政治を斬る!

高市政権を誕生させた「福井の3人」〜知事の突然の辞任表明で揺れる福井県での講演で語ったこと

福井新聞本社(福井市)に11月27日、講演に招かれた。お題はもちろん政局。ロケットスタートを切った高市政権の行方、とりわけ年明け1月に解散総選挙があるのかどうかが大きなテーマだ。

だが、福井県内にはそれ以上の衝撃が走っていた。この2日前、福井県の杉本達治知事が県職員にセクハラメッセージを送ったことを認め、突然の辞任を表明したのである。

年明け1月に知事選が実施される公算が高い。ひょっとして衆院選と知事選のダブル選挙になるかもしれない。福井新聞社内にも緊迫感がみなぎっていた。

兵庫県の斎藤元彦知事の騒動が大ニュースになった後、自治体トップの去就が大きな注目を集めるようになった。学歴詐称疑惑の静岡県伊東市長も、部下とのホテルで会っていた前橋市長も、すったもんだの末に市長を辞職することになったが、いずれも出直し選挙への出馬に意欲をみせている。

斎藤知事が出直し選挙で大逆転した結果、スキャンダルで辞任に追い込まれても世論の風向きが変われば出直し選挙で復活することができるかもしれないーーそんな空気が自治体トップの間に広がったのだろう。

福井県の杉本知事は知事選への出馬について「考えていない」と述べているが、今後の展開次第では出馬もありうるのではないかという憶測も飛び交っている。

スキャンダルを浴びた場合にいったん職を辞し、有権者に信を問い直すのは、民主政治のもとで政治家のケジメの付け方として間違ってはいない。むしろ選挙のプロセスを経ずに居座るよりも望ましい形といえる。

ただ、選挙にさえ勝てばすべてリセットされるという風潮が広がるのは懸念されるところだ。

まずは杉本知事の動向に注目しよう。


私の講演は中央政界の話が中心だが、今回は「高市政権の誕生は福井抜きには語れない」というテーマで語らせていただいた。

キーパーソンは3人だ。

一人目は、高市早苗総理の夫・山本拓元衆院議員である。高市氏と一度結婚した後に離婚し、再び結婚した経緯は有名な話だ。

山本氏は福井県選出の衆院議員だった。かつては清和会(旧安倍派)に所属していた。自民党の麻生太郎副総裁が総理の時、真っ先に「麻生おろし」に動いた。時はめぐり、麻生氏は総裁選で高市氏を大逆転に導いて高市政権の「生みの親」に、山本氏は日本史上初の「総理の夫」になったのだ。

隣の石川県選出の大物政治家・森喜朗元首相は同じく福井県選出で安倍派5人衆と呼ばれた高木毅氏を寵愛し、山本氏を遠ざけた。山本氏は二階派へ転じ、福井の選挙区がひとつ減った後は高木氏と福井2区の公認争いを演じた。

昨年の総選挙では高木氏は旧安倍派の裏金事件で公認を得られず、ふたりはともに無所属で福井2区から出馬。相打ちのかたちでどちらも落選し、立憲候補が漁夫の利を得たのだった。

高木氏は5人衆でただひとり議席を失い、完全に失脚。山本氏も政治家として失脚したが、「総理の夫」として返り咲いた。


二人目は福井1区の稲田朋美衆院議員である。

高市総理は安倍晋三元首相に引き上げられて総理候補になった。しかし安倍氏は高市氏以上に稲田氏を寵愛していたのは有名な話だ。

高市氏と稲田氏。ふたりは同世代だが、当選回数や政治キャリアでは高市氏が先輩である。

しかし安倍氏や安倍支持者は稲田氏に肩入れした。稲田氏は防衛大臣や自民党政調会長を歴任し、安倍後継の座を手に入れつつあるように見えた。高市氏はどちらかといえば影の存在、二番手以下として扱われてきたといえよう。

それでも高市氏は辛抱して安倍氏への忠誠を尽くし、決して離れなかった。

一方の稲田氏は突如として選択的夫婦別姓やLGBTの問題でリベラル色を全面展開し、安倍氏や安倍支持層の反発を買った。安倍氏は稲田氏を一転して冷遇するようになり、それに代わって高市氏を引き上げるようになったのである。

稲田氏の変節なしに、今の高市氏はなかったというのは決して過言ではない。


最後は参政党の神谷宗幣代表だ。彼は福井県最西部、高浜町の生まれなのである。

高市氏を総裁選で大逆転させたのは確かに麻生氏の力だが、その背景には、参政党が参院選で大躍進したことも見逃せない。石破政権を嫌悪した保守層が「日本人ファースト」を掲げる参政党へ流出した。それを取り戻すには、保守層に人気の高市氏を総理・総裁に担ぐしかないーーそんな危機意識が自民党内に広がっていたのだ。

山本氏、稲田氏、神谷氏。福井出身の政治家3人の目から高市政権を眺めると、ドラマチックだ。

その高市政権は高支持率でロケットスタートを切ったものの、日中関係の悪化でいきなり正念場を迎えた。逆風を吹き飛ばす1月解散に踏み切れるかどうか。そのタイミングで福井県知事選が行われる。同日選挙も十分にあり得る。年末年始、福井政界は熱く燃え上がるだろう。

福井講演は盛りだくさんの1時間半だった。講演前に永平寺を駆け足で参拝することもできた。やはり政治は地方から眺めるのが断然面白い。