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石破総理、参院選「福島外し」の深層――延命のための自己保身が露呈した第一声の地

石破茂総理の参院選第一声の「選挙地」が波紋を広げている。自民党の慣例を破り、「福島」ではなく「兵庫」を選んだのだ。防災重視の姿勢をアピールするためという総理周辺の説明は、果たして本当か。裏にあるのは、石破総理の“自己保身”と“延命”の政治戦略に他ならない。

福島の伝統を覆す「兵庫スタート」

自民党は2012年の総選挙以降、「選挙遊説の第一声を福島から始める」というスタイルを踏襲してきた。東日本大震災と原発事故からの復興を重視する姿勢の象徴として機能してきたこの伝統を、石破総理は今回、突如として覆した。防災重視の象徴として阪神大震災から30年の「兵庫」を選んだというが、その説明は明らかに無理がある。

本当に「防災」が理由なら、昨年大震災に見舞われ、復興が遅れている能登半島や、依然として原発事故の影響が色濃い福島こそが、ふさわしいはずだ。なぜあえて福島を外したのか。結論から言えば「負ける可能性があるから」である。

勝てる選挙区・兵庫へ逃げ込む

兵庫選挙区(改選枠3)では、自民と公明が強固な地盤を築いており、混戦模様とはいえ与党の当選は堅い。維新の地元勢力は知事選をめぐる分裂で弱体化し、泉房穂・前明石市長が野党陣営をまとめきれず、かえって立憲との関係が強調されて「野党バラバラ」の印象を深めている。泉氏を推薦するのは立憲のみで、野党分裂の象徴となった。

このように、自民候補がほぼ当確の兵庫を「第一声」の舞台に選ぶことで、石破総理は自らの「責任回避」に備えたのだろう。

自らが応援に入った選挙区で自民が勝利すれば、「自分の人気は強い」と主張できる。逆に福島で敗れれば、その責任を問われかねない。だからこそ、総理は「勝てる場所」から逃げずに済む選択をしたのだ。

福島は激戦区

福島は、参院選で最重要とされる32の1人区の1つ。しかも、今回は旧安倍派出身の森まさこ氏が裏金問題で地元批判を浴びており、苦戦が予想されている。立憲が擁立する候補と「当落線上」で競り合う状況のなか、石破総理が福島を回避したのは「逃げ」と見られても仕方ない。

被災地・福島で第一声を上げる政治的重みより、自らのダメージ最小化を選んだのだ。これが「国民ファースト」ではなく「石破ファースト」で動く政権の本質を象徴している。

勝敗ラインを操作し、延命に備える

さらに、石破総理は参院選の「勝敗ライン」を「与党で50議席」と設定した。これは非改選議員75と合わせて、参院での過半数をギリギリ維持できるライン。与党改選議席66から16議席減っても「勝利」とするこの設定に、党内からは「甘すぎる」との批判が噴出している。

改選過半数63を割れば、総理退陣が常識。だが石破氏は、自身の政権維持を最優先に、勝敗ラインを“政治的保険”として設定している。昨年の総選挙でも「与党過半数」を掲げながら、その過半数を割っても「旧安倍派のせいだ」として責任を回避し、居座った経緯がある。今回も同様に「逃げ道」を確保しているのだ。

本当に福島を見捨ててよいのか

福島は、今なお原発事故からの復興が道半ばの地域である。そこを第一声から外すことは、象徴的な意味で「国の関心が離れた」と受け取られかねない。しかも、米政策をめぐる議論も参院選の争点になりつつある中、コメどころである福島は、その政策的意味でも重要だ。

それでも石破総理は、福島を回避し、兵庫で第一声を放つ。自民党総裁として、総理大臣として、それでよいのか。防災や復興を政治的ポーズとして利用し、自らの延命に都合のよい舞台だけを選ぶ姿勢は、到底リーダーの資格に値しない。