立憲民主党と国民民主党が「ガソリン税の暫定税率廃止法案」を共同提出した。日本維新の会はガソリン税減税そのものには賛成に姿勢を示す一方、「新年度からの実施は乱暴」として立憲・国民提出の法案には土壇場で反対に転じた。
とはいえ、今国会でいがみ合ってきた野党3党が「ガソリン税減税」に賛成の立場で一致するのはなぜか?これは本当に国民のための政策なのか?それとも政治的な駆け引きなのか?その裏側を徹底解説する。
① 国民民主党の狙い:石破政権と決別し、立憲と“和解”
まずは国民民主党だ。国民民主党はガソリン税減税を以前から掲げており、岸田政権時代から一貫して主張してきた。昨年の衆院選でも所得税減税に加えてガソリン税減税を訴え、大躍進を遂げた経緯がある。
しかし、少数与党の石破政権が維新の求める高校無償化を受け入れ、予算案への賛成を取り付けたことで、国民民主党は不要となった。その結果、玉木雄一郎代表や榛葉賀津也幹事長は石破政権との決別を決断し、予算案に反対することに。
一方で、立憲民主党とは元々相性が悪い。立憲の野田佳彦代表は増税派であり、国民民主党には立憲との合流を拒んだメンバーが集まっているためだ。しかし、石破政権と決裂した以上、参院選を前にして、立憲との関係を修復し、選挙協力の可能性を模索する動きが出ている。
ただし、維新との関係は複雑だ。維新の前原誠司共同代表は元々国民民主党を飛び出して維新に合流した人物であり、石破首相とも親しい。国民民主党と維新の共闘は難しい状況にある。
② 立憲民主党の狙い:参院選へ増税色を消す!
野党第一党である立憲民主党は、今国会で完全に埋没している。所得税減税を掲げる国民民主党、高校無償化を推進する維新の影に隠れ、支持率も低迷。このままでは夏の参院選で苦戦は必至だ。
野田代表は、支持率低迷を意識し、なんとか存在感を取り戻そうと必死だ。先日の党大会では「国会を動かすのは政党の支持率ではなく、党首間の信頼関係でもなく、議席の数だ」と強調し、政党支持率で追い抜かれた国民民主党や、前原共同代表と石破首相との個人的関係で自公与党に急接近した維新へのライバル心を露わにした。
しかし、実際のところ、参院選での野党共闘は困難だと野田代表自身も認識している。減税で勢いづく国民民主党が候補者一本化に全面的に応じるとは考えにくく、維新も1人区で共倒れを回避するために予備選を実施することには前向きながらも選挙協力や共通公約づくりに踏み込むつもりはない。結局、参院選では野党3党が激しく議席を争う「競争関係」が続く可能性が高い。
立憲民主党がガソリン税減税に賛同したのは、減税政策を掲げることで「増税政党」というイメージを払拭し、支持率低迷を防いで、参院選で自党の議席をひとつでも増やす狙いがある。そうしなければ、参院選後に視野に入れる自民党との大連立協議で発言力が弱まってしまうからだ。
③ 維新の狙い:与党寄り批判のガス抜き
維新は、予算案に賛成する見返りとして高校無償化を獲得し、存在感を増した。しかしその反動で「与党の補完勢力」との批判が広がっている。このままでは参院選で支持を失いかねない。
そこで、ガソリン税減税には賛成の立場を示すことで「自公与党の子分ではない」というアピールをする狙いがある。
もっとも、自公与党に従って予算案に賛成する以上、立憲と国民のガソリン税減税法案に賛成するわけにはいかなかった。じわじわ与党に組み入れられていく可能性が高い。
④ 本当に法案は通るのか?
そもそも維新が賛成しても、この法案は衆院で可決する見通しは立っていなかった。
現在、3党の合計議席数は214議席。過半数233まであと19議席足りない。野党系無所属の数人が賛成に回るとしても、不足分を補うためには、れいわ新選組(9議席)や共産党(8議席)の協力が必要だ。
しかし、共産党は維新や国民民主党と対立しており、簡単には賛成しない可能性が高い。れいわ新選組も独自路線を取っており、動向は不透明だ。
仮に衆院で可決しても、参院では自公与党が過半数を握っているため、自公が反対すれば成立の見込みはゼロだ。
今回の法案提出は、あくまで参院選に向けた政治的アピールに過ぎない。それもまた維新が土壇場で反対に転じたひとつの口実になったといえる。
⑤ 参院選への影響は?
今回のガソリン税減税で、立憲と国民は賛成で歩調をあわせたものの、これは戦略的な“利害の一致”に過ぎない。実際には、参院選での競争関係は続く。
特に国民民主党は、支持率の上昇で勢いに乗っており、1人区での予備選を受け入れるつもりはない。
一方、立憲民主党は、野党第一党の座を守るために、できる限り議席を増やしたいと考えている。
ガソリン税減税で歩調をあわせたのは、物価高に苦しむ国民のためというよりも、それぞれの参院選対策のためだ。しかし、野党が本当にバラバラのままでは、結局漁夫の利を得るのは自民党だ。
野党第一党の立憲民主党が「参院選後の自民との大連立」というよこしまな思惑を捨て去り、野党各党に大幅譲歩して野党陣営をまとめあげ、野党連立政権をめざすという覚悟を固めない限り、野党共闘の実現は難しい。