情勢だった。

石破総理の“擁護”と政権の迷走

ところが、石破総理は当初、江藤大臣の続投を容認する姿勢を示した。国会終盤を控えたこの時期に閣僚を更迭すれば、「辞任ドミノ」に発展し、政権崩壊のリスクがあると警戒したためだ。

石破氏自身、かつて農水大臣を務めた農水族。政官業の“ムラ社会”の一員として、江藤氏への情実も働いたのだろう。だがそれ以上に、参院選直前の政局的計算が働いたことは間違いない。

野党はバラバラ。立憲民主党の野田佳彦代表は、トランプショックを理由に内閣不信任案の提出に慎重姿勢を示していた。石破総理としては、野党が結束できないうちに、この騒動をやり過ごせると見込んでいた節がある。

だが、その目算は甘すぎた。

野党5党が結束、「江藤更迭」で一致

21日、立憲・維新・国民・れいわ・共産の野党5党の国対委員長が「江藤更迭」で一致。事態は一気に緊迫した。もし石破総理が更迭を拒めば、不信任案が提出され、少数与党である石破内閣がこれに耐えられる保証はない。

石破総理の誤算はここにある。野党が分裂状態にあるという楽観論は、江藤発言による世論の怒りの前に吹き飛ばされたのだ。

さらに、森山幹事長と立憲民主党の安住淳衆院予算委員長の間で、参院選後の「自民・立憲大連立構想」が水面下で動いていることも、事態を読み違えた要因のひとつかもしれない。

しかし、ここまで世論の怒りが高まれば、どの野党も黙って見過ごすわけにはいかない。

野党が結束すれば、石破総理には打つ手がない。ついに、江藤大臣の更迭に踏み切らざるを得なくなった。

これが少数与党国会の現実だ。

発言を翻し続ける石破首相 信頼失墜へ

いったんは更迭を否定しながら、野党と世論の圧力に屈して一転更迭へ――。

この迷走ぶりは、石破政権への信頼を根本から揺るがすものとなった。これまでも重要局面での発言が二転三転し、「何を言っても信じられない」という評価が定着していた石破総理。今回の対応で、その印象は決定的となった。

後任には小泉進次郎氏を起用し、イメージ刷新を図ろうとしているが、果たしてそれで国民の怒りは収まるのか。

いよいよ、石破政権の命運は尽きつつある。

焦点は立憲の内閣不信任案提出に

では、ここから政局はどう動くのか。

カギを握るのは、立憲民主党の野田佳彦代表だ。内閣不信任案を単独で提出できるのは、野党第一党の立憲のみ。51人以上の議員が必要なためだ。

不信任案が可決されれば、石破内閣は衆参同日選に打って出るか、内閣総辞職を選ばざるを得ない。

だが支持率は2割を切る勢い。石破総理が選挙に打って出る体力はないとみられる。となれば、内閣総辞職は現実味を帯びる。

次の総理を選ぶには、与党が野党のいずれかと手を組む必要がある。だが参院選前に、自公与党の延命に加担する野党が出るか。

立憲がどう動くか。野田代表が「政権交代の引き金」を引くかどうかが、今後の政局の最大の焦点となってきた。